262話 その考えに及ばない
「という訳で確認してきます‼︎」
ビシッと敬礼を決めて、走り出そうとしたところで。
「待って下さいお姉様! 魔法陣が正常だった場合は、下手に消さないほうが良いですの!」
ガシッと手首を掴まれて、つんのめった。
おう……危うく転ぶかと思ったよ?
「でも善は急げだからー! まずあるの確認しないとだからー!」
「それでも1人ではいかせられないですのー! ここを動いたらお兄様に怒られますのー‼︎」
ぐぐぐ……と、綱引き状態で動けない。どっちも必死である。
私はこんなこと終わらせて、早くみんなに帰って欲しいから。
リリちゃんは、多分まだ私の事を心配してるのと、アルの言いつけだからかな?
でも大会明日だよ!
みんなでるんだよ!
早く終わらせて早く寝ないと‼︎
それに!
「みんな天井まで見に行けないでしょー⁉︎ クロに乗って、ちゃっと行って帰って来るってー‼︎」
むむー! としながら、リリちゃんを説得する。
闘技場の高さはとっても高い。
前に例に野球場出したけど、本当にそんな感じなのだ。
東京ドームの高さはたしか、56メートルとかだったから、かなり高いのだ。
えーと、建物6階分くらい?
まぁ寮と変わらないくらいだけど、1番の違いは足場がないところだよね。どこにも立つとこがないから、ずっと飛んでないといけない。
まぁ一瞬くらいなら、風の魔力が強いみんななら飛べるかもだけど……滞空が大変なんだよ。
それはあの高さじゃ難しいでしょ。
「でもお姉様だけだと、間違いかも分からないですのー!」
「そこは勘に頼る‼︎」
「あの魔法陣は元々、ドラゴンの復活を妨げるためのものですのよ! なくさなくていいなら、そのままがいいですの‼︎」
ぐぬぬ……それは一理ある。
でも女神様の言葉を忘れてはおるまい!
「でもー! 女神様が書き換えられてるって言ってたじゃんー‼︎」
なんでこんなに行かせてくれないのよー‼︎
その時、いきなり首が絞まった。
「ぐぇっ」
「おいバカ姉。さっきまでしてた『運命の強制力』の話、忘れたのかよ。バカだな」
「ば! バカって2回言った‼︎」
こんな仮にもレディの襟を、犬のリードのように引っ張り、罵倒して来るのはーー1人しかいない。
「セツ! お姉ちゃんにもして良い事と悪い事があるのよ!」
「姫様の絶対的命令を無視する、バカ姉に言われたくない」
「くっ! 言い返せない‼︎」
噛み付かんばかりの勢いで振り向いたが、ミジンコを見るような目でそう返された。
でも襟はダメだよ!
首絞まるから‼︎
危ないんだからね‼︎
「セス君! 来てくれてありがとうございます!」
「……あの状態でオレを呼ぶって、なかなか豪胆だよね『フィーちゃん』」
姉の襟に指を突っ込んだまま、フィーちゃんにお礼を言われて、セツはそっちと話し始める。
というか、そうか。
フィーちゃんが呼んだのね。
その発想は私が逆の立場ならないな……。
さすがは主人公、恐れを知らない……と勝手に感嘆する。あと、暴れても首が絞まるだけだから、大人しくした。早く離してくれ。
「ふふっだって、セス君なら来てくれるでしょう?」
そう言ってフィーちゃんは……天使のような笑みを浮かべる。
ただの天使だな?
天使のような天使だわ?
大天使フィリエルかな?
私がそう思うくらいなので、当然首を動かして見上げれば……まぁ、セツもイチコロですよね。顔、赤いよ?
「……はぁー。マジでズルいわー。さすがヒロインって事か?」
悩ましく手を当てて言ってます。まぁ隠れてないけど。
でもなんか、リリちゃんが冷ややかな目をしてる事は、なんとなく分かる。
でも私も同意だよ!
「そーよね。わかる! 分かるぞ弟よ‼︎ フィーちゃんの可愛さ、打ち震えるよね‼︎」
「……うるさい姉は、黙っててくれませんかねぇ?」
「酷いっ⁉︎」
全力で同意してあげたのに‼︎
手の隙間から! 睨みながら‼︎
ドスの効いた声でそう言われたんですけど⁉︎
尻尾を振っていた犬が、怒られてしゅんとなるような気分だよ。ガーンときたよ!
そうしてしょげていると。
「……魔法陣を消すなんて、反逆行為だぞ。ドラゴン復活させようとしてるのと同じなんだから、もっと慎重になれよ。せめて1人で突っ走るな。誰か巻き込め」
不満そうな顔で、咎めるようにそうに言われた。
あ、そっか。
1人で行動だと、怪しまれちゃうのか。
そんな事まで考えるようになったのか……と、弟の成長に少し感動していたら。
「そうです。国家反逆罪となれば、私も庇えません。……国外追放どころの話ではありませんよ」
「……アル」
気配もなく……いきなり腰を引き寄せられた。これにより、首は解放される。
完全に逃げる犬を、捕まえる図です。
飼い主に捕まりました。
もう脱走の意思ないのにー。
ちょっと口をへの字にしてそちらを見れば、困ったように微笑まれる。
「1人で動かれてしまえば、すぐに助けてあげる事も出来なくなります。自立心と正義感が強いのは、良い事ですけれど……私たちが心配しなくて良いように、もっと頼って欲しいです」
数回、瞬きをした後……。
「善処は、するけど……」
「それは否定に聞こえるのですが?」
にっこり聞かれて、ギギギギ……と首ごと視線を逸らす。
すると、顎に手が伸びてきて……。
グイッ
「私に頼って甘えて、護らせて欲しいんです」
「ダメですか?」と……正面から切なそうなその声と表情を向けられ、イエローダイヤの瞳が覗く……。
は、破壊力っっ‼︎
うわ待って! 顔あっっつ‼︎
ていうか! 手! 手‼︎
ハート射抜くどころか、ハートブレイクなんですけど⁉︎
視線から逃げたのに、思わぬ返り討ちに合いドギマギしていたが、周りの視線に気付いてもっと慌てる。
「ちょ! やめて! 勘違いしそうになる‼︎」
「勘違い? 何をですか?」
「いやごめんやっぱり忘れてっ‼︎」
とりあえず手を引き剥がそうと、腕に両手で力をかけるが。
「うぐぐ……⁉︎ う、動かない⁉︎」
「ははは、可愛らしい力ですね」
「嘘でしょ⁉︎ どこにこんな力がっ⁉︎」
ふぬぬぬ……っ! と、変な声を出しながら、力んでみるも全然外れない‼︎
あっちは満面の笑みのままなのに‼︎
信じられない思いで眉を寄せてアルを見るも、微笑まれて終わり。
こ、これ、私がぶら下がってもムリでは⁉︎
こんな所で成長を感じるなんて……!
この体勢も恥ずかしいし、大人の男性感を感じてそれも恥ずかしいし、でも外れないし。
途方に暮れ、私は泣きたくなってくる。
「うー……頼れる所はもう頼ってるのにー!」
「もっと頼って甘えて欲しいんですけど」
「だって加減が分からないんだもんー‼︎」
完全に心の叫びが出ていた。
必死だったから流れで言ってしまったが、アルが少し目を見開いたので、あ、ヤバいと思った。すこし血の気がひいて冷静になる。
私の中には『自分でなんとかする』か、『出来ないから頼る』か、『好かるために演技する』しかないのだ。
その中でそれほど大変じゃなく、私じゃにっちもさっちもいかない事は、今まで頼んでる。
あとはわざと頼るのとかはしてた。
でもこんなのは、バレても良い事なんてない。
「加減ですか……そんな事、考えなくて良いのでは?」
「イヤだよー! 迷惑かけたくないし、ダメ人間にもなりたくないもんー‼︎」
意外そうに尋ねられ、反論する。首が振れないから、ギュッと目を瞑りながら、感情を載せて手でペチペチ腕を叩く。
上手く頼れるのが良いのは分かる。
分かるけど!
だけど、そういう生き方をしてきてないのだ。
できないものはできない、ムリッ‼︎
「人間はそんなに簡単に変われないのっ‼︎」
キッと睨みながら、唇を突き出す。その勢いで頰もふくらむ。
私だって、生きにくい生き方してるのは、重々承知なのだ。変えようとした事もある。
でも、もがいても変わらないものは変わらない……変えられないのだ。
「……あまり可愛い事しないでくれませんか? もしかして私、試されてます?」
「なんでっ⁉︎ どこにもそんな要素なかったよねっ⁉︎」
面白くなさそうに言われて、衝撃を受けた。
あれ⁉︎
もしかして話噛み合ってないですかね⁉︎
違う話でもしてますかね⁉︎
不安になって、その顔を覗き込むと。
「……大丈夫ですよ。できないなら練習しましょう? たしかに1人で変わるのは難しいですけど……」
一呼吸おいて、にっこりと。
「人が絡めば、簡単に変われますよ……君が私を変えてくれたみたいに、ね?」
それはそれはーー大層妖艶で含みを持つような……美しい笑顔で、笑った。
いつもご愛読頂きありがとうございます!
大変恐縮ではございますが
体調不良と私生活の忙しさにつき、
更新回数を減らさせて頂きます。
ひとまず夜の更新のみにします。
すみません!
でも、完全に休んで未完のままになるのが、
一番怖いなぁと思うので‼︎
一日一回は更新に努めますので、
何卒ご理解いただければと思います!
いつも呼んでくださる皆さんのおかげで、
かろうじてやめずに済んでます!
ありがとうございます!
余裕できたら感謝祭とかはします‼︎
恐れ入りますがご了承お願い致しますー‼︎(土下座)




