257話 予知と予言の盲点
「これも本題だったわよ! あんた、神の言葉を軽く考えすぎなんじゃないの⁉︎」
す、すみません……。
いやぁ、元が日本人のせいか、神様ってある意味八百万というか……うーん、すごいんだけど実感わかないというか? 身近というか。
1番身近な神様も、フレンドリーな女神様だし……。
ぶっちゃけ自分よりすごいものは、神だろうとなんだろうと、すごいなーという感想以外浮かばない。私はアバウトなのだ。
いや。空間魔法だけは、気を付けようと思ってはいるけどね。
変な人にも変な神にも関わりたくない。
だけど、今急ぎの用事かと言われると。
違うんじゃないかな、と思ったんだけど。
信じられない! という顔をされているので、ひとまず謝ってみる。
「あはは……ごめんなさい。女神様の貴重なお時間を頂いているのに、時間取らせるのはどうかなーと、気が急いでしまって」
「……チョコ倍増で許すわ!」
腕を組んだまま、不機嫌そうに……でもこちらをチラッと見てそう言った。
この女神、チョロいぞ! 威厳どうした⁉︎
神へのお詫びが手作りチョコでいいのか⁉︎
まぁ私はいいんだけどね⁉︎
でもこのままだと私が、幼女をチョコで手懐けてるだけ、みたいになってしまう。今の女神様の見た目的に。実際は神を手懐けてるわけだが。
……あれ? もっとタチ悪いな……?
どちらにせよ、よろしくないので!
早いところ話を戻そう。
それでみんなきっと忘れてくれるわ!
「ではチョコ持って行きますので! もう1つの本題を教えてください!」
ニコッと笑って促してみると、「仕方ないわね」と胸を張りつつ話してくれる。今、胸はないけどね……。
「今日中にあのドラゴンの魔法陣、探し出しなさい。あいつに書き換えられてるわ」
その言葉に、空気が張り詰める。
それは、屋上の魔法陣を思い出したからか。
それとも、スライムを思い出したからか。
でもそれより、私が引っかかったのは。
「あいつ、ですか?」
女神様を見つめて、そう問い返す。
私たちの中で、あいつ、という単語を出すなら。
それは今回の悪事を働いている、闇使いだけど……。
女神様と私の間では、違う。
そんな限定的な言葉を使うのはーーかつて言われた、『世界を滅ぼす元凶』。それに他ならない。
「結局光魔法も、持ってるんですか……」
「言ってたでしょ。『まだ変わってないわよ』って。油断しすぎよ」
愕然と言葉にした私に対し、女神様のあっけらかんとした事よ。それでも今回言いに来てくれたのは、それに気付いていなかった、私への忠告なんだろう。
「今日よ。今日中に見つけないと、未来が厄介な方に変わるわ。あんたはもっとこまめに予知使いなさいよ!」
そうため息混じりに言われる。
ぐ、ぐうの音も出ないですが……。
「今日の夜見ようかなーって……」
「その直前になんとかしようもするの、やめなさいよ! 寝る前に気付くんじゃ遅いのよ! 鉢合わせて死にそうだったから、来てあげたのよ‼︎」
怒る女神様に、私は驚く。
いや、驚いてるのは、怒ってる事じゃなくて……。
「私、死にそうだったんですか⁉︎」
「そうよ! 夜気付いて、1人で魔法陣探しになんて行くから! そこで相手に鉢合わせて死ぬのよ‼︎」
え、えええええええ⁉︎
驚きすぎて、呼吸少し忘れたんですけど⁉︎
「……だ、だって私、あの時までは大丈夫じゃ……」
「あんたバカね! それで見た予知はあくまで、『そういう場面がある』っていう予知よ! それ自体があんた自身じゃない可能性、考えなさいよ!」
「えっ」
ちょ、ちょっと待ってほしい!
混乱する思考は、話が飲み込めなくてうまく回ってくれない。
えっえっだって……予知は絶対じゃ……?
「あたし言ったわよね、アイツはその時によって姿が違うと。……あんたに化けるのだってできるし、代わりを作るのも多分できるわ」
「で、でも……」
頭が真っ白なままフリーズしている。
話がまとめられなくて。女神のありがたいお言葉は、右から左へ流れていく。
喉が張り付いたみたいに、言葉も出ない。
「あんたがたとえそれを見たとしても! その予知は、あんた自身か分からないわよ! だってどうやって説明するのよ! 予知で見えるのは俯瞰的な視点からだけでしょ‼︎」
その核心を突く言葉は、心の的のど真ん中に刺さった。
そう、予知はあくまで俯瞰的に。
場面を切り取るような映像でしか見えない。
主観の映像で、見えたことなんかない。
予知予言はーーそうなるように、辻褄が合えばいいのだ。
え、私、それまで大丈夫だと思ってたのに。
もしかして……。
今までも、危なかった……?
クリスティア・シンビジウムが、社会的に死ぬのはたしかにその時だろうけど……。
私自身が死ぬかどうかは。
それだけでは分からないのか。
背中が、凍りそうだ。
「……『死ぬかも』って思った瞬間、あんたの予言は相手に無効化されたのよ。それで私の予知のあんたは死んだ。……もっとよく考えて頂戴。咄嗟の心は思い込みを凌駕するわ」
バッドエンドへの信頼は、私の生をその時まで保証していた。
でも、死にそうな攻撃を目の前にした時。
私の弱い心では……その信頼を保てなかった、ということか。
そりゃそうよ。
だって私、戦い慣れてないもん。
攻撃されたら怖いですもん。
は? もしかしてこれ、無理ゲーでは?
そんな思考に侵食されていると……。
「……死ぬんですか?」
後ろから声がした。




