256話 目をつけられると怖いらしい
受け止めよと言われても……。
そもそも『神の涙』も、不意打ちで渡されたようなものだし、そんな価値があると知らなかったんですけどね……。
そう言っても、知らないのが悪いとか言われそうだし、ここでご機嫌ナナメになられても嫌だ。私だけじゃなくて、みんながいるし。
という訳で、大人しく話を進めるべく、まずは大人しく従うかと口を開いた。
「光栄極まります。しかと肝に銘じます」
胸に手を当てて、淑女らしくカーテシーまで決めたのに。
「はぁ? なんなのそれ? 気持ち悪いからやめなさいよ」
「人がちゃんとしようとした途端これ⁉︎」
眉を寄せて嫌がられた!
酷くない⁉︎
今すっごいちゃんとしてたじゃん‼︎
「今更だって言ったでしょ! あんたがやっても似合わないだけだから、やめなさいよ!」
「ほんとに酷い!」
泣くぞ⁉︎ 私泣くぞ⁉︎
分かってないとか言うくせに!
やろうとしたらすぐコレだよ‼︎
不貞腐れた私は、もうヤケになってぶっきらぼうに尋ねる。
「じゃあ女神様何しに来たんですかー! 怒りに来たんですか⁉︎ 遊びに来たんですか⁉︎ 話進めてくださいよ!」
「あぁそうだったわ。くだらない事に時間をかけすぎたわ。あと、怒りに来たのは半分正解よ」
「えっ」
思わぬ同意が得られちゃったので、私の威勢は削がれた。
え、何? 私怒られるの?
「女神様に対して、何か悪い事しましたっけ?」
思い当たらないかと言われれば……沢山の不敬は思い当たるけど。
でもそのままで良いと言われたからなぁ。
私が首を捻ると、女神様は頭を振った。
「違うわ。これはクロノシアからの伝言」
「……へ?」
その言葉に硬直する。
クロノシアって……時空間の神ですよね?
私、何したの?
「あなたこの間、空間ねじ曲げたでしょ」
「空間ねじ曲げた……?」
落ち着いた様子の女神とその口調に、とりあえず女神様自体は怒ってないと分かり、少し肩の力が抜ける。
けど、空間……空間ね……?
「あ! この前あ……の部屋から自分の部屋に帰れるか、試した時か!」
思いついてそのまま、アルの部屋と言いかけ、言い直した。ヤバいヤバい。寮に侵入してたのバレちゃう。
侵入も悪い事だし。
それにシーナにも言われたのだ……。
「夜這いなんて大胆ですね」って!
もちろんそんな気は全然なかったんだけど!
あの時は寂しがってるから行かなきゃ! しか、頭になかったんだけど‼︎
残念ながら、世間はそう受け取らないらしい。
それはマズい。大変マズい。
王子様にそんな不名誉な噂流せない。
気分は浮気を隠すご婦人ですよ!
アルの名前が誤魔化しが、効く名前で良かったね……。
とりあえずはなんとかなった、よね?
謎の冷や汗をかきながら、にっこり笑顔で誤魔化した。
「そう、それよそれ! 勝手に繋げられたら、空間管理がぐちゃぐちゃになるって、あたしが言われたのよ‼︎ ちゃんと弁えなさいよ!」
ぷりぷり怒られながら、空間管理とかあるのか……と、上の空で思った。なんか大変そうだ。
「ちょっと! 聞いてる⁉︎ あいつ気まぐれで面倒くさがりで、ケチの癖に変態だから、目をつけられると大変なのよ⁉︎ あんたもアイツのおもちゃにされたいの⁉︎」
「え、あの……なんかよく分かりませんけど、おもちゃは嫌です」
どうも女神が私の事を、本当に心配してるようにみえたので、話をちゃんと聞く。
ちゃんと聞いたら、なんか危ないワードが聞こえたので、首を振って答えた。
……そして、好奇心から聞いてしまう。
「というか……おもちゃってなんですか……?」
恐る恐る聞いてみると……面食らった顔の後に、にやっと笑いながら……。
「あいつ、お気に入りは大事にしまっちゃうタイプなの。歴代の勇者とか、コレクションするのが好きなのよ……人形みたいに」
ゾワッ
や、ヤバいぞ!
本気で鳥肌たったぞ‼︎
「まぁアタシは、魂さえ返してくれれば後は知らないけど……目をつけられたくなかったら、気をつけなさいよ。コレクションに、加わりたくはないでしょう?」
ぶんぶん首を縦に振る。
明言されてないけど……それ、アレですよね?
死んだ後とか、フィギュアのように……。
「アイツその為に、わざわざ勇者の肉体が1番いい時で、時止めちゃうのよ。外見だけ。悪趣味でしょう? 良かったわね、私に気に入られといて」
ぶんぶんぶんぶん。
今までにないくらい、女神様に感謝した。
「まぁアイツは美形好きだから、あなたじゃお気に召さないと思うけど」
「オチ! 悲しいオチ‼︎ いや喜んだらいいのか、悲しんだらいいのか分かんないよ‼︎」
あぁでも私が目をつけられたら、私よりも、私の周りが危ないって事ですよね!
この美形集団だもんね!
私の罰の代わりに……なんてことも……。
うわめっちゃ気をつけるわ‼︎
後ろを振り返って、きょとんとしてるみんなを見つめ、とりあえず、空間はもう歪めないと誓った。
「まぁそんな感じで、他の属性の管轄に引っかかるようなのは、やったら他の神から怒られるからね。ま、基本的には時空と光に触れなければ大丈夫よ」
あっけらかんと言ってくれるな!
「それ最初に言いません⁉︎」
「普通は説明いらないのよ。そもそもそんなに力強くないし。属性超越するようなのは、桁違いの魔力を消費するから、本来ならできないの」
呆れ気味に言われるけど、だって知らないじゃん! 私は出来ちゃったし‼︎
「でもこれで、あなたアイツに覚えられちゃったからね? 気をつけなさいよ。亜空間に連れてかれたりしたら、私でも助けられないわよ」
「……えっでも、それ美形だけなんですよね?」
不穏な空気に恐る恐る聞くも、目をそらされる。
「……多分」
「多分⁉︎」
「あの気まぐれなめないでよ! 気に入れば集めたがるのよ! 生きたままなんて連れてかれたら、魂回収もできないんだから! せめて死んでから連れていかれなさいよ‼︎」
物騒な話だな!
女神様は魂さえあれば、転生させられるから良いって考えてるのね……。
神レベルの会話、高度すぎるわ……。
「……えっと……本題コレでしたっけ?」
考えても無駄だと諦めた私は、とりあえずこの件は置いておく事にして、先を促した。




