249話 ちぐはぐな気持ち
「なんで悲しそうなのよ?」
分からない事は聞くしかない。
だから私はそんな表情のブランに、率直に聞いた。
前世ではこの直球さで、「なんで察してくれないの!」と、怒られた事もあったけど……まぁブランだし、大丈夫でしょ。
全てを察するって無理じゃない?
人間には言葉があるんだから、話せば……。
おっと、そういう話じゃなかった。
思考を追いやって、返事を待つ。
「僕ね、クリスティ。嘘は良くないと思うよ」
「……。」
それは一体、どの嘘の事だろう?
私から嘘を取ったら、何が残る?
そもそも子供だって偽っても私、精神年齢みんなより遥かに上だし? それなのにお兄ちゃんとか言って、存在自体痛いヤツですけど。
それじゃなくたってこの闇の魔力だって、嘘の塊みたいなものなのに。
「自分の気持ち、偽らない方がいいんじゃないの?」
なんかよく分からないけど、むかっとした。
それは八つ当たりのような感情だ。
そして多分、私の傲慢で自己勝手な。
その優しさに対する甘えだ。
ブランだけは何も言わないで、何も聞かないで。味方でいてくれたら良かったのにっていう。
「それが何について言ってるのか、私には分からないけど……」
目を閉じて言葉にすると、思っているより自分の苛立ちを感じた。
慌てて少しブレーキをかけるけど、それでも、でかかった言葉はそのまま口から滑り出る。
「私は、私なりに考えてるの。ブランには分からないかもしれないし、優しいからそう言ってくれるんだろうけど、でも……」
目を開けて、その姿を見て、言う。
「私は……私が嘘をつくことで人が笑ってくれるなら、嘘をつき続けるよ。……それしか知らないから。私は私にしかなれない……ブランみたいには、なれない」
自分で言ってて、何言ってるんだろうなーと、心の中で笑えてくる。ポエマーかよ、と。
でもね、嘘だって否定されるの。
私には堪えるんだよ。
特にブランだとさ。
私ね、本当はあなたみたいな、優しい人になりたかったんだよ。昔の話だけど。
でも性格はやっぱり変わらなくて、仕方ないから優しい振りの嘘をついて。積み重なって、全部嘘になっちゃった。
私の中では、嘘は優しさなんだよ?
本当に優しいあなたには、分からないんだろうけど。
だから息をするように嘘をつく。
息をするように闇魔法も使ってる。
闇魔法って、嘘つきを具現化したような魔法だよなって、よく思うんだよね。
都合の良い、よく出来た魔法。
嘘をまことに変える魔法。
バレなきゃ嘘は嘘じゃないから。
でもバレたら嘘って……嘘でしかないよね。
綺麗な人に指摘されちゃうとさ。
余計に目立っちゃって。
……余計に嫌になるよ。
せっかく普段は忘れたフリをしてるのにさ。
そんな自分が嫌いだって事も……思い出しちゃうでしょ?
さて、今。
私はどんな顔をしてるんだろうなぁ?
「……なーんて。ごめんごめん。で、なんの話だっけ?」
嘘つきな私は、そう笑顔で仕切り直して、全部水に流した。ブランは固まってる。
はぁ。すっかり空気悪くなっちゃったね。
「いや……」
「あ! もうみんな終わってるんじゃない? 私たちも戻ろ! ほらほら進んで進んでー!」
言い淀む彼をグイッとひっくり返して、背を押しドアへと進んでいく。
「魔法も解除ー! はい帰ろー!」
そう言いながら、後ろ手でドアも閉めた。
全部あの部屋に置いてきたことにしよう。
そうしよう。
納得してくれないなら、記憶消す。
そんなこわーい思いを抱きながら、みんなのところまでその背を押していく。
「……まぁそういう人間なので、誰かと結婚するつもり、ないからね。安心してね? お兄ちゃん」
悪戯っぽく言ったけど、ブラン困惑してるだろうなーと思った。顔見えないんだけどさ。
いや見たくないの間違いかな。
私も見られたくないしね。
はーやだやだ。
「そちらも終わりましたか……って、何してるんですか?」
アルの声が聞こえて、ようやく押すのをストップした。
「いや、遊んでただけだよ?」
「その割には、ブランドンは顔が強張り気味では……?」
「そうかなー? ねぇブラン、いつも通りだよね?」
腕に手を載せて、覗き込むように笑って聞く。
私とてお嬢様の端くれ。
当然愛らしい演技もできるので。
やろうと思った時だけだけど。
完璧な演技だと思うんだけど、ブランはまだ困り顔だ。そういう顔させたいんじゃないんだけど。
「……ティア、何をしたんですか?」
「うーん、自分でもわかんない!」
「……いつも通りですか……」
アルにため息をつかれて、流される。
まぁいつもの話だから。
変に見えなきゃ良い。
ブランが黙っててくれれば良い。
ただ私は、こういうのじゃ騙せない人がいるのを、忘れていた。
「……ライラック様、後で……後日でも良いので、セス君と私と、息抜きしませんか?」
「えっ」
フィーちゃんの声がけに、ブランじゃなくて私が反応しちゃったよ。
何なのいきなり? しかもセツもなの?
「なんでその3人……?」
「作戦会議です!」
なんの……?
元気な回答に、多少嫌な予感がするのだが、止める手立てがない。私誘われてないし。
……ここで記憶消しても……フィーちゃんに戻されるだけだな……。
危ない犯罪者思考の私は、そう思って説得を断念した。ブランの良心を信じるしかないね。
そうして結局何事もなく。
ただ私とブランがギスギスするだけで、この日の見回りが終わった。もれなく私のせいです。




