24話 心配いりません!
セスのお父様に途中まで付いてきて貰った。
これから向かうのは王族のプライベートスペース彼自身はこれから仕事があるので、そこで別れる。
王宮メイドに案内され、中庭が見える長い廊下を見ながら中央にある噴水を見つめた。
そこであれ池じゃなくて、噴水の一部だったのか!
と、今更ながら思った。
とんだおてんば娘だったもので……仕方がない! ということにしておこう。いや記憶が戻った今も、この世界の知識と教養はあまりないのだけれど。
今は婚約者(仮)がいるのだーーそこを突かれてアルバート王子の印象が悪くなってはいけないので、これからちゃんと学ぼうと思う。
大丈夫、大丈夫!
まだ5歳だから間に合う間に合う!
……多分!
そんなことを考えて歩いていたから、うっかり部屋を通り過ぎそうになった。
セツに引っ張られた。
顔が「ダメだこいつ」と言っている。
ご、ごめんよ弟よ。
部屋に入るなり、なんだかここは他と雰囲気が違う気がした。
なんだろう……?
こじんまり? しているというか……。
なんだか違和感的な?
内装もアイボリーとピンクを基調としていて、良いものなのはわかるけど。シャララ〜ンみたいな、シャンデリアらしいシャンデリアはない……。
良く言えば家のような安心感、悪く言うとお城っぽくない部屋だった。
ちなみに全て城内比なので、一般的には違うと思う。私も一応ご令嬢なので、目が肥えた可能性もある。
その部屋の窓際の席にはお目当の人物。
大きな窓から入る木漏れ日は、彼の明るいブロンドの髪をさらに輝かせる。日差しが反射して煌めく澄んだ瞳は、まるでイエローダイヤのようだ。
天使のように微笑む彼は6歳にして、人々を魅了する要素しか持ち合わせていなかった。
「ようこそお待ちしていましたよ、クリスティア嬢」
神に愛されるってこういう事なんだろうと、出迎えてくれたアルバート王子を見ながら思った。
いや本当にここだけ別次元。
続けて付け足すように「セス殿もようこそ」と王子が言った。その事にはっとして、遠くに飛んでいた意識が戻ってきた。
「突然の訪問、お許しいただきありがとうございます、アルバート王子」
ちょっとお辞儀をする。
そして、ほらセツも挨拶、と隣に目配せする。
「いつも姉がお世話になっております」
と言ってセツが挨拶をした……ってあんた、そんな丁寧な挨拶できたの⁉︎
いつも「こんにちは」ぐらいだった弟が!
成長を目にして密かに感動していると、「なんか文句あるか」という目を向けられた。
ないよ!
衝撃と感動を覚えただけだよ!
いつまでも子供じゃなかったんだと!
「立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
静かに弟の成長に打ち震える私は見えてないのか、王子はそう言ってソファーに案内された。
布張りのほどよく柔らかなソファーは多分シルクだ……。すぐ汚れそうで怖いとか思う私は、そう。ザ・庶民である。貴族に慣れません。
「クリスティア嬢。こうして会いにきてくださってありがたいですが、言ってくだされば伺いましたよ?」
いい笑顔だ。いい笑顔だけど何かを含んでいる笑顔……あぁ、つまり。
怒ってますねー!
返事書かなかった事ですよねー‼︎
ごめんて! 謝るって‼︎
慌てた私は急いで謝る!
「綺麗な百合と一緒にお手紙を頂いているにもかかわらず、お返事できずにすみません……せっかく頂いたので丁寧に返そうと思っていたら、なかなか返せなくなってしまいまして」
連絡なんて、スマホもないこの世界じゃ手紙がもっぱら。
しかも王子から毎日届いていたのだ。
どれかの手紙を返すついでに、一言添えればいい。
つまりはそういうこと。
思ったより、手紙書かずに来たこと怒ってましたね!
ひえー……。信用度が大事なのに、私はやらかしましたね……冷や汗がヤバいぞー!
「私の手紙はそれほど、大したことは書いていなかったでしょう? あなたも感じたことを、自由に書いてくださればいいんですよ」
当然のように言ってくれるけど! そんなことできてたら、前世コミュ障にはなってないんだよなぁ……!
面と向かってならさ?
まだお姉ちゃん補正かかるんですけど。
手紙だともうただの王子様なんだもん……。
自由とは、良いようでいて難しいのだ。
自分で道を決めなければならないが、そもそも道がわからない人間にはどうしていいかわからない。
道を見つけられるだけの知識や力があってこそ。
自由というのは、輝くのだ。
つまりこの世界の知識があまりない私は!
どれが失礼かが判断つかなかった!
だから筆が止まってしまった訳だ。
悪役令嬢なら、それは縦横無尽に筆を走らせたことと思いますが。気を遣わないからね。
けれど彼の意見は。
彼からしたらその通りなのだろう。
私が勝手にプレッシャーを感じているだけだし。
でも不敬になったら怖いっていう気持ちも、察してくれ……。
と、葛藤していたら。
「……そんな風に言われたら、あまりにも一方的に感じると思いますよ。ぽんこつの姉にも問題ありますけど」
……え? あんたどうしたの?
突然口を挟んだ弟に、ぽかんとしつつ目を向ける。
「手紙ってそもそも一方通行に送るためのものじゃなくて、お互いの意思で楽しくやりとりしてこそなのでは?」
「え、ちょ、セツ……」
「アルバート王子だって、今の状況は望んではいないでしょう。失礼しているのは姉ですが、話を聞いてもらえませんか?」
お、おぉ……なんか隣に誰か知らない人でも連れてきたのかしら私……。堂々と意見を述べちゃって。止めようとしたけど、たしかに正論ではある……。
私が思ってたよりこの子は大人だったらしい。
セツの言葉にアルバート王子も思うところがあったのか、瞬きをいくつかしてから話し始める。
「君の言葉は……たしかにその通りです。私もクリスティア嬢をしりたいと思ってしたことですが、やりすぎました」
へ? 知りたい?
私を? 何故? ……あぁ!
「そんなに心配なさらなくても私、いつも百合を見ては思い出していますよ……アルバート様への忠誠を!」
グッと握り拳でそう答える。
手紙を読んで百合を見て、いつでも新鮮な気持ちで思い出して欲しかったわけですよね⁉︎
ええ、ええ!
分かってますとも!
私、約束は守る女です!
アピールは大事だと思って元気よく言ったのに、アルバート王子に苦笑いされました。え、えぇ……? 誰かなんでか教えて下さい……。