248話 運命の代償はタダじゃない
「クリスティは……」
今まで見逃していた事実に困惑する私に、ブランは少し目を細めて聞いてくる。
「殿下のことが好きなの?」
「好き⁉︎ 私が⁉︎」
びっくり発言に目を白黒させる。
いやそれは! それだけは‼︎
「ない……よ! ないない! というか、あっちゃダメだし‼︎」
両手を振りながら、全力で答えた。
『運命の強制力』は、存在する。
なんだかんだフィーちゃんも未だに、お嬢様たちに絡まれるくらいだ。そうならないように、一緒にいるようにはしてるけど。
よく懲りないなぁと思うけど、もうアレはイベントなんだと思うよ。
本来、悪役令嬢が大っぴらに絡んでくるのは、最初の一回……あの囲まれイベントの時だけで。
他は、転ばせたり服汚したり物が無くなったり、そんな小さな事に、横を通り過ぎながら一言添えていく、嫌味な描写があるくらい。
最初にアルバート王子が止めに入ったから、それを警戒して小物っぽく、ネチネチやってくるのだ。
いやーアレは本当に殴りたくなると思う。
どんなに温和な人でもね。
だから、フィーちゃんはすごいよ。
あとは、アルバート王子が婚約者だと見せつけるように、一緒に歩いてる時に話しかけてくるくらいかな。
しかし王子の無表情加減が笑える。
プレイヤーはこの時点で、「うわぁ……」って彼女にドン引きか、「まぁその心はこっちのものですけどね!」とニンマリかどっちか。
でも主人公は、それにショックを受けちゃうんだけどね……。
ちなみに今フィーちゃんには。
私がカウンターバリアを張ってある。
これはこの間、光魔法かけて貰ったお礼でかけた。まぁフィーちゃんなら、嫌になったらいつでも解くこと出来ちゃうし。
悪意のある彼女を害する行為は、もれなく跳ね返ることになるので……お茶かけようとして、自分にかかってるお嬢様とかいたよ。
普通のバリアじゃつまんないしね!
昔もみんなにこんな事したなぁって、思い出したよ。まぁあの時は、レイ君が信用できなくて、だけど……。
と、その話は置いておきまして。
私はこの『運命の強制力』、何度も実感してるわけですよ。
多少変わっても、大筋までは変わらない。
私がやらかしても死なないのも。
これのおかげではある。
でもこれに則るなら……2人が幸せになった時、私はーーってなるけど!
それを回避できるかもしれないのが、予知や予言なわけだ。
だけどこれも、万能ではない。
例えばどう考えても辻褄が合わない事とか。
そういう事は、変えることができない。
逆を言うなら、こじつけができる範囲なら、多少の無理は効くんだけどね。
死の運命は、わりと絶対的な運命だ。
ちょっとやそっとじゃ変わりようがない。
運命の節目は、それ自体が人を左右するから。それだけ、重い運命なのだ。
だから私は今までちまちまと、アルの信用と信頼を築きながら、小さな運命を変えてきたわけだ。
そのままじゃ、変えられないから。
それは困るんですよ。
だって私は弟とーー今は家族もいるし。
でもこれは同時に、私だけの話じゃない。
アルやフィーちゃんにも言える事だ。
婚約や結婚もまた、大きな運命だから。
私のバッドエンドは、2人にも影響する。
多分このせいで、変えにくくなってるのもあるんだよね。
大きな運命が、見事に噛み合っちゃってるもんだから、なかなか変わってくれないのだ。
運命上は、私のバッドエンド無くしてはーー2人のハッピーエンドが成り立たない。
まぁそりゃそうだ。何せ、私は現状アルの婚約者なんだし。それを奪い取るって、理由がないと無理だ。
そのための運命、そのためのシナリオ。
どちらかが変われば、どちらも変わる。
だからこそ、この運命は変え難い。
なのに私は、さらにハードモードを選んでるわけだ。
私はバッドエンドじゃないのに。
2人も幸せにしようっていう。
ハッピー両立な世界を。
これはめちゃくちゃハードモードだと……最近気付いちゃったんだよねー。
さっきも言ったけど、基本私と2人の運命は、歯車のように噛み合っちゃってる。
つまりどちらかが狂えば。
どちらも狂うわけだ。
ある意味、運命共同体だね。
どちらも崩すなら、多分ここまでは苦労しなかったんだろう。
例えば私はそのまま婚約者で、フィーちゃんもアルと婚約しない、とか。
要は物語上、私はハッピーエンドで。
フィーちゃんはバッドエンド、みたいな。
あ、この場合アルもバッドエンドなのか。
それは歯車の回す方向を、逆回しにすれば良いような話だから、ちょっと頑張ればできたと思う。
ていうか、それそのまんま『学プリ』のバッドエンドだな。勘弁してほしい。
でも私は、そういうのが好きじゃなかった。
だから私は、2人がハッピーエンドで。
尚且つ私もハッピーエンドにしようとした。
ちなみに私のハッピーは、平和で健やかにいらる事、そして周りも幸せな事ですよ。
ビバ! 争いのない世界!
でもこれ、歯車を逆回転どころではなく。
もう最初っから組み直すようなものなのだ。
だってこれは用意されてない運命だから。
しかも私が平和に生きているなら、私の周りも影響を受けるわけだ。それは周りの人の運命も変えるに等しい行為。
そりゃ難しいですよね!
いや、最初は『運命の強制力』ナメてて!
全然気にしてなかったんだもん‼︎
でももう、私は戻れないところまで来ている。『学プリ』的バッドエンドルートは、私もやりたくないし、今の仲の良さじゃそもそもが無理だと思う。
つまり、私に残された選択肢は2つだけ。
このまま、運命を変えようと足掻くか。
シナリオ通りのエンドになるか。
どちらかだけーー2つに1つ、だ。
そんなの足掻くしかないでしょ!
そもそも、その為に頑張ってきたのよ!
それを無に返す事はできません‼︎
だからそれを土台からひっくり返すようなーー私がアルを好きになるとか!
そんなのはあっちゃいけないのだ‼︎
「というかまず、私はこの先婚約しないと思うよ! 預言師だし、リリちゃんのデザイナーもやるし! 下手な貴族より立派な生活できちゃう‼︎」
そもそも養子で女の私には、家督を継ぐとかいう義務もない。あと多分お父さんの残した財産もあるし……。
まぁ本当なら、貴族同士のつながりの為に使われそうだけど、お父様とお母様は私を優先してくれるだろう。
それに預言師は、元来結婚しないで終わるのが普通だ。
それはその地位が、貴族位以上の価値を持ち、容易に手が出せないのもそうだけど。
……黒髪、忌み嫌われてるのでね。
預言師だから、尊ばれてるけど。
どこかに畏怖の念もあるはずだ。
根本の考えが変わるわけではない。
上流貴族であればあるほど、それは強くなるので……積極的に、自分の家にその血を入れたいなどと、誰も思わないのだ。
そこに婚約破棄の汚名を被れば……まぁ普通、申し込んでくる奇異な人間はいない。理由にもよると思うけどさ。
そしてそれでも来る人に、ろくな人間はいないというわけだ。
結婚できないのが不幸だと思うかは、人によると思うけど……まぁそれで死ぬわけじゃないし、他の人も巻き込まないなら、安い対価でしょ。
変に落ちぶれた貴族に嫁ぐより、1人の方がむしろ良いのだ。すごいぞ、私!
だから自信を持って言ったけど。
何故だかブランに、悲しげな表情をされた。
あれ? なんか今のダメでした?




