243話 揺らぎ
「では手分けして回りましょうか。6人いますから2つに分けて、右と左それぞれから見ていきましょう」
「そうですね。3人ずつ席の間を等間隔でバラけて見ていけば、まぁほぼ見落としはなさそうですし」
アルの声がけに、ヴィンスが同意して捕捉する。
こういうのがぽんぽん出てくるあたり、2人とも頭いいよねー!
上に立つ者! って感じでさぁ?
私には出来ないよなぁと思いながら、ひとつアルに聞いておく。
「チーム分けは?」
「クラスごとで良いかと」
私、アル、フィーちゃんって事ね。
それは私は良いんだけど……。
「お兄様! またヴィンセントと一緒ですの⁉︎」
「回る間だけではないですか。それに今度はセスもいますよ?」
「オレをクッションにされても……」
まぁそうなるよな、という感じでリリちゃんから反論が上がる。それに対してアルは穏やかに返し、セツはダルそうにしている。
「戦力差が大事なのでしょう⁉︎ でしたら、そちらの方が戦力が劣るではないですの‼︎」
「広いとはいえ、今回は同じ空間にいますから。そこまで問題ないでしょう。第一、人がいないのは確認済みでしょう?」
噛みつく妹を抑える兄の図。
まぁ見える範囲じゃ、いない気もするけど……少し暗いからなぁ。視認じゃ断言できなさそうだけど……。
「珍しいね、アルが不特定な事を言うなんて」
私と違って、結構慎重なイメージがあるから、この時点で断言するのは意外だなー、と思ったら。
「ドアを開けた時点で軽く調べてますから」
「調べてますから?」
「フィールエリアですよ。多分みんなやってましたよ?」
なんと驚愕の事実!
たしかにやたら、足下スースーするなぁとか思ったけど!
え、何⁉︎ みんな調べて入ってたの⁉︎
驚きでガン見したままの私に、彼は続ける。
「まぁ広いので、全体まで確認出来たのは……私とリリーと、あとセスもですかね?」
「え。まぁ、一応」
突然話を振られて、セツはちょっとビクッとしたあと答えた。
「い、いつの間に⁉︎ 聞いてないぞ弟よ⁉︎」
「いやそりゃ言ってないし」
憎たらしい返事をするセツを凝視しても、さらっと返されるばかりだ。
え、まぁ、アルとリリちゃんは分かるけど。
2人とも王族だから、風の魔力強いし。
でもあんたはなんでなの?
あれ? もしかして、うちの弟優秀なのか? と、この歳にして思った。というか、セツの実力とか、よく把握してない。
「おやこれは……次の魔術園遊会、お姉さんに実力を知ってもらう、良いチャンスでは?」
私の動揺に気付いたらしいヴィンスが、揶揄うように言う。それにセツは心底面倒そうな顔をした。
「いやシスコンじゃないし。ヴィン君冗談キツいよ。なんでこの歳になってまで、こんな姉にべったりしてなきゃなんないの」
「何故だろう。なんだか罵倒された気分になる」
弟の姉離れ、喜ぶべき所なんですけど。
姉の扱い酷くない?
気のせいなのかな?
こっちに視線すら寄越さないけど?
悲しみに暮れる私に、フィーちゃんが小声で言ってくる。
「大丈夫です! 冗談ですから!」
「おいそこ報告禁止な? 『フィーちゃん』は、オレが見張ってないとダメなわけ?」
笑顔でフィーちゃんにそう言う弟くんは、静かに怒ってそうだ。まぁフィーちゃんはきょとんとしてますけど。
「……姫様と『フィーちゃん』チェンジしたらどうですか? 戦力的にもその方が穏便に済むんでしょう?」
ダメだこれは、と思ったのか、セツが珍しく提案をした。どうも面倒な事を喋られたくないみたいだ。
哀れな弟め。
残念ながらフィーちゃんはクラスメイトよ。
つまり、いつでも話は聞けるんだぞ。
まぁ突いてもかわいそうなので、そのままスルーして話してあげる。姉の優しさに感謝せよ。
「えー? 私とアルでもフィーちゃん守れるよ?」
「どう考えても、お守りが必要なのお姉サマの方なんですけど」
「うわその言い方ムカつく!」
ワザとらしい言い方に、カチーンときた!
私は最強クラスに強いんだよ⁉︎
ただ反応が遅くて混乱しやすいだけで……。
あれ? 最弱じゃない?
おかしいぞ? と考え込んでも、覆らない事実があった。悲しい。
「良いこと言いましたわセス! 褒めて差し上げますの!」
「まぁ、それでも良いのですが……フィリアナ嬢はそれでよろしいですか?」
顔を輝かせるリリちゃんを見て、少し困り気味に、アルがフィーちゃんへ確認をとっている。
「何かあったら、セスくんが守ってくれるって事ですか?」
「えっ……ま、まぁ?」
そう尋ねられて、予想外の質問にセツがたじろいでいる。フィーちゃんセツの扱い上手いね⁉︎
「うふふ! それではお願いしますね!」
そう言ってフィーちゃんが笑ったので、セツは渋々頷いた。
なんだろう……。
すごいね、いやなんていうかね?
尻に敷かれてる図が浮かんだというか。
ふと、セツはこういう子の方がいいのか? と思った。まぁフィーちゃん相手じゃダメだけど。
だってフィーちゃんは……。
「それでは回りますよ。こんなところで時間を潰しましたから、早くしましょう」
「お姉様! 一緒に回りましょう‼︎」
「リリー……回る方向が同じなだけで、隣り合って回るわけではないですからね?」
アルとリリちゃんのやり取りに、現実に引き戻される。
もうあちら側は、フィーちゃんを真ん中にして、歩き始めている。
その背を眺めてふと思う。
この場所、私は譲らなきゃならないのに。
「ティア? 行きますよ? どうしました、調子でも悪いですか?」
「あ、ううん! なんでもない‼︎」
アルに呼ばれて慌てて作業に入る。
私、そのために頑張ってるんでしょ!
何を悲観的に考えてるんだ!
忠誠心が揺らいでるのかな⁉︎
それはダメだと首を振って、一瞬……いやだなと考えた事を追い出した。




