240話 疑問
「……怖いもの知らずだなー」
「そこがティアの良いところでもあり、悪いところでもありますけどね」
苦笑いのヴィンスに、アルがそう返事をしている。
す、すみません……。
直接言われたわけじゃないけど、その耳に入った言葉に申し訳なくなり、少し冷静になった。
「はっ! フィーちゃんの無事も確認しないと‼︎」
そして冷静になった事で、他の懸念事項も思い出した。
「フィーちゃん! フィーちゃんは大丈夫⁉︎」
顔を上げて、ぐりぐり動かし影をを探すと。
「わ、私はここです!」
ぴょこっとセツの後ろから、その姿が見えた。重なってて見えなかった。
リリちゃんの頭をぽんぽん撫でてから、手を離した。でもリリちゃんはまだひっついてるので、もうそのまま動く。割とよくある。
「よかった! 何もされてない? セツ役に立った?」
「心外ですー! オレたち何もしてないですよー⁉︎」
フィーちゃんの前まで行くと、視界の横にレイ君も入ってくる。抗議をしてくるけど….…。
「オレたち、じゃねぇから。オレを入れるな。レイだけだから」
フィーちゃんの横に立つように、セツが呆れ顔でスッと入ってくる。うん、大丈夫だったっぽい。
「またガードされたんですけど! オレこれのせいで、聖女様に近付けないんですよー⁉︎」
「そりゃ近付けないようにしてるからな」
「なんにもしないって‼︎」
フィーちゃんの横で、私に訴えてくるレイ君をセツがあしらっている。
レイ君の何もしない発言ほど、信じられないものもないので、その判断は正しいです。
だって私たちは、何度もその「なんにもしない」に、巻き込まれているのだ……。
「ごめんねー? 怖くなかった?」
「威圧感を与えない大人しそうなオレが、怖いわけないじゃないですかー‼︎」
どの口が大人しそうとか、威圧感を与えないとか言ってるんだろうか。
めちゃくちゃ喋るし、初対面の人間には警戒心丸出しで、威圧感しか出してないのにね。
もっと自分の事も研究して欲しいね。
横の声は華麗に無視をし、フィーちゃんを心配してそう尋ねた。
「大丈夫です! その、勢いはすごかったですが……セスくんもいましたし」
何が、とは言わない、少し戸惑い顔のフィーちゃん。
慎ましいことは美徳ですけど、レイ君には言ったほうがいいよ。言っても分からないから。
「アレには強く言った方が良いですの」
やっと私から離れた、お姫様然としたリリちゃんがそう言う。「アレ」の部分で、セツに止められている、レイ君を一瞥した。
凛としたその態度は品がある。
さっきのひっつき虫が嘘みたいだ。
正直、別人かなと思うよ。
「あ、いえ……ゲンティアナ様も、十分良くして下さいますので」
「フィリーは、レイナーの変人っぷりをまだ理解してないですの」
遠慮がちに微笑む彼女に、リリちゃんはため息をついた。まぁ知らないままの方が、幸せな類ではあるけれど。
「見回り問題なかった?」
大丈夫そうだけど、一応聞いておく。
「はい! 大丈夫です‼︎ 念のために、私も心が読める状態で探しましたけど、誰もいませんでした‼︎」
「なんて裏の手を……」
ここでも魔法使ってたよ。
いや、フィーちゃん的には、通常モードに帰っただけとも言うけど。
「それって、部屋貫通するの?」
前に、人が認識できればどこまでも見える〜みたいなことは言ってたけど。
私は気になって聞いてみた。
「貫通というか……まぁ自分から10メートルくらいまでの距離なら、気にするつもりはなくても、感情があるなというのは分かります」
そうかぁ。人の心が読めるのを良いことに、そんな使い方をした訳ね。
しかし意識しなくても、そこまで広い範囲で感じ取れちゃうのは、大変だよね。
心配になって思わず言ってしまう。
「それ、大変じゃない?」
「大変……ですか?」
きょとんとした顔を向けられる。
それが普通な彼女からしたら、大変じゃないのか……? 私なら頭パンクしそうだけど。
でもその顔は、すぐに笑顔になる。
「前だったら、そうかもしれないです。でも今は、コントロールできるので。リスティちゃんのお陰ですよ?」
その発言に虚を突かれた。でも。
「……それなら、アドバイスした甲斐があった、かな?」
言われて素直に、良かったなと思った。
良かった、あの時フィーちゃんに会って。
今こうして、仲良くできて。
意識しなくても笑ってしまうくらい、嬉しいことだ。
「……光使いも、大変ですのね」
リリちゃんが少し同情的な目を向けている。
まぁリリちゃんも、愛し子で大変だったしね。
魔力が強いのは、良い事ばかりじゃない。
「でもそれなら……ノアも苦労してるのかしら」
そう少し悩むように、リリちゃんは零した。
リリちゃん、ノア君だけは割と素直に話してるんだよね。年齢的には逆だけど、弟みたいに接しているというか?
ノア君の事は、私もちょっと心配なんだよね。
いつでも聞いたら答えてくれる様子からも、ノア君にはずっと、感情が見えてそうな感じがする。
体調不良、そのせいかなーとも思うんだ。
一気に人が多いところに、毎日いるから。
一応大丈夫か聞くけど、「大丈夫」しか言わないからな……こんな時、心が見えたら良いのにと思うよね。
「私が見た感じでは、あまり苦しむ様子はなかったんですけど……」
「あれ、そうなの? てっきり言えないだけかと思ってた」
でもフィーちゃんが言うなら、確かにそうなんだろう。見たって事はもしかしたら、同じ立場のノア君が気になってたのかな?
「でも気にかかるのは……感情が少ない事なんですよね」
「少ない? まぁノア君は、事件のせいで記憶ないところとかあるけど……って、フィーちゃんは知ってるか。シブニー教の。むしろ当事者寄りだし」
「え?」
驚いた反応をしてるから、ノア君の事知らないんだろうか。同じ所にいたわけではないのかな?
迷ったけど、ヴィンスに確認をとってから、フィーちゃんにあの事を話す。
ノア君が養子な事。
もともとシブニー教にいた孤児な事。
私を助けてくれた事。
そして、儀式に巻き込まれたせいでーー記憶が無くなっているらしい事。
「そんな大変な事が……しかもリスティちゃんの恩人だったんですね……!」
悲しげな表情を浮かべながら、フィーちゃんはこくこく頷きながら、聞いていた。
「フィーちゃんは、ノア君と会ったことない?」
「はい……見かけた事もありません。まぁあそこも大きかったので、私が見逃していただけかもしれませんが……」
シブニー教には、大規模な集会もあったらしい。
いつもはいろんな所にいる子供たちも、その時には集う。だから同じ施設にいないなら、いたならそこで見つかるかどうか、なんだそう。
「けれど容姿的にも、魔力的にも……見かけない訳は無さそうですし、忘れられないと思うのですが……」
「あぁ……協会の中では、優秀な子は前の方にいるんだっけ?」
ちょっと気まずそうに頷かれる。
あそこでは、『ギフト』を持つ子供たちは商品だった。容姿の良い子や魔力のある子などは、目立つ所にいつでも居させられる。
「でも見かけた事がない、と……」
保護されたばっかりだったのか?
確認しようにも、もう知ってる人がいない。
本人も、記憶がないからね……。
真相は藪の中だ。
「……でも、10年間リスティちゃんたちといたんですよね?」
「うん? うん……まぁ、よく遊ぶ仲間だから?」
悩むように言われて、意図が読めないながらも同意する。
何を悩んでるんだ?
「それなら、もっと感情豊かでもおかしくないんですけど……」
「どういう事?」
「感情が少なすぎます。刺激がある方が、人は感情を覚えやすいんです。彼、いつでも穏やかなんですよ」
うーん、と唸りながら言われても、イマイチしっくりこない。私も首を捻る。
「それは感情が欠けているという事ですの?」
「そうですね……足りないんです。穏やかすぎます。特に、悲しみの感情が、まるで無みたいなので……すごく違和感があります」
リリちゃんの言葉に、フィーちゃん眉を下げて頷く。
「まるで、どこかに消えちゃってるみたいです。悩みがないみたいな」
「うーん、それ悪い事なの?」
「悪い事とは、一概には言えないんですけど……」
私の疑問に、さらに悩んでしまう彼女。
うーん……ダメだ分からん!
「そこのお嬢様方、もう移動しますよー!」
私たちの悩みは、ブランの掛け声で一旦中断される。
「あ、見回りしなきゃだった!」
「まぁ悩んでも今は仕方ないですし……一緒に向かいましょう、お姉様とフィリー」
「そうですね……」
歯切れの悪いまま、何か引っかかったまま。
ひとまず目の前の課題に向かって歩き出した。




