239話 ダメな時は怒るよ!
校舎出口に向かうと、他のみんなも戻ってきていた。
「あ、私達が最後だね! みんな問題なかった……ってわぁ!」
突っ込んできたリリちゃんを、ボフッとあわてて受け止めた。
「息が……詰まって死ぬかと思いましたの……」
「お、お疲れ様?」
「もう二度とごめんですのー!」
そう言ってすり寄ってくるので、困惑しながらその背をさする。
「え、なんかヴィンスやったの?」
「いや、むしろ使いっ走りさせられてましたけど?」
リリちゃんの抗議の被告人に聞くが、なんだか疲れた様子で返される。
「何してたの……? 見回るだけでしょ?」
不思議に思ってそう尋ねると、ヴィンスは心底面倒そうに、リリちゃんを見つめながら言う。
「いや姫様がフィールエリア使うから、ドアを開けてこいとか言い出して」
「仕方ないですの。フィールエリアは、風が通れないところや曲がり角ですと、確認できないんですもの」
私に抱きついたまま、リリちゃんはそうぶーぶー言っている。
まぁ風だからね……。
自分を中心に、確かめたい方向に風を飛ばして、その感覚を得るのがフィールエリアだ。
そよ風みたいなものなので、その程度で確認できない所は、よく分からない事が多い。
例えば廊下には、教室のドアがいくつもあるけど。
このドアが閉まってれば、ドアがあるのはなんとなく分かるけど、中の様子は分からない。
ドアの隙間を通る分しか確認出来ないから。
それと同様に、曲がり角に階段があった時。
大体階段は折り返すと思うけど、これも下の方は確認出来ない。
壁に当たりまくって、風が霧散するからね。
だからフィールエリアは、正直建物の中では向いてない魔法だ。
「え、リリちゃん。視認もしたよね?」
心配になって一応聞く。
まぁそもそも、今の時間ドア開くところ、少ないと思うけどね?
つまり、半分はヴィンスへの嫌がらせだ。
わざと走らせたに違いない。
まぁヴィンスは『瞬雷』も使えるから、『加速』より早く、ドア開けてくれるとは思うけど……。
あ、『瞬雷』は自分の中に電気を走らせる事によって、瞬発力とか移動速度とか、あと思考速度も上げられる魔法ね。
人間の動きの基本は電気信号なので、そこを増幅したり、やりとりを速くするイメージかな。
とにかく、結構万能な魔法だ。
まぁその代わり欠点もある。
長くは続けられない事だ。
本来『瞬雷』って、そんな贅沢に使うものじゃないよ? あくまで瞬間的に使う能力だよ?
『加速』より疲れるって、セツが言ってたし。
第一『加速』と違って、上位魔法だ。
そんなことを考えて、微妙な顔になっている私に、リリちゃんはさらに畳み掛ける。
「抜かりないですのよ、お姉様! ちゃんと『磁雷波』も使わせましたわ‼︎」
どやどやー! と言われましたが。
「うん、ヴィンスごめんね。お疲れ様。リリちゃんには後でしっかり言っとくから」
「お姉様⁉︎」
私はリリちゃんの代わりに、ヴィンスに謝っておいた。何故その事に、お姫様は驚いてるんですかね?
リリちゃんってば、大分ヴィンスにわがまま言ってるね?
リリちゃんの言う事、なんだかんだヴィンス聞いてくれるもんね?
でもね、『磁雷波』も上位魔法だからね⁉︎
「リリちゃん? 見回りって、そんな魔法使わないと出来ない事かな?」
「お、お姉様……まさか怒っていらっしゃるの⁉︎」
「そりゃ怒るでしょ? 人に無理させちゃいけません‼︎」
そんな悲劇を見たような顔をしてもダメ‼︎
このままでは、リリちゃんがわがまま姫になってしまうので、私は叱りますよ!
「だ、だってその方が万全を期す事ができますし……」
「今までの見回りもやってないでしょ! そもそも魔法を使って見回りしろとは、誰も言ってないです‼︎」
「魔法を使ったのはヴィンセントで……」
「使わせたのリリちゃんでしょ‼︎」
確かに『磁雷波』は便利だけども!
『磁雷波』も、フィールエリアの上位互換みたいなものだ。
電磁波を飛ばすことで、周りの状況を詳しく知る事ができる……イメージは、レントゲンみたいな感じかな? 詳細に状況を知ることができる。
まぁその代わり、フィールエリアよりも範囲は狭めだ。あとこれも上位魔法です。
よく怒らなかったねヴィンス⁉︎
なんだかんだ甘いよね⁉︎
フィールエリアやった後に磁雷波とか、二度手間だしやる意味ほぼないでしょ‼︎
しかも毎回やるなら、多分すごい疲れるよ‼︎
「ヴィンスはもっと怒って良い!」
「え、いえ……姫様に怒るのは……」
「これも教育ですよ‼︎」
「……クリス、身分考えた事ありますか?」
私がヴィンスにまで怒るもんだから、戸惑われる。
そりゃ、身分は大事ですけど‼︎
ダメな事はダメです!
「リリちゃん、私リリちゃんを姉として、そして友達として怒った訳だけど。処罰する? リリちゃんに任せるけど」
そうリリちゃんを見据え、一応聞いておく。
まぁお姫様に失礼を働いたら、処罰されても仕方ないのは分かっている。
分かってても、私は多分言うし。
それは道を間違えて欲しくないから。
そして尚且つこれは、姉の性分というものだ。
「処罰……ですの? そうですね……」
「え? 処罰するの?」
最初は目をぱちくりさせたのに、予想外にも考えました様子。そこにちょっと焦る。
い、いや。でも二言はないから。
うん……今更引き下がれないし。
早まったか? と思いながらも答えを待つと。
そして考えが纏まったらしく、ぱっとこちらを見て……笑顔で言われた。
「私をずっと見守る義務を言い渡しますの!」
「可愛い! 合格ー‼︎」
とても可愛かったので、ぎゅーっと抱きしめたら「ごめんなさいですのー! 大好きですのお姉様!」と言われたので許しました‼︎
ヴィンス? ごめんちょっと忘れてたわ。




