238話 受け入れられない想像
シブニー教の儀式の際、私が一番困った事。
それはリアルタイムで、映像が見られなかった事だ。
それが得られるだけで、無駄な魔力使わなくていい。だから付いて行きたいって言ったけど、当然却下された。
この時、カメラとかあればなー! って、死ぬほど思ったけど、未来予知を使いまくってなんとかした。
まぁその結果、死にかけたんですけどね!
このように、自分の目だけでは間に合わない情報って、沢山ある。
これが見られたら、不便じゃなくなるよね?
それに、自分は動かない訳で。
つまり、安全な所で高みの見物ができる。
「確かに、それなら深追いはしないかもしれませんが……毎回魔術で繋げるんでしたら、大変では?」
「いやいや。スライムの目を、自分の目にあらかじめしておけばいいよ」
「え? それは……」
アルがちょっと青ざめている。
グロテスクな映像でも、想像したのかな?
「あー違う違う! 自分の目を着脱式で装着! って事じゃなくて……自分の目を増やしておくっていうか? まぁとにかく、自分の目として扱えるように、魔法をかけておくんだよ」
正直私もシブニー教の儀式の際に、誰かの目をジャックしちゃおうかな、と一瞬思ったのだ。
でもそれね、結局一時的に相手に憑依するとか、意識を追い出すとかしないと、自分の意思じゃないって思われる可能性があるんだよね。
あと、毎回その都度繋ぐのって……未来予知より面倒だった。相手の事気にしなきゃいけないし。
だから実際やるとなると。
相手の意識を曇らせた上で!
相手をのっとるような事しないと見れない!
工程が多すぎるし、誰に使うかも微妙だし、私が人を乗っ取っても戦えないし。
そんな感じで、諦めたのだ。
でも、あらかじめ魔法をかけておくなら。
この全ての手間は省けるのだ。
しかも1回かけておくだけで良い。
「でも普通の感覚的には、自分の目を増やすのと変わらないというか……目を生やすイメージ?」
「「……。」」
私の発想に、2人とも顔が引きつっている。
うん、ドン引きだね!
まぁ普通の人にはない考えなのかもね!
サイコパスな発想なのかも……って、私はやってないから!
「とにかくー! あのスライムの目は、術者の目だと思うの‼︎ だから色が違うんじゃないかな⁉︎」
いや詳しくは知らないし、これも予想だけどね⁉︎
でも私が見た怪しい人、赤い目だったし。
ちょうどスライムの目と、おんなじだ。
やっぱり関係あると思うんだよね。
「……ま、まぁその目の話は、詳しくは考えないとして……レイ君が言ってた、魔獣らしくない動きは、どう説明するの?」
「目の話だけじゃ、説明できないでしょ?」と、ブランがぎこちなく笑う。まだ引きずっている。
「スライムの意識を乗っ取ればいいよ」
「……え?」
「スライムには同化があるから、多分人間より苦労しないよ」
同化とは! と、私の頭の中にレイ君が出てくる。呼んでないけど出てきた。
マスターの記憶と混同して!
それが自分の考えだと勘違いする事です!
スライムによく見られます‼︎
私は脳内説明が終わったレイ君を、端の方に追いやった。
彼は便利だけど、残しておくと面倒な事になるのでね!
「マスターを持つスライムは、記憶を共有できるんだよ。それにスライムには魂がないから、意識がないの。つまり乗っ取っても問題ないの」
レイ君の研究の話、聞いておいて良かったなと思った。
いつもは面倒だなぁとも、ちょっと思うんだけどね。だって話長いし。
拒否をする意識を持たぬスライムなら。
遠隔操作し放題だ。
ロボットを操るようなものだよ!
つまり、あの時のスライムは……。
「……操られてたって事?」
「ずっとじゃないかもしれないけどね。でも魂がない魔獣は、考える脳がないのと同義だから、そんなエキセントリックな事できないし」
魔獣にある選択肢は2つ。
魂や魔力を持つものを襲うか。
魔力量に負けを認めて逃げるか、だ。
これ以外の行動は、基本取らない。取れない。
だって意識がないから。
だから魔術で勝てない人間にも、魔力量だけで判断する魔獣は、襲いかかって来る。
最初の行動は、それじゃないかと思うんだけど。
「……ティアまで、魔獣の研究者になる気ですか?」
少し心配そうに、アルに言われたので。
「それは遠慮したい」
きっぱり言っておきました!
やだよそんなの!
アルと婚約破棄したって!
レイ君と婚約したりはないからね⁉︎
興味あるって言った瞬間、強制的にそのルートになりそうで怖いです。絶対イヤですよ!
「レイ君と婚約だけは、絶対に無理……」
一生研究対象なんて、気が遠くなるよね……。
そう苦笑いを浮かべて、虚空を見つめていると。
「……クリスティ、発言する場所は選んだ方がいいよ」
「へ?」
その声に顔を上げると、残念なものもを見るブランが見えて。そして。
「ティア? 今、君の婚約者は私ではないですか?」
にっこりと微笑む……逆光効果でさらに凄みが増してるアルがいた。
あ、失礼な事言った⁉︎
なんかプライドに触っちゃった⁉︎
優先事項が違うって事かな⁉︎
「えっとですね⁉︎ これはそのー……」
「想像したんですか? レイとの婚約を?」
「いや想像くらいは自由じゃない⁉︎」
「へぇ……?」
そう言って薄く目を開け、口は笑ったまま……。
こ、こここ怖いんですけどっ⁉︎
いやなんでよ⁉︎
イヤだなーっていう想像じゃないの‼︎
「レイ君だけはないなって話! 断固拒否の方だから‼︎」
「婚約者の自覚が足りないのでは?」
「いやだって……」
破棄する予定じゃないか、という言葉は飲み込む。今言ったらマズい気がする。
それを聞いて、笑みが深まる。
そうそれは、危ない色気すら感じる……でも人を殺しそうな笑みだ。
「……優勝したら、覚えておいてください」
「うわぁ強気ぃ……」
汗がダラダラになりながらも。
何を? という言葉も飲み込む。
だってこの、魔王の微笑み怖いんだもん‼︎
しかしそこに、ククッと笑い声が挟まれる。
「前大会優勝者の前で大胆発言ですね、殿下は」
「えっブラン優勝者なの⁉︎ 嘘、すごいね⁉︎」
その発言に驚いて、バッと顔を向ける。
でも優しそうに笑っているだけで……。
とてもそんな風には見えないけど!
ていうか、早く言ってよ‼︎
「……宣戦布告ですか?」
「そんな。殿下に恐れ多い事はしませんよ。けれどそう易々と、渡せもしませんからね」
「まぁ勝負は仲良しこよし、とはいきませんからね」
穏やかに。
しかし確かに流れる冷気は……。
2人のやる気なのだろうか?
「おぉ……一気にギスギスに……でも私、2人とも応援してるからね!」
私の事なんて、一瞬で流れたね!
ギスギスは嫌だけど、話が切り替わったのはありがたいし、そんなやる気あるなら私も楽しみだなー!
と思って言ったものの、2人はこちらを見るなり言った。
「暢気ですか……」
「ふふっクリスティらしいけどね」
アルは呆れ顔だし、ブランもすこし困り顔だ。
えぇ? 応援は平等だよ?
私部外者だもん。
「私は2人とも好きだから、2人とも頑張って欲しいよ?」
その発言には、同時にため息を吐かれた。
えぇ? なんでよー?
しかしその疑問は分からないまま。
校舎の見回りは終わったのだった。




