236話 チーム分け
「さて、今日の見回りだけど……大会まであと2日になったから、今日から闘技場の方も回るからね。急いで行くよ」
ブランが最初にそんなことを言った。
え、見回り増えるの?
今でも大変なのに?
本当にやるの?
と思ったけど、むしろこちらが本命ですよね。
だって大会やるの、校内じゃなくて闘技場だもんね?
という訳で今回から校舎の見回りに、時間がかけられないので、分かれて回ることになった。
どう別れたかというと……。
「え、あの。お姫様に従者は1人でいいの?」
私はリリちゃんとヴィンスを見ながら、そう零した。
「従者とはなんですか、従者とは。こんなおてんば姫従者は、ごめんなんですけどね?」
こちらを見て面倒そうに、ヴィンスはそう返す。それにすかさず、リリちゃんが噛み付いた。
「私の方からお断り致しますの。勝負しても、私の方が強いに違いないですもの。こんな大男のお守りなんて、まっぴらごめんですのよ」
あぁー。開戦のゴングがなったな。
気に食わなさそうにいう彼女に、ヴィンスもぴくぴくしている。
「それは僕が手加減するからでは? 一応レディでしかも姫様ですからね」
「魔力量も魔術も私の方が上ですの! 愛し子をご存知ないですの? まぁ、これで宰相の息子とは、笑わせますのね」
笑顔で睨み合って。
息ぴったりですねーーじゃないよっ‼︎
「あーあー! 2人とも仲良く! 仲良くね‼︎ え、本当にここ2人で大丈夫⁉︎ 私ついて行った方が良くない⁉︎」
ブンッ!と、アルとブランへ振り返って言う。
見回りそっちのけで、喧嘩しだしそうなんですけど⁉︎
しかし焦る私とは裏腹に、アルは冷静に言う。
「戦力的に分けるとこうなるので、仕方ないです。大丈夫ですよ。2人も大人なので」
「どこが……?」
不安な私はまた2人を見るけど、相変わらず喧嘩している。
ねぇこれダメじゃない?
「本当に無理だったら、2人とも無理だと言いますよ」
「いやこれ、意地張ってるだけじゃない……?」
無理って言ったら負けたみたいで嫌だとか、2人とも言いそうな気がする。すごい予想つく。
でもアルは、まるで窓から風景でも見るみたいに、自然体でいる。
それでいいのかアルよ。
貴方の妹と親友が喧嘩してるんですけど?
それとも慣れちゃったの?
戦力で分けるって言ってもねぇ……。
「……フィーちゃんは、そこ2人と一緒で大丈夫?」
喧嘩している風景からそっと目を背けて、もう1つのグループの紅一点に声をかける。
「? 光栄ですよ?」
小首を傾げて、不思議そうに言われる。
まぁフィーちゃんが、問題起こすとは思ってないんだけど。
「いやー! オレも光栄ですよ聖女様! 是非色々聞かせて貰いたいです‼︎」
「これが心配なんだよなぁ……」
フィーちゃんの後ろで興奮している、レイ君を冷めた目で見る。当然、彼は気にしません。
「あの、私と変わらなくて良いの? 今なら変わってあげられるけど……」
「クリスちゃんでも大丈夫ですよ!」
うん、何が?
生贄が?
君の生贄になる事がかな?
生温かい笑顔を贈りつつ、サッと視線から外す。世の中、触らぬ神に祟りなしなんだよ。
「だ、大丈夫です! 私、皆さんと仲良くなりたいですし‼︎ それに……セスくんいますから‼︎」
気合たっぷりに言った後、ちらりと我が弟を見てちょっと照れたように言う。
信用されてるなーセツ。
どこでそんな信用されたの?
フィーちゃん騙されてない? 大丈夫?
怪訝な顔を弟に向けると、「なんだよ」と言われる。いやだって、心配なんだもん。
「……まぁコレの好きにはさせないから、大丈夫だよ。ちゃんと止める」
「これとはなんですかセスー! オレはモノじゃないんですけどー!」
「じゃあ人のこともモノ扱いすんな」
ちょっと面倒臭そうに、ぶっきらぼうに言うセツに、レイ君がキャンキャン吠えている。それを見て、フィーちゃんが笑っている。
……照れ隠しだな。
そこはビシッと言ったほうがカッコいいよ?
指摘しないでおきますけど。
「せめてフィーちゃん本人に、ちゃんと言いなさいよ……」
呆れ気味にそう口を出してしまう。
それに反応したフィーちゃんが、セツを見つめるので、セツも少し視線を外しつつも口を開く。
「まぁ、隣にいればこいつは近付けないし、なんかあったらなんとかするから」
「はい! よろしくお願いしますね!」
「オレも喋りたいんですけどー!」
そんな様子を眺めながら思う。
本当はフィーちゃんと私、代るべきだよね。
それか、リリちゃんのとこにくっつくべき。
そうしないと今後の展開に、支障でそうなんだけどな……。
「この見回りってさ? 私がどこか他に入っても、2人なら問題なくない?」
アルとブランへ振り返り、一応聞いてみるけど。
「どうしてここにティアを入れているか……本人が分からないのではどうしようもないですね……」
そう言いアルは、首を振りながらため息を吐いた。なんでよ⁉︎
「だって、他の方が問題ありそうだし……」
「違うよクリスティ。1番の問題が抜けてるよ」
ブランまで苦笑するので、なんだろうかと考える。
……え、本当に何?
「ティアが一番、戦闘力ないですからね」
「え! 一番あるでしょ‼︎」
「瞬発力と咄嗟の判断力がなさすぎます。何か起きたら、動けなくなって終わるタイプでしょう?」
酷い言われようだと思ったものの……多分あってますよちくしょう!
すみませんねぇ!
運動神経も反応速度も遅くて!
そしてすぐパンクする奴で‼︎
むむむー! と思いながらも、一応黙っていたけど。
「それにすぐどこか行きそうだからね。そういう対処に慣れている僕たちの方が、いいでしょ?」
「そんなフラフラいなくなりません!」
ブランの一言で怒りました! 怒りましたよ! もう!
笑って言ってますけど⁉︎
私そんな子供じゃないんですけど⁉︎
大丈夫なんですけど⁉︎
そう、ぷんぷんしていたら。
「お姉様……血反吐を吐きそうですが、私も頑張りますので……早く終わらせますのよ……」
「り、リリちゃん……」
なんかリリちゃんの方が、ヤバそうだったので何も言えなくなった。
笑顔がなんかすごいことになってるよ?
目が死んでるし、ゾンビのようだよ?
そ、そこまで我慢するなら、別れなくても……いや、私のためなのか……。
せめてリリちゃんのために、何事もなく終わらせようと誓って別れた。




