230話 ネタバラシ
「……それだけ理解されているなら、もうブランドンにも話してしまって、問題ないのでは?」
黙って聞いていたアルが、声を出した。
私はそっちをキッと睨む。
「なんで助けてくれないのよ⁉︎」
「泣きそうな顔も可愛いですよ?」
「こ、このドSーーーーっ‼︎」
にっこり、じゃないんですよ‼︎
なんなんだその返しはっ⁉︎
隣で見てるだけって酷くない⁉︎
そう思っても、優雅な笑みを浮かべられるだけだ。
「クリスティ、殿下は関係ないでしょ? 隠していたのはクリスティなんだから」
「うっ」
そう言われて言葉に詰まる。
おずおずと視線を戻すと、さっきより和らいだものの、まだこちらを見つめる瞳と目が合う。
ところがそれは次の瞬間、悲しげに伏せられた。
「ねぇ、僕はそんなに頼りないの?」
「え! 違うよ⁉︎」
慌ててそう言うが、眉を下げて言われる。
「でも、信用できないから言わないんでしょう? みんな知ってるのに」
「えぇ⁉︎ そんな事ないよ⁉︎」
ぶんぶん手を横に振って否定するけど、信じてくれた様子ではない。
まぁ確かに、結果的にはブラン以外みんな知ってるけどさ? 教えようと思って教えたの、フィーちゃんくらいしかいないよ?
でもそんなの、言わないと分からない。
人から見えるのは、結果だけだから。
その事実だけが全てだ。
過程なんて知らなければ、ないも同然なのだから。
あぁ私、自分が嫌われたくなくて。
そのせいで、ブランを傷付けたのか。
私にそれを癒す事はできない、でも。
今言わなくちゃ、と思って体を動かせば、空気を読んだらしい、両隣からの拘束は解けた。
そのまま彼の正面に行って、ガシッとその手を顔の前でで握る。自分から手を握ったのは、初めてだなぁと思う。
昔と違う、大きくて剣だこのある、ブランも大人になっちゃったのか……と少し感慨に浸りつつも。
その顔をしっかり見つめて、口を開いた。
「黙っててごめんなさい、ブラン。私、他の人は覚悟してても、ブランにだけは嫌われたくなかったの!」
その懺悔に、彼は困ったような顔で微笑む。
「僕、前に言ったと思うけど? 嫌いにならないって」
「で、でも〜……」
「ほら、やっぱり信用ないじゃないか」
言い渋る私に、少し不貞腐れるように言う。ブランにしては珍しい表情だ。
「だって……。ブランにヴィンスみたいに嫌われたら、私立ち直れないもん‼︎」
「おい! それは謝っただろ!」
思わず突っ込んだらしい、ヴィンスからの横槍が入ったので、手は握ったまま、顔だけそっちに向けて反論する。
「事実は消えないんですー! 私はすごい傷付いたんですー! トラウマなんですー‼︎」
「わ、悪かったって……」
「……うん。ごめんね? 私がびっくりさせたせいなのも、よく分かってるよ」
戯けて言ったつもりだったけど、思ったより本音が出てたのかもしれない。
思いの外申し訳なさそうに言われたので、少し笑ってそう付け足した。
そして顔を元の位置に戻す。
「まぁこの事実を知った人は、こうなっちゃうわけですよ! ……それでも、知りたい?」
元気に言うつもりが、後半だけ様子を伺うように、少し窄まってしまった。
踏ん切り、ついてないなぁ……。
自分に苦笑しながら、首を傾げてその反応を伺う。
「あぁ、クリスティが前に悩んでたのこれかぁ。あの時やけに悩んでだから、心配したんだけど」
くすくすと笑い出した彼に、私は少し恥ずかしくなる。
「ちょ、笑わないでよ! 私はすごい悩んでて……」
「……10年越しに突きつけられる事実ですか」
「あぁ! あっちに飛び火した‼︎」
ちょっと!
ヴィンスが苦しみ始めちゃったんですけど‼︎
二次災害がっ‼︎
まだ笑っているブランに、ちょっとムッとした顔を向けた。気付いてるのか気付いてないのか、変化は見られない。
一頻り笑った後、こちらを見てゆっくり話す。
「何年一緒にいると思ってるの? クリスティは僕を舐めすぎだよ。大丈夫、大体予想ついてるから」
「……え?」
その発言に、目を瞬かさせる。
「隠せてると思ってたの? 今までも変な事、結構沢山あったよ? あの大事件の時だって、変な事が沢山あったのは、騎士団の人たちには知れ渡ってるし」
……あぁ。あのシブニー教解体時の。
そう言えば、ブランのお父さんは王宮筆頭騎士だもんね。伝わらないわけがなかったね。
誰も何も言わないから、完全に忘れてたよ?
確かにあの時は……敵を転ばせたり、鍵壊したり、石落としたり、散々誘導しまくったけれども……。
え、そんなとこからバレてたの?
驚きに固まる私に、そのままブランは話続ける。
「そうじゃなくても、セス君から不思議な話を聞く時もあったし。おにぎりだっけ?」
「セツーーーー‼︎」
「あ、いやごめん。だって姉ちゃんが、言ってないと思わないじゃん?」
バッ! と振り向き咎人を睨むが、軽く謝られるだけで、反省の色は見えない。
「ふふ、悪いのセツ君だけじゃないでしょ? 屋上の鍵開けてたの、なんかしたんでしょ?」
「ぐっ! バレてる‼︎」
もう完全にお見通しな気がする!
いつものように優しく笑うブランに、諦めの気持ちが湧いてくる。
「まぁだから、不可能を可能にするような、魔法なんだと思うんだけど……本当はどうなの?」
「ほぼ答えじゃん……」
「僕を騙そうなんて、100年早いよ」
そう言ってくすくすと笑うので、もう馬鹿らしくなって話した。
私の必死に隠してきた10年、なんだったの?
気に食わない顔で話す私のことも、ブランは怒らず穏やかに、優しく眺めていた……。
はぁ……お兄ちゃんには勝てませんわ。




