228話 早く終わって欲しい
おかしいなぁ? 私の方が精神年齢、圧倒的に上のはずなんだけどなぁ?
でもアルは昔から大人っぽかったしね……。
怒られながらも、物思いに耽ける。
思えば、私の方がお姉さんでいられた時間なんて、短かった気もする。大人みたいに背伸びするのが、早かったもんなぁ。
これが王子の宿命なのか……と思って、成長を喜ぶと共に、勝手に切なくなった。
リリちゃんにはこんな事、思った事ないし。
子供の成長は早いというけど……。
最近如実に感じちゃってねぇ?
全然そう思われてないと思うけど、私的には、みんなにも若干姉心的な要素があるのだ。
見た目はどうあれ精神年齢上だったし。
というか小さい子には反射的にそうだった。
長年培われた姉としての
なのに最近乙女心の方が勝ってきちゃって、困っているのだ。
ゲームの見た目になっちゃったからか、イケメンになってしまったせいか。
いやどっちもだけど。
まぁ小さい頃も、ドキッとするような事はあったんだけど、子供だからどこか他人事でいられたのだ。
それが大きくなっちゃったからね?
あっちにその気がなくてもね?
ドキッとしちゃう時が出てきてね?
すごい犯罪を犯してる気分になる時があるのよ‼︎
いやなんていうのかな、みんなもうちっちゃい頃知ってるし、聖域みたいな⁉︎ 姉的にも見守り対象、みたいな!
でもたまにね! たまになんだけどね!
邪な気分になりそうな時があってですね⁉︎
そう、大人になったなーとか、イケメンだなーとか、色気とか感じちゃう時にね!
うっかり! 傾きそうになるのよ‼︎
乙女心の方が大きくなってしまう!
今も怒られてるのに、大人になったなーとか! しかし怒ってもイケメンだなーとか! まつ毛が長いとか思って、話聞いてないよね!
いや私の中で、私に怒れる人は大人だけなんだよね……。『いいお姉ちゃん』な私には、誰も怒らなかったし。
私そろそろ、本格的にお姉ちゃん失格なのでは?
「はぁ……」
思わずため息を零す。
「……話、聞いてますか?」
「大丈夫。姉としての自覚のなさに、海より深く反省してるとこだから……」
「それは話、聞いてませんね……」
アルが何か言っているけど、耳にイマイチ入らない。
流石に申し訳ないかなと思って、ちらりもその顔を見る。
こんなイケメンになってしまった……。
身長も伸びちゃってもう子供じゃないのね。
私には覚悟が足りなかったよ。
私がお姉ちゃん維持できるうちに、早く離れてくれないもんかと思う。
最近特に怪しくなってきたのでね……。
「もうカッコよくなるのやめない?」
「は?」
「怒ってもカッコいいのは反則だと思うの」
今ぐらいならまだギリギリ耐えられるから、もうそろそろ抑えて欲しいなぁ。
じっと見つめてそんな気持ちで言えば、呆けた顔のアルはちょっと顔が赤くなった。そして顔を半分を手の甲で隠して、目を逸らされた。
あぁそうそう。
このくらい可愛ければ大丈夫!
なんか元気出た‼︎
「あの……なんでそんな笑ってるんですか?」
「え? アルが可愛いから?」
「……君、私をどうしたいんですかね?」
じろっと睨まれても、全然怖くないです!
だって照れ顔だもの!
むしろ拝み倒したいよね‼︎
「やっぱり可愛いは正義なんだよ……!」
そう噛み締めるように言った。
可愛いもののためなら、頑張ろうって気になるからね!
さてさて、本題はなんだっけ?
そこでリリちゃんに声をかけられる。
「お、お姉様……お兄様が可哀想ですから、揶揄うのもその辺にして差し上げては……」
「え? 揶揄ってないけど?」
「……。」
あれ? なんでそんな困り顔なの?
無言になってしまったリリちゃんを、ぽけっと見返すも返事がない。
「ひどい惚気かと思ったんですが……」
「? 何が惚気なのヴィンス?」
戸惑うような声に顔を向けたが、ダメだこれ、という哀れむような顔をされる。何が?
そこにひとつ、咳払いが聞こえた。
「クリスティ。話がズレてるから戻すよ。まずその、怪しい人について教えてくれる?」
まだ固まってるアルに代わって、プランが話を進めてくれるので、それに乗る。
「うん……私たちが入学した少し後とかかな? そこで変な人にあったの。目の赤い、男の人だと思うんだけど……『何故俺が見える』って言われたんだよね」
「え、それ危ない人じゃないの? 大丈夫だったの?」
心配そうに聞かれるので、大丈夫だという意味で頷く。
「それ言われて、消えちゃったし? ……そうなんだよねぇ。なんか、目が赤くて男の人っぽかった事以外、覚えてないんだよね。髪も服装も……いや、服は制服だったかな?」
最初私はそこらへんにいる生徒に、話しかけようと思って声をかけたから、制服ではあったと思う。
「……随分と、曖昧ですね?」
復活したらしいアルから、声をかけられる。
「そうなんだよね。でもこの人、バレたくなかったみたいだし、今回の事も考えると多分この人が、闇の魔力持ちなんじゃないかなって……」
そこで一瞬周りを見渡す。
みんなの視線があるだけなのを確認して。
言葉に出した。
「少なくとも、幻惑は使ってたんじゃないかなって。あの時私以外、他の人は彼に気付いてなかったみたいだから」
この発言に、空気が張り詰める。
けれど私は気にしないで、話を進める。
「スライムも、同じじゃない? 例えばこのスライムは囮で……他のとこから観察してたとか?」
一気にみんなの顔が険しくなったので、そこで黙った。
これは言えないかなぁ。
多分現状は、もっと恐ろしいかもしれない。
私の予想では……。
スライムが相手の『目』になってるか。
相手がスライムに、変化してる可能性もあるんだけど。
まぁ、これ話すなら、ブランがいないところか。
……闇の魔力の話からしなきゃならないけど。




