227話 言わなきゃよかった?
「……目の色を変える、ねぇ……」
ずっと黙っているわけにもいかないので、とりあえず思った事だけ言葉に出す。
「できるけど……変えるだけなんて、私ならしないかな。だって無駄に魔力使うだけだし。ずっと目の色だけ変えておくって、なかなか面倒だよ?」
自分に置き換えて考えるだけでも、うんざりしそうな面倒さだ。
だって目の色変えるだけでも書き換えだし。闇魔法の場合魔力の使用量は、常識だとか記憶に齟齬が出るものほど、多くなるのだ。
うーん……例えば髪の色を変えたいとして。
それを染めた事にして、変えるか。
それとも元からその色として、変えるか。
この2つでは、魔力の使用量が変わるんだよね。当然後者の方が、魔力をたくさん消費する。
要は実現可能なものの方が楽で、不可能に近くなるほど大変だってことだ。
たかが目。されど目。
全てのスライムに共通する条件を、わざわざ自分の好みだけで変えるか? って思う。
その労力かけるなら、1から新しいスライム創っても多分変わらないし、下手したらそっちの方が楽かもしれない。
自分で新しく作れば、スライムの色も自由なのにね。無から有を生み出す方が、闇魔法の場合は楽な時もあるのだ。
でも黒くて変身したなら、テイムしたスライムなんだろう。
「そんなファッションじゃないんだから、そこで自己顕示しなくてもねぇ? 自分とお揃いにしたかったとかなのか、なんなのか……」
そこでふと、思い出す。
赤い目の男の記憶。
そしてさっきのスライム。
あれが、こちらを見ていた事。
なんで今まで忘れていたのか。
なんで今思い出したのか。
でもそれより、今ーー大事な事がある。
「観察……? いや、でも……魔獣に……え、そんな事あるかな?」
頭が混乱してくるけど、しっくりくる気がして、でも正気を疑うような……。
「ティア……言わないと伝わりませんから、言葉に出してくださいね?」
「うわっびっくりしたー!」
考えに耽っていたので、完全に隣のことは忘れていた。
「自己完結するなってオレに言いますけど、クリスちゃんも大概ですよねー」
「むっ失礼な! 言おうと思ってたよ、私は! ……でも、間違ってるかもしれないしなぁって……」
間違ってたら申し訳ないし、何より自分も信じられないというか……。
昔からそうやって、意見を言うのを諦めてきたから……そう簡単に変われないんだよね。
期待させて、落ち込まれるのがこわい。
期待されるのもこわい。
こわいものだらけで、話さなくなる。
これがねー、まぁ何年経っても変わらないんですよねー。いやですわー。
まぁこれがないと、私闇の魔力も使えなくなっちゃうんですけどね……悲しいね!
「大丈夫ですよ、リスティちゃん。ここには否定する人はいないですし」
……心が読まれちゃうのも、考えものですよねー。
天使のような微笑みにも、私は苦笑いだよ。
「まぁ、一番バカにしてきそうなの私の弟だしね……」
「よく分かってるじゃん?」
そう言ってちょっとセツを見たら、不敵に笑われました。その反応はおかしいですけどね?
諦めて溜息を吐いた。
「……んー、仮説として聞いてね?」
そうして重い口を開く。
「さっきのスライム、スライムじゃないかもなぁって。いやスライムなんだけど……私が考えてる可能性は2つあってね?」
こればかりは証拠がないから、こっちとはいえない。だから予測でしかないんだけど。
まぁもう、みんなの視線を集めちゃってるから、話すしかない。
「さっき、あのスライムってこっちを見てたじゃない? まぁ普通に考えて、観察してたんだと思うんだけど……スライムに観察させても、あんまり意味ないよね?」
確認のためにレイ君に話を振る。
レイ君は「そうですねー」と言って、答えてくれる。
「まぁ普通のスライムに、知能はないですからね。簡単な命令はできますけど、状況報告とかできないですよね。クロじゃないし」
クロへの歪みない愛を確認したところで、話を戻す。
「うん。だから考え方を変えて、あの行動に意味があるって考えるべきだよね? 私的には……なんらかの形で、あのスライムを自分の目にしてたか、あれ自身が闇使いかなーって……」
まぁあくまで、私の予想でしかないんだけどね。
どうかなー? と、周りを見ると。
固まってる……突拍子もなさすぎたか。
「あ、もちろんおとりの可能性もあるけどね! あぁそれいれたら3つだわ」
一応突拍子もなくない案も入れておく。
でも解凍できなかった。あららー。
「いやね! 私前に怪しい人見ててね! その人赤い目だったし、なんかバレたらまずいみたいな話してたから、そこから考えちゃったというかねー⁉︎」
謎に焦って、弁明に走った結果。
「ティア? その話、誰かにしました?」
にっこり魔王様につかまった。
「うぇ⁉︎ えーと、いや、忘れてたし……」
「なんでそんな重要な話忘れるんですかね?」
「え、えー! いやーなんでだろうね⁉︎ な、なんか多分、色々あって忘れちゃたというか?」
うわーん! 墓穴掘ったよー‼︎
いらない事まで言って怒られるよー!
くそぅ! こんなことなら言わなきゃよかった! と思ったら。
「言っておきますけど。今言った事じゃなくて、言わないで忘れていた事に怒ってますから。それを隠していたらもっと怒ります」
「あぁー! 考えも読まれてる⁉︎」
アルって光魔力持ってないのに、たまに持ってるんじゃないかってくらい、こっちの考えよく分かってるよね⁉︎
逃げ場がないので、私はしばらく怒られる羽目になった。
えぇ〜……いい考えだしたのになー?




