212話 いつものやり取り
「何というか……」
私が話し終わった後、ヴィンスが険しい顔のまま口を挟んできた。
「ん? 何どうしたの?」
「いえ……たまに思うんですけれど、クリスって頭が良いのか悪いのか、分からないですよね」
「ねぇ失礼じゃない? ねぇ?」
怒るよ⁉︎ ていうか、怒ってるよ⁉︎
「いやなんというか、いつも何も考えてなさそうじゃないですか。ぽへっとして」
「酷いんですけど⁉︎」
その興味深げな目を止めろ!
きっと睨んでも怒っても、通じないのか態度が変わらない!
くぅー! こやつー!
優雅に顎に指を当てて考えやがって!
似合ってますね‼︎ このイケメンめ!
「そうですの。これだからヴィンセントは、何もお姉様の事をわかってないですの!」
そこに冷たい目を向けた、リリちゃんが入ってくる。
そうよリリちゃん! 言ってあげてよ‼︎
「お姉様は、たくさん考えた末考えがまとまらずに、全てを投げ捨てて、突っ込んでいってしまうタイプですわ‼︎」
「うわぁ! そっちの援護射撃だったかー! 私が打たれる側だったかー!」
しかし悲しいかな……当たっているでなんとも言えない!
うん、リリちゃん私をよく見てるねー!
でもなんでかなー⁉︎
お姉ちゃん今、グサッときたなー‼︎
「そうですよ! クリスちゃんは頭は悪くないんですよ!」
「あ、レイ君はいいよ」
伏兵が現れたので、手で静止して遠慮しておく。
「なんでですか⁉︎ だからこそ予測不可能で、研究しがいがあるって語りますよ⁉︎」
「うん、やっぱりそういう方面だよねー」
悲愴な顔をされても困る。だって予想ついてたもん。断るでしょそれ。
ほらー! またフィーちゃんが、顔を手で覆って笑ってるよ! 絶対ギャグだと思われたよ!
違うんだよフィーちゃん!
持ちネタじゃないんだよこれ!
すごいツボに入っちゃってるけど!
あとレイ君の隣! そこ放置してないで止めてください‼︎ 何、オレは関係ない、みたいな目で見てんの!
セツのその視線痛いし!
刺すような目、やめてよ!
今の、私じゃどうしようもないじゃん!
「あはは、たくさん理解者がいてよかったね、クリスティ」
「……ブランまで笑うのか……」
最大の理解者、お兄ちゃんにまで笑われる始末。ゲンナリだよ!
え、私そんな頭悪そうですかね?
首を捻って考えるけど。
……あれ、どうしよう。否定できない……?
明後日の方向を見つめても、改善策は見つかりませんでした。
見つかってたら、今こんなになってないね。
「……私はそのままでいいと思いますよ。正直その考え方を、羨んだ事もありますけれど。違う視点だからこそ良いのだと、今では思いますから」
「アル……」
こちらを見つめる瞳は、穏やかに慈しむものだが……。
「……確かに、私みたいなポンコツにアルがなったら、困るわ」
「ぶっ!」
真剣に返したのに、何故かヴィンスが笑い転げ始めた。負笑者を増やしてしまった。リリちゃんがそれを、また冷たい目で見ている……。
「そういう意味で言ったのではないのですが……」
その空気に負けずに、アルは苦笑してこちらを見ている。そこに変に感心してしまう。
いやだってすごいくない?
爆笑してるか、白けてる人しかいないんだよここ。カオス空間なんだよ?
強靭な精神がないと、この空気の中話を続けられないと思うよ。
そこに敬意を表して、真剣に聞いておく。
「じゃあどういうこと?」
「そうですね……」
アルはちょっと視線を外し考えてから、こちらをまた見つめて話す。
「人間足りないところは、誰しもあるものだと思うんです。なら、そこは他の人が補えれば良いですよね?」
「ほほう?」
ちょっと良い話なような気がするので、姿勢を正して聞く姿勢になる。
「私は君がいたからこそ、無い物ねだりはやめて、自分の良いところを伸ばそうと思えたんですよ。無い物は人に補って貰えば良いと、そう思えるようになったんです」
「おぉー! すごい! 立派な考えだ‼︎ みんな見習って欲しい‼︎」
思わずパチパチと拍手をする!
多分私はそんな高尚な話とか、してないんだけどね! そんなすごい行動もしてないしね!
全部アルが良い子だから!
そう思えただけのことですよ!
さすが王子様は違いますわー!
そんな笑顔で拍手喝采を送る私を見つめて、アルは目を細めて続ける。
「ねぇ。私なら君の足りない所を、埋められると思いませんか?」
「ほ?」
なんの話だ?
唐突な方向転換に、拍手も止まる。
今の私、タンバリン叩くお猿の人形が、止まった時みたいな感じ。
「アルはまずオールマイティだから、誰とでも合わせられると思うよ?」
「ありがとうございます。でも私の足りない所も、ティアなら補えると思うんですよ」
はてさて。どうなんですかね?
にっこりキラキラと微笑んで、いつの間にか手まで掴まれているけれど。
私、そんな大層なこと出来ないんですが。
荷が重くないですかね……?
「というか、アル足りない所ある?」
「今のティアみたいな考えは、私にはなかったですよ?」
「それは単純な知識の差というか……」
「知識不足で申し訳ありませんが、それも持っているものが違う、という一つの価値では?」
何故だろうか。なんか圧が……圧がすごいよ⁉︎
いやなんの圧なの⁉︎
私に何を望んでいるのよ⁉︎
迫られても困るよ⁉︎
にこにこ笑顔の仮面の下には、何を思っているのか私には分からない!
いや、私とアルの関係は……はっ!
「家臣として、ちゃんと支えて欲しいってこと⁉︎」
「えっ?」
なんで驚いてるのか知らないけど、答えは間違ってないはずだ!
「大丈夫だよ! 心配しなくても、主人の為に役に立ちたいと思ってるよ‼︎」
そうかそうか! そういう意味かー!
アルができないことは私が!
私ができない事はアルが!
上司と部下としてフォローし合うって事ね!
うんうん納得! と、頷くが。
「……難攻不落すぎる……」
と言って、アルはおでこを押さえていた……なんでだろうね?




