221話 厄介な予感
「いやでも私はやってないし……」
うーむ、と考え込む。
いやね、どういう事かっていうと。
私が思うに、魔法陣が消えちゃってるのは、これはもう確かなんだと思う。
問題はそれをどう消したか、なんだけど。
魔法陣の仕組みは詳しくないけど……通常魔法が消えるのは。
効果がなくなった時。
術者が解除した時。
打ち消された時、の3つだ。
「効果がなくなった時」は、術の前にいつまでって決めておけば出来る。要は、魔力供給を止めちゃうわけね。
でも自立型の魔法……今回みたいに、術者からの魔力を発動時以外必要としない、そういう魔法の場合は、関係ないだろう。
『流葬』は術対象から、魔力を吸い取り地に返す魔法。なら、魔力供給は対象がなくなるまでは、気にしなくていいことになる。
例の厄介そうなドラゴンが、死んだとは考えにくいので、この線は薄いだろう。
「術者が解除した時」だけど……まぁ3000年前に封印したなら、その術者生きてるわけないよね。
だから今回は論外。
普通は術者が解除する意思があれば、息をするより簡単に解除ができる。
魔力の供給を止めてもいいしね。
基本的にこの解除は、術者しか出来ない。
だって自分の魔力を操る事はできても、人の魔力は操れないでしょ?
よって他の人が止めたいなら、打ち消す方になる。
最後「打ち消された時」は、ある意味もっとも一般的な考えかなと思う。
魔法が発動したままで、術者に解除の意思がない場合には、これしか方法がない。
闇の魔法が光の魔法で消せるのも、これを使ってるからだ。
書き換えキャンセルっていうのかな?
闇の魔法がペンなら光は消しゴム的な?
……いや。もっといい例えありそうだけど。
正確には、闇魔法は「全てを隠す」魔法で、光魔法は「全てを照らす」魔法、と考えた方が分かりやすい。
闇魔法は嘘を本当にする力だけど。
その嘘が証明できれば、嘘でしかなくなる。
光魔法は、嘘の証明ができるもの。
でも、例外的なものもある。
例えば……有を、無にされた時、とか。
無から生み出された有の嘘の証明は、容易い。だってどこかに、生み出された証拠があるから。
でも無にされた時の嘘の証明は……多分不可能だ。
何故って、存在しないから。
ここにないものを、ないと証明しなさい、というのは、かなり難しい話。0は何故0なのかって、説明できないのと同じ。
ないものは、ない。
そうとしか言えない。
存在しないから、ないのだ。
ないものの嘘は証明できないから、光魔法でさえも管轄外だ。
まぁ実際には、私たちの記憶にはあるわけだけれど……ここは術者の手を抜いたところだね。これを消そうとすると、それだけ余分に魔力が必要だから。
けれど記憶ほど曖昧なものもない。
記憶は風化する。忘れる。
無かったことに、いつでもできる。
物的証拠がないと、証明にはならない。
まぁつまり。
闇魔法で「隠された」ものは見つかるけど。
闇魔法で「無くされた」ものは無理って事。
だからここにあった魔法陣はーー闇魔法によって「無かった」事にされた、と考えられる。
……そのレベルの闇魔法が使える人間は、私は私しか知らないかな……って事ですよ!
もちろん私に、その記憶はない……けど!
そんなホイホイ闇使い、いて良いものじゃないよ⁉︎
だって闇魔法は黒い感情起因なんだよ⁉︎
世界の書き換えって、簡単じゃないのよ!
書き換えが少しの間しか出来ないから、通常闇魔法は幻惑とか言われてんのに!
私がやってないんだとしたら!
そのレベルじゃない闇使いが!
いるって事じゃないですかー‼︎
うわぁやだ信じたくないんですけどーー‼︎
私以外にいるとしたら、記憶の奥底に眠る話から引っ張り出すと、1人しかいないわけで。
つまりさぁ。
女神様に確認必要だけど……これ。
世界崩壊の原因の人じゃないかな?
これはいよいよ!
隠しておけなくなってきたぞー!
さぁなんてみんなに説明しようか、と頭を悩ませる。
いやいや。いきなり世界滅亡説なんて、話せないですよ。女神じゃあるまいし……。
だってここ、ゲームじゃないもん。
「世界を救うために、協力して」とか言えちゃうのはさ。頼んだ先の相手のことを、考えないからだよね。
世界がなくなったら意味ないから?
でも自分がいてこそ感じられるのが、世界だよね。
滅亡阻止して死ぬなら、変わらないよね。
もちろん、全てが上手くいく可能性だってあるけど……リスクを取らなくていいなら、させたくないわけですよ。
知った後では、知る前には戻れない。
知らない方が幸せなことはあるのだ。
少なくとも教えたら、みんなに一つ悩みの種を植えることになる。
なら、できるとこまでは自分でやる。
予知で見比べればと思ったけど、ここまで頑なに思っていると、そもそも迷いが出る。
迷いがあれば、疑えば……闇魔法は使えない。
だから、みんなに伝えた時の予知はできないのだ。
つくづく自分は闇魔法に向いてないと思う。
思い込みや信念のせいで、宝の持ち腐れだ。
でもそれがないと、悪用しがちな魔力。
まるで魔力自体が私のようだ。本当に面倒くさい。
「……ア……ティア!」
「おわっびっくりしたー! な、何?」
肩に手までかけられたので、ビクッとして思考が旅路から戻ってきた。
「何、じゃありませんよ! 考え込んだまま反応がないんですから!」
そういうアルの顔は、苛立ち焦り、そして不安が入り混じっている。うん、心配させたみたいだ。
「ごめんごめん……ちょっと考え事を……」
えへへーと誤魔化すが。
「何が分かったんですか?」
「へ?」
「何か分かったから、悩んでいたのでは?」
そう迫ってくる彼はーー有無を言わせぬ迫力があった。あと、後ろでフィーちゃんが待機している。ニコニコして。
あ、嘘つくなってことね?
私はそれに勘弁して、今わかったことだけ話す事にする。
世界がどうなるかさえ、話さなければ良い。
だってもう、魔法陣の件はみんな知っている。
知らない時には、戻れない。
ならそこに解答をあげるのは、安心させるためでもあるんだよ。答えがあるって安心するよね。
だから私は口を開いた。
「……今回の件、私以外の闇使いが絡んでると思うの」
そう伝えて、根拠も話す事にした。




