218話 時に正しさは間違いを招く
「これは専門家じゃないと、分かんないですよね!」
なんだか、魔法陣がおかしい気がするのが分かっても、私は魔法陣の勉強しているわけじゃない。だからそこまでだ。
「そうですね、専門家……ただ」
いつのまにか後ろから、覗き込んでいたらしいアルが、同意しつつも言い淀んでいる。
気になって、振り向き聞いてみる。
「何?」
見上げるように目を合わせると、ちょっと瞬きした後目を離された……けど、そのまま説明はしてくれる。
「解読は必要ですけれど……城から人を呼ぶとなると、今年の大会は中止ですね」
「えっ‼︎」
驚愕の声を上げるが、アルは続ける。
「解読に時間がかかりますし、これが危険でないと証明するまでにも、時間がかかります。それが分かるまで、まず学園を封鎖する事に……」
「えっえっ! ちょっと待って! 何で⁉︎」
思わず服を掴みながら聞いてしまう。
だってこれ見えなかっただけで、今までもここにあったんだよね?
今更な話じゃない⁉︎
しかもこんな頑張って進めてる、魔術遊戯会も潰して確認するとな⁉︎
「……分かってしまった以上、放置はできませんね。恐らく何かが封じられていることは、確かなんでしょうし……」
そこに同意する声が……。
「ブラン⁉︎ ブランまでなんで⁉︎」
「クリスティ、僕は生徒会長なんだよ。生徒を危ないかもしれない所には、近付けられないよ」
首を振りながら、悲しそうにそう言われる。
な、なんという事!
私ってば、パンドラの筐を開けた訳⁉︎
だって確認が必要だって言うからー!
しかし後悔しても、もう遅いのである。
もしそのまま進めたいなら。
2人を納得させないといけない。
……ただ私も、人に被害が行くのは望むところではない……。
「あ。魔法陣の解読なら、ちょっと時間くれればオレができますよー」
空気を読まない軽い声の主は、もちろん。
「レイ君……分かるの?」
「城にある魔法陣の書は、全部目を通したはずです。記憶力には自信があるんですよねー!」
笑顔でそう言われるけれど、今そういう場面じゃないと思うよ。
案の定、アルが眉を寄せているし。
「あの量……読んだんですか?」
あ、そっち?
怒るのかと思ったんだけど。
「もちろんです! オレの研究は、魔術の発展と魔道具についてですからね! 魔法陣は基本分野ですよ! 覚えないわけがありません!」
その返答に、レイ君も笑顔で答える。
そういえば意味のわからない魔道具も、たくさん作ってるもんね。
忘れかけているけど、そもそも魔獣研究は魔道具に使うための研究なのだ。あのスライムたちも、すり潰して使われるわけで……。
それに魔法陣といえば、魔道具のイメージがメジャーだ。というか、そこでしか今は使われていない。
そう考えれば当然に思え、なんだか納得して話の行方を見守る。
でもアルは納得してないみたいで、質問を続ける。
「……持ち出し禁止書籍があったはずですが」
「持ち出さなければ良いんですよね? なら別になんて事ないですし」
「……閲覧禁止書籍もあったはずなのですが……」
「それはまぁ、父がちょちょいと色々しまして」
ちょちょいとじゃないんですが⁉︎
突っ込みたい気持ちを抑えて、必死に黙っている。
ここで水をさしたら意味がないからね!
「魔法陣の仕組みが分かってれば、そんなに難しくないんですよ? 言葉を図形にしてるだけなんですから、法則性がちゃんとありますし」
けろっと言ってのけるが、多分そんなに簡単な話ではないはずだ。
それで済むなら、みんな魔法陣使う。
あと、専門家はいらない。
もっと広く国で使われているはずだ。
つまりそうなっていない今、それが出来るならレイ君は……腐っても鯛というか……ごほん。
いや。さすがは天才、という事だろうか。
「多分城の人たちが本を片手に解読するより、オレの方が早いですよ? あと、この手の魔法陣は、複数あるのが普通なんですけど……」
そう言って魔法陣に目を向ける。
多分みんな、そうなの? って思ってるよ?
「全てに闇の幻惑がかかってるなら、見つからないんじゃないですかねー? でも頭の堅い人たちって自分で探したがりますから、言っても聞かないでしょうね」
「諦めるのに、何年かかりますかね?」と、無邪気に笑う……それ、脅しじゃない?
「あとこの魔法陣、まだ正確に読み取ってないですけど。流葬だとするなら、確かに2人が気にしてたところ違うんですよねー」
そう言って、私とフィーちゃんが見てた所を指差す。
「そこ、反転してます。そういう魔法陣は、見た事ないんですけど……普通に考えるなら」
そう言って笑みを消し、目を細める。
それはまるで、警戒するように。
「力を奪う印の逆ーーつまり、力を集める印になってるんじゃないですかね」
「なっ!」
アルを皮切りに、みんなの顔色が青ざめていく。
そう言われれば、確かにまずいよね。
しかもこれ大人に任せておいたら、そのまま解読できずに力を集めつづけるんでしょ?
それはどう考えても避けるべき事態だ。
「でも……本当にそうなるかは……」
ブランも迷ってるみたいだ。
うん分かった。
これは、私が見るべきだね。
そう思って、服の中からネックレスを取り出した。




