210話 噂話再び
「あれは世紀の大発見に違いない!」
「本当かー? 嘘つくなよー」
「大変ですわ! 聞いて下さいませあの例の話! 本当だとか!」
「まぁ、そんな事ありまして?」
いつも通りの日常。その中で話される話は、大抵日常の些細な事か、貴族の誰がどうした、というような与太話である。
貴族であろうと、噂話好きは変わらないもの。
魔術遊戯会の準備が進められる中、そんな学園内で、ひとつの噂が流行り始めた。
「俺たちのクラスで最近、前にブラン君が言ってた七不思議の話が、流行り始めたんですよねー」
「あーあれな。なんか知らないけど、急に出始めたよな」
「……みんな話してる」
生徒会室に、3人の声が響く。
だるだるーっとレイ君が話だし、それにセツが続く。そしてノア君が首を縦に振った。
そうそう。今日はノア君が、珍しく遊びに来ている。
というのも、大会の申請書類受理なども生徒会の仕事なのだが、そもそも申請されないと仕事ができない。
なので、今は仕事待ちの状態なのだ。忙しいは忙しいが、生徒会が忙しくなるのはもっと本場近くなってからだ。
という訳で部外者も交え、雑談の花が咲いている。
まぁノア君も少し手伝ってくれてたけどね。
散らかった書類の整理とか。
雑用でごめんね!
本当はそれもあんまり良くないですけど、バレなきゃいいのよバレなきゃ。
だってそのまま座ってていいよって言うと、悲しそうな目を向けられるんだもん……!
あれに!
あの目に耐えられないの‼︎
だから手伝ってほしいと言ってしまうのだ。
「そういえばうちも、話してる気がするなー」
私も雑務にひと段落ついたので、話に混ざっている。
区切りがついた人から順に、優雅に雑談ティータイム中だ。
「そうですよね、最近皆さんその話をよくしていらっしゃいますね。面白がってる方が主ですけど……」
フィーちゃんも同意を示す。彼女は私と同じクラスなので、まぁ当然噂も耳にしている。
「けどってことは、なんか他にもあったりします? 聖女様?」
レイ君が興味深げに尋ねた。
「えーと……気のせいかもしれないんですが、本当に怯えているような方も、いるような……」
少し躊躇いがちにそう言うので、思わず口を挟んだ。
「えー? それは七不思議を、本気で怖がってる人がいるってこと?」
何の気もなしに、突っ込んだだけだったのだが……。
「そうですね。しかも噂というより、本当に見たかのような反応な気がします」
首を振って肯定の意を示される。
む? つまりどういうことですかね?
「お、じゃあノア君と同じ意見ですねー。やっぱりなんかありますね、これ」
「えっノア君もそう言ってるの⁉︎」
レイ君の発言に驚き、ノア君に視線を移すと少し肯く。
「……多分、本当に見てる」
え、あれ作り話じゃなかったの⁉︎
「そもそも七不思議が、7つ揃っちゃってる時点で、胡散臭いと思ったのに⁉︎」
「あーそういえば最後を知ると死ぬとか、よく噂あったなー」
昔の記憶が共有できる、セツが思い出したかのように言った。
そうだよ!
だから最初から嘘だと思ってたのに!
「まぁノリで、見たって言ってる人もいそうですけど、本当だったらちょっと興味ありますねー」
「あれ、レイ君前は興味なさそうだったのに」
「いやいや! 嘘なら価値がないですけど、本当ならどんな魔術や魔獣が絡んでるのか! 興味しかないですよ!」
キラキラの眼差しでそう言われた。
うん、君はそういう子だったね。
私が間違ってたね、ごめん。
「……まぁそうじゃないにしても、大会前になんか問題あったらマズいじゃん? だから、何か知らないかなと思ったんだけど」
珍しくまともなことを言う弟を、マジマジと見つつ感慨を覚える。
成長したのねセツ……!
お姉ちゃんは感動したよ!
そんな姉に、白けた視線を返す弟から目を離し、言われた事について考えてみる。
何かって言われてもなー。
私、噂話話してくれるほどの友達いないし。
みんないまだに遠巻きなんだもん。
「そもそも七不思議を詳しく覚えてない……」
私がそう呟くと。
「うわぁ、マジアホ姉なんですけど」
「はぁ⁉︎ じゃあセツ覚えてるの⁉︎」
唐突に貶されて、起こった私は弟に詰め寄る。
「当たり前じゃん。ブラン兄ちゃんが一度言ってたんだから、覚えてるの普通だからね? それに噂になってるんだから、覚えてない方がおかしい」
「むっかー! 弟が生意気なんですけど!」
憤る私に、フンッと不遜な態度を取るセツ。
もっとお姉様を敬いなさいよ!
たしかに! 記憶力はないけど!
でも噂聞く機会がそもそもないし! 友達いないし!
あれ、なんか悲しくなってきたぞ?
そんな私を止めたのは、フィーちゃんだった。
「まぁまぁ! お2人とも落ち着いて下さい! セス君、私も忘れてしまったので教えてくださりますか?」
私の肩を掴みこちらに笑いかけた後、困り顔でセツにそう言う……案の定、セツは狼狽えている!
フィーちゃん! さすが主人公!
男の扱いが完璧ですわ!
そして私の扱いも完璧ですよ!
「ほら、あれだよ……」
フィーちゃんにはチョロい弟が、きちんと話してくれる。
「赤い火の玉、黒いスライム、開かずの屋上、徘徊男、魔法陣、ドラゴン、幻の部屋の7つ。まぁ、このうち1つは検討ついたけど」
「え、何セツってば、怪奇現象に出会したの⁉︎」
びっくりして言うと、セツは視線をそらして言った。
「いや、最後のだけだけど。そこの『フィーちゃん』が……」
「あ! あそこですか! たしかに、それなら納得です!」
「え、待って2人で納得しないで?」
目配せして盛り上がってるとこ悪いけど!
私は理解していない!
しかし私にお構いなく、フィーちゃんはノア君にも話を振る。
「多分、ノアール様も入れます!」
「……あそこ?」
「あそこです!」
な、なんかこっちでも盛り上がっているけど……これは、光の魔力関係なのか?
唯一私の感情が共有できるであろう、レイ君を見るが。
「時空間魔法は範囲外なんですよねー。だってサンプル少なすぎるし、制約多すぎるし、調べようがないし……いつかは手をつけたいですけどー」
と、全然違う悩みを抱えていた。




