20話 忘れ物
「つかぬ事をおうかがいいたしますが、本題のご用はなんでしょうか?」
秘儀、すり替えの術! という事で、ひそかな疑問も尋ねてみた。しかしアルバート王子、ぱちくり。あれ? 変なこと言った?
「あら? 生存確認であれば、2人きりになる必要はないかと思ったのですが……」
涼しい顔を作ってわからないので聞いてみる。多少失礼でも聞かなきゃわかんないからしょうがないのだ、私は人の心は読めない!
私、この通りピンピンしてます。
お見舞い、終わりましたよね?
話すなら、セツとかいても良くない?
つまり、なんかまずい話があって人払いしたんじゃ? ってことが気になっている。用事がなきゃ、わざわざ王子様ともあろうお方がここに来ないでしょ?
ここにもメイドさんはもちろんいるけども。まぁ使用人は、貴族だと空気みたいな扱いしたりするから、まぁたぶん彼も気にしないんでしょう。そしてここまで言えば王子にも伝わってるはずで……そう思っていたら堪えきれなくなったのか、王子はくくくっとお腹を抱えて笑い出した。
「アルバート王子⁉︎」
「い、いえ、すみません、ちょっと……ふふっ」
うん既視感だね! 私なにかおかしかったんだね⁉︎
すみませんThe・庶民の想像する貴族で‼
笑い出したアルバート王子に、恥ずかしくなった。
「あの、淑女として至らぬ点がございましたらご指摘いただけると……」
おずおずと尋ねると、クスッと笑って返答があった。
「ええ、忘れているようですので申しあげますと——私達は婚約関係にあるのですから、これは普通なんですよ」
ん? どういうことだ?
ぽくぽくぽくぽくちーん。
……はっ!!!!
「今すぐ婚約解消がご希望ですかっ!!??」
「何故そうなるんですか」
嫌われたかとあせって言ったけれど、どうも違うらしい。笑いながらも困った顔をされてしまった。忙しいなアルバート王子。いやそうさせてるのは私なの……かな?
「今後も会うときは、2人きりになることが多いと思いますよ」
「えぇ……それはなぜ……」
「まぁ今回は間違いではないので、本題を申しますと……」
強引に話を切りあげられたよ⁉︎
王子、理由は⁉︎ 自由人なの⁉︎
そんなの許され……いや王子様だから許されるか?
「先日置いていかれてしまったので、持ってきました」
私の動揺などいざしらず。そういいながらさらっと流したアルバート王子は立ちあがり、こちら側に回ってきた。そしてなぜか隣に座り——そのまま差し出されたのは一輪の白百合。
「これは……あの時の?」
「そう、君ががんばってくれた百合ですね。昨日から水にふれさせていませんが、しおれていないところを見ると成功したようです」
それはまぎれもなく、あの時の私が魔法をかけた百合。一見ふつう。ただながもちするようになったのかな……なんてのんきに受けとったら、その違和感に気づく。
「あれ、なんだか飾り物みたいになってる……?」
思わずまじまじと見た。そう。見た目は生花なんだけど、触った感じ……花弁とか瑞々しさはそのままなのに何かがどうも違う。硬いというかなんというか……折っても何事もなったかのように元に戻る。跡もつかない——謎の物体になっていた。なにこれ?
「もしこれについて何か人から聞かれても、自分で魔法をかけたと言ってはいけませんよ。悪用されるかもしれないので」
「……やはり危険なのですか?」
「君の身がね」
顔を見て質問すると、目を見て気づかう言葉が返ってきた。うーむ。どう活用するのか皆目見当もつかないんだけど、なんかバレたらやばそうなのはとりあえずわかった。使おうと思えば色々できそうだ……特に生き物系はまずい気がする倫理的に。でも儲かると思われたら——なにかとバッドエンドだね!
だから私は大人しくこくこくと頷いた。やぶ蛇はつつかない!




