207話 後先考えない主義
「うわ高……。 もーちょっと考えてから外出るべきだったなぁ。 後先考えないで窓から出てきちゃったよ。これ降りる時どうしよう……とりあえずもう下は見れない……見たら私が死んでしまう……」
私高いところ苦手なんですよ。
でも今更そんなこと考えても遅い!
そして善は急げである。
クロに乗った時点でもう手遅れ!
後悔先に立たずですが、まぁ勢いできたからなぁ……。
力強い羽ばたきと、体温を感じながら前を向く。
「ブランの騎士団見学、ついて行って良かったわー。見てなきゃ今頃、ドラゴンのクロに乗らなきゃいけなかったよ……」
下からクロの「キュルルル!」という声がする。返事のつもりなんだろう。
まぁクロっていうか……グリフォンの鳴き声だけど。
あの後は私は。
アルに「会いたい」って言われたので。
とりあえず何とかしよう! と思った。
ウィスパーボイスは心の声で会話するので、なんというか……本人が意識してる以上に、言葉に感情が篭りやすいんだよね。
表情とか見えないけど。
あーこれさびしいんだなと分かった。
しかもかなりな感じだった。
声じゃないけど、声音に力が入りやすくなってる、みたいな?
動揺とか、そういうのが伝わりやすい。
だから、すぐ会わなきゃ! って思ったのだ。
「ちょっとアルに会いに行ってくるね!」
「え! リスティちゃん⁉︎ もう夕方ですから、寮から出られませんよ⁉︎」
部屋から出ようとした私を、話の行方を見守っていた、フィーちゃんが慌てて止めてきた。
「無理かなぁ?」
「無理ですよ! というか、出たところでどこで会うんですか⁉︎」
「部屋に……あ、そっか。男子寮女子禁制だね?」
もうドアノブを掴んでいたけど手を離した。
そして考え直す……でも、今会いたい。
だってアルって結構思い悩むタイプだし。
勢いで聞いておかないと、聞き出すの大変なんだもん。
それに私だって心配なのだ。それが早く解決するなら、その方が良いに決まっている。
しかもさっきから「何する気ですか⁉︎」って、ずっと話しかけて来てるんだよね。適当に相槌をうってるけど。
期待させちゃってるし!
ここは行かないとだよね!
約束は守る女、クリスティアですよ!
どうしたものかとフィーちゃんの方を見ると、窓が目に映った。
「あ、なーんだ。ドアがダメなら、窓でいいじゃない!」
「⁉︎ リスティちゃん、ここ5階なんですけど!」
窓の方にズンズン進む私に、フィーちゃんが掴んで止めに来る。心配しすぎだ。
「いや、空飛ぶから大丈夫」
「空飛ぶから⁉︎」
「あぁ、フィーちゃんはクロのこと知らないのか」
一瞬クロは魔獣なので、話そうか迷ったが。
まぁフィーちゃんなら大丈夫でしょ。
私の力、もう知ってるようなものだし。
というか、見せないと多分、ここから出られないし!
そう思って、固まっているフィーちゃんの前で、ブレスレットのクロに「クロ! 戻って!」と呼びかける。
淡く銀色の光を発して、クロはスライムに戻った……何故か腕に乗ってるので、手に移動させる。
「えーと、私のペットのクロです!」
「え、え⁉︎」
口元に手を寄せ肩を上げて、完全に身構えた状態で混乱している。
うんまぁ、そうなるよねー!
「私の魔力しか食べられないから、怖くないよー?」
「え、あの、そこより! ブレスレットがスライムになった事が、気になるんですが‼︎」
あぁそっちか。
てっきり、魔獣を怖がっているのかと思ったよ。
「まぁそれは私の魔法のせいだから! いつもの事だから!」
「えぇ⁉︎ 魔獣の姿まで変えられるんですかっ⁉︎ というか、なんでそんな平然としてるんですか‼︎」
まぁ変えられるけど、クロはクロ自身の変化なんだよね……って説明すると長くなる!
残念ながら私は急いでいる!
フィーちゃんに全てを説明するのは!
帰って来てからで良いよね!
「まぁまぁ。そういう事もあるよね」
「ないですよ⁉︎ えっちょっと、本当に外に出るんですか⁉︎」
相槌をうち宥めつつ、窓を開ける私に、フィーちゃんが焦ってそう言う。でも無視して進める。
だって待っててって言っちゃったもん。
「クロ、ドラゴンじゃないので、なんか飛べるのない?」
クロを見つめて言うと、クロはこちらを見上げた後、ぴょんっと跳ねて外に出た。
「え! スライム落ちちゃいましたけど‼︎」
「あ、大丈夫大丈夫。ほら」
目を見開く彼女に、手で示す。
そこには飛び上がって来た、グリフォンがいた。
「なんでグリフォン⁉︎」
「クロだよ?」
「クロだよじゃないんですけど‼︎」
唖然としているのを良い事に、窓から身を乗り出して降りようとする。
「ま、待ってリスティちゃん、落ちる、落ちちゃいますー!」
「落ちたらクロに拾ってもらうから、大丈夫ー!」
「怖いもの知らずですか⁉︎」
私が主張するも、フィーちゃんは止めてくる。
服を掴んで引っ張られるので、どうしたものかと思うが、説得するしかない!
「今行かないと! ダメな気がするの! 行かせて‼︎」
目を見てそう言うと、服を握っていた手から力が少しずつ抜ける。
「本気……なんですね。分かりました……でも、一つ言って良いですか?」
真剣なその目に、私も構えて尋ねる。
「なに?」
「あの……そのままじゃ目立ちまくりです!」
「あ、ヤバいそうだね! ありがと! 行ってきます‼︎」
そう言うなり、私は窓枠を蹴った。
ちょっと滑ってドキッとしたけど、なんとかしがみつき成功!
いやークロじゃなきゃできないね。クロなら何とかしてくれる安心感あるからやったけど、普通は無謀すぎるもん……。
そしてそのまま、アル以外に見えないように魔法をかけるーー私とクロが、銀色の光に包まれる。
「おし、これで良いでしょ。あ、フィーちゃんキョロキョロしてる。まだここにいるけどね」
良いアドバイスをくれた友人に一言、ウィスパーボイスで伝えた。
『シーナとリリちゃん、適当に誤魔化しておいて!』
『無茶振りなんですけど⁉︎ リスティちゃん⁉︎ ちょっと、大丈夫なんですね⁉︎ 信じてますからねー!』
そうして、今!
ここ男子寮の6階の窓についた!
ここだけ明かりがついてるから、アルの部屋なはず!
という事で、クロの首元まで身を乗り出して、コンコンと窓を叩く。
開けてくれないと困るので、ウィスパーボイスもおまけにつける。
『アルー! 窓! 窓開けてー‼︎ この姿勢つらいから落ちちゃうー!』
途端に、声にならない雑念というか、驚きが伝わってきた。あ、なんか焦ってるな。
ドタドタドタッ!
ザッ!
すごい足音と一緒に、カーテンが開いてすごい顔のアルがいる。
「アル顔すごいよー!」
口に出すと、『ちょっと窓開けますから離れて下さい!』と、怒るように言われた。
あ、窓外開きだもんね。
確かに邪魔だった。
ごめんごめんー!
少し離れると、バッと窓が押されて開く。
あんなに早く開けられるもんなんだなー。
変に感心する私と裏腹な、アルは口を開いた。
「ティア⁉︎ 何してるんですかっ⁉︎」
開口一番飛び出したのは、思っていたより大きな声でのお叱りの言葉だった。
「おおー! ウィスパーボイス切ってないから、二重に聞こえる! 本当に驚いてる‼︎」
「そんなのどうでも良いですからっ‼︎ どうしてここに……あぁそれより! 一度中に……」
相当びっくりしているらしく、ウィスパーボイスも切らないまま話すので、頭に二重で伝わるのだ。
思ってる事と言ってる事が一緒なアル。
結構貴重だなー、面白いかも。
そんなことを考えて、私はちょっと笑っている。
「なんで笑ってるんですか⁉︎ というか、それ降りられるんですか⁉︎」
そう言われて、思い出した。
そかまで考えてなかったことを。
「た、多分……」
「多分って何ですか‼︎ また後先考えずにやったんでしょう⁉︎ これだから……」
あからさまに不安げに言ってしまったので、アルが怒り出した。
あぁマズい……。
お小言が始まる!
かくなる上は!
「飛び移るから、手貸して!」
「⁉︎」
その前にダイブだ! それー!




