205話 やきもち?
「リスティちゃんは、ブランドンさんのことは好きですか?」
「え? うん。好きだよ? お兄ちゃんみたいに接してきたしね」
ティーカップを眺めながら、尋ねるフィーちゃんに、ほぼ即答で答える。
何が聞きたいんだろ?
まあブラン嫌いな人の方が少ないでしょ。
優しいし、安心感あるしね。
「では、殿下の事は?」
「え……えっと、普通に好きだけど」
視線を私の方に戻して聞かれ、ちょっと意味を考えてしまった。少し反応が遅れる。
「そうですかそうですか! よかったです、安心しました!」
「ん? 今のに安心するとこ、あった?」
それはもう、ほわーっとした笑顔で喜んでいるので、私としては眉を寄せてしまう。
「あのですね、リスティちゃんも殿下も、考えすぎだと思うのです」
そんな私にお構いなしに、彼女は微笑んで話す。
「考えすぎ?」
「はい! 駆け引きがどうこう考えて不安になるくらいなら、素直に一緒にいたらいいと思います!」
「駆け引き?」
そ、それは私が応援しようと、2人で話してる時近付かないようにしてる事?
いやでも、必要な事だし……。
考え込んでいると、少し間を置いてからフィーちゃんが言葉を挟む。
「殿下は、リスティちゃんと同じくらい、リスティちゃんの事を大事に思ってます。精霊に様子を聞いているくらいですし」
「何それ初耳だけど」
精霊……魔力が強い者なら、見ることができるとされる存在。
かなり強いと、どうも話しをする事すらできるらしい。
アルが話せるのは知ってるし、フィーちゃんが見れるのも知ってるけど、様子を聞いているのは知らない。
「どうも何かあった時だけ、教えてもらえるように言っているみたいですよ。会話の内容までは、私でも分からないんです。あれはウィスパーボイスと同じ要領なので」
穏やかに告げられる衝撃の事実。
んー気持ちを魔力に込めて、通信してる感じなんですかね?
まずそのウィスパーボイスが、ヘタクソな人間からすると、途方もなく壮大なスケールに思えますけど。
そんな事までして、気にしてるの?
「それでこの前……予選会の時に、リスティちゃん何か驚いてたじゃないですか」
「……うーん、まぁ早とちりだったけどね?」
あれかなぁ……と思って、虚空を見つめる。
ブランのあの発言ね。
もう聞き返す勇気もないし。
何も言われないので、放置のアレね。
「それが気になっているみたいですよ。私もいたので、様子が見えるか尋ねられましたし」
「光使いにまで聞いたら、私の心ダダ漏れじゃないですか?」
「でも動揺していることしか、分からなかったですけどね」
苦笑しているけれど、それは教えたって事だね?
いやいいけど。
話の内容分かることでもないし。
隠す事でも……ないよなぁ。
でもあの後、私視線逸らしたんだよね。
すっごい後ろめたい人、みたいな態度とったよね。それを見てたら、まぁなんか心配に……心配に……なるかなぁ?
あぁでも、自分に懐いてた飼い犬が、他の人に懐いてたら寂しくなる、アレ?
……それだと、ただのやきもちなんだけど。
「あの後殿下調子出なくて、魔法もちょっと精度下がっちゃったんですよ?」
「そんな事ある⁉︎」
「魔力の放出は、結構感情に左右されますから。動揺してからじゃないでしょうか」
驚いて聞くと、困り顔で返される。
まぁ確かに、感情が昂ぶると魔力漏れたりするし、そういう感じなのかもしれない。
「私は一度お二人で、ちゃんと話し合うべきだと思います。殿下はなんだか混乱されているようなので、ここはリスティちゃんの腕の見せ所ですよ!」
ぐっとポーズを決めて、そう言われたけれど。
酷い無茶振りじゃないかな⁉︎
「えぇ⁉︎ だってそれ、どうすればいいのよ⁉︎」
「二人きりで話し合えば! なんとかなります!」
「本当にそう思ってる⁉︎」
勢いでグイグイ押されてるけど、私はちょっと抵抗している!
もしそれが本当にやきもちなら、それだけ心開いてくれてるって事だから、嬉しいけどさ⁉︎
でもその解除の仕方は、私知らないよ⁉︎
どっちかというと、今まで妬く側だったよ⁉︎
どうすればいいんだ……特別扱いする、とか? いやでも私アルの事はかなり、特別扱いしてる方なんだけど!
これ以上って何すればいいの!
「フィーちゃんが慰めるんじゃダメなの⁉︎」
困って口からそんな言葉が出た。
だってヒロインですよ!
ヒロインが慰めるの、王道じゃないの!
結局悪役令嬢は当て馬なんだし!
でもそれに対して、フィーちゃんは首を振った。
「これは私ではできない事です。殿下もそれを望んでないですし。どうにか出来るのは、リスティちゃんだけですよ!」
「うわぁ責任重大……」
真剣に言われて、気が重くなった。
だって今の時点で、もう魔法に影響出てるんでしょ?
もうすぐ、本選あるのに。
マズいよねそれ、どう考えても。
これもイベントのうちなのに。
ここで優勝する約束を主人公として、できたらご褒美にデートに行く……そういうイベントがあるのに!
なのになんで飼い犬のことで拗ねてんの!
ダメでしょ! ヒロイン大事にしないと!
まぁちょっと嬉しくないかと言えば、嬉しいですけどね⁉︎
悩みつつも、とにかく会わないことには仕方ない、と思った。
そして何故かフィーちゃんに、「思い立ったが吉日ですよ!」と言われて、今連絡をとり、2人で話すタイミングを作るように言われた。
……今ですか⁉︎
心の準備出来てないんですけど⁉︎
グッ! じゃないよフィーちゃん‼︎




