202話 予選会
そうして、ブランと一緒に放送委員会にかけあったり、先生方に頼み込んだりして、とうとう予選会だ。
私とブランは今、参加者の列を見張る係をしている。
まぁそんなに多い人数いないから、これ自体は大変でもないけどね。ぼーっと、突っ立ってるだけみたいなものだから。
「これは……ヴィンスのお姉様が嫌がる理由、良く分かったよ……普通の貴族には耐え難いね」
「忍耐力鍛えるには、いいと思うけどねー」
「世の中の人たちはブランみたいに、騎士目指してる人ばっかりじゃないからね……?」
もうすでに疲れている私と違い、涼しい顔のお兄ちゃん。
さすが頼りになる……けど!
気持ちは分かち合えないね!
なんでそんなに余裕そうなのかなぁ?
まぁブランも、周りを見て効率的に動けるタイプだもんね。そういう意味では、会長にとっても向いていると思う。
「みんなは何番なんだろうね?」
「ランダムだからなぁ。それはさすがに僕たちでも分からないね」
キョロキョロしてみても、みんなの姿は見えない。
人数が減ってきたら、ブランが放送委員会の人に、ウィスパーボイスで適宜指示を出している。私は完全にただの観客みたいなものだ。
今回の予選会は、主に術の精度が見られている。
例えば土魔法『操花』は、植物を成長させて自由に操る術だが、これをただ伸ばすだけではなく、自在に動かせるか、だとか。
風魔法『風巻』はつむじ風を起こす術だが、ただ起こすだけでなく、移動させたり大きさを調整したり出来るか、だとか。
また、1つの技を維持したまま、別の術を新たに出すことが出来るか、だとか。
無詠唱でもクオリティの高い術ができると、加点がついたりする。そんな感じで審査されていく。
そもそもこの予選会を受ける者は、自分の魔法に自信を持つ者たち。大体学園の3分の1くらいの数かと思うが……。
うーん。目が肥えているせいで、すごいけど……みんなほどじゃないな、とか思ってしまう……。
自分の事は棚に上げつつ。
そんな感想で眺めている。
蚊帳の外だからできる事だ。
だって私の周り、中級はみんな無詠唱だし。
よっぽど丁寧にやりたいとか、小さめにやりたいとか、暇だからとかいう理由じゃないと、フル詠唱しないんだよね。
あ、ちなみに私はいまだに、初級すらフル詠唱ですよ! 中級なんて魔力量足りないしね! ……だから思うだけぐらい、許してください!
そんなことを考えていたら、アルとフィーちゃんが入ってくるのが、目に映った。
「あっ……」
「クリスティ。今仕事中だから、話しかけちゃダメだよ?」
「そっか!」
振ろうとしたその手を下げて、ピシッとした姿勢に戻る。
危ないあぶない。ブランに言われてなければ、普通に手を振ってたよ!
ちょっと距離があるせいなのか、2人で楽しそうに話しているせいなのか….…アルたちはこちらに気付かない。
……あぁ。あんなに笑っちゃって。
何話してるんだろ?
って、気にしてもしょうがないけど。
マズい。謎モヤモヤしてきた!
2人をガン見していたクリスティアは、隣でそれを見つめる視線には気付かない。
「まぁでもこれ終われば! みんな帰ってくるし‼︎」
私はグッと拳を握り、気合を入れた!
気分を変えなければ!
「……僕は2人だけでも良かったんだけどなぁ?」
ちらっとこちらを見たあと、目を閉じてからかうような声音で、ブランはそう言った。
「もー、それじゃ困るでしょ!」
「僕は楽しかったよ?」
「そういう問題じゃないです!」
どこまで本気で言っているのやら。
目を閉じているせいで、よく分からない。
口元は笑っているけど。
「そんなに殿下がいいの?」
ドキッとした。
「……え?」
驚いたせいで、ワンテンポ遅れる。
「や、なんでアル? アルっていうか、みんなの話だけど……だって私だけだと、迷惑ばっかりかけるし」
ちょっと途中で深呼吸して、落ち着いてから、後半はブランの方を見て、笑ってそう言う。
ブランは真っ直ぐ、こちらを見ていた。
さっきの笑顔、どこいっちゃったんだろう。
なんか少し怖いんですけど。
「僕は好きな子がかける迷惑は、迷惑じゃないと思うけど」
「え、うん……うん⁉︎」
視線を外して頷きかけて。
よく考えたらなんか変な気がした。
う、うん⁉︎
なんか、なんか言ってなかった⁉︎
え、気のせい⁉︎
「第一、別に迷惑ばっかりじゃなかったでしょう。放送委員会の子たち、説得してくれたのクリスティじゃない」
「え、あ、うんまぁそうだけど」
「それもわざわざ全員の、次の日の予知とかしてさ?」
「だってそれくらいしか、思い付かなくて……」
何事もなく進む話に、少し困惑してブランを見るが、ふつうに穏やかな表情をしている。
気のせい、それか考えすぎか。
しこりは残ったまま、話は進む。
「そもそもそんなに、ぽんぽんしてもらえる者じゃないから、みんなすごい喜んで手伝ってくれたよね」
「まぁ、大したことやってないけどね……」
本当に適当に。
次の日の予知を少しだけやっただけだ。
1人10秒くらいで終わる。
予言じゃないから、未来変えるわけでもないし。そんなに難しくなかった。
でも何故か、放送委員会の人たちに崇め奉られるような扱い、受けるようになっちゃったけど……。
私的には、協力してくれるお礼のつもりだった。
だって余計な手間を増やすのだ。
こっちがお願いする側なのだ。
なんかしてあげたいなーって思うじゃない?
とはいえ、ブランが頼めば聞いてくれたとは思うけどね……結構憧れの会長って感じだから。
「でも迷惑はかけたでしょ! 私ほぼ、ブランの後ろ歩いて回っただけなんですけど!」
「それは入ったばっかりだし、仕方ないんじゃない?」
「会長が過労死しないか、庶務は心配なんですー!」
「そこは妹が良かったなー」
「ワガママ!」
すまし顔で笑っているブランを揺すって、抗議していたが……。
「ところで、これ視線集めるから、ここでやらない方がいいよ?」
「あっ」
ブランに注意されて、慌てて手を離し、何事もなかったかのように、ピシッと姿勢を正した。
幸い今の生徒たちは審査中だから、あまりこちらを見てなくて安心した……アルとフィーちゃんはこっちを見てるけど。
また変な事やってるって思われたかな……。
気まずい私は2人から逃れるように、視線を逸らした。




