200話 予選会についての相談
放課後の生徒会室。
ここでも話が持ち上がるのは、当然の事ですね。
「ーーという訳で、例年は何人か参加しない役員もいたんだけど……みんな参加するでしょ?」
大きなテーブルに座って、会長であるブランがみんなを見渡してそう言う。
現在例年の資料を渡されて、魔術遊戯会の準備について説明を受けているところだ。これによると、予選会は中級魔法の精度をどれだけ高く見せられるかでふるいにかけているようだ。
審査員は先生方なので、そこはまぁ楽なんだけど。
この予選会、力の強さだけではダメだから、去年の5位以内に入った人以外は、参加者なら、全員強制参加だ。シード制って事だね。
私たちの仕事はというと。
当日の列整備とかそんな雑用が主だ。
だから、そこまで人ではいらないけど……。
「そうなると、私とブランだけしかいないのかー!」
流石に2人はキツい気がしますね!
というか、ムリな気がする! 無茶よ!
何人相手にするかわかってますよね⁉
生徒会役員は上流貴族の集まり。だから優秀な人物が集まりやすい。それで今まではどうにかなってたのかと、そう思うけど。
しかし私はまごう事なきポンコツである。
ごめん、ブランの足引っ張る予想しかない。
だって初めてのことだし。
要領は別に良くないので、慣れている事じゃないとテキパキ動けないのだ。あ、闇の魔力使っていいなら、多分別だけどね。
「そういうわけには行きませんから、私たちも抜け出しつつやりますよ?」
「うーん、お願いします、と言いたいところなのですが……不正を疑われるので、予選会出場者は予選会の仕事を、お任せ出来ないんですよね」
アルの申し出に、ブランが眉を下げて説明した。本選では外部票をその場で集計するので、不正にはならないが……予選会は外部票がないのだ。
この外部票っていうのは、観客の入れる票の事ね。予選会は先生方しかチェックしないので、不正を疑われやすいらしい。ちなみにブランはシード持ちなので、予選会に出ないんだそう。
すごいね!
でもなぜか順位教えてくれないんだけど!
何位なのか気になる‼︎
「不正ですかー。割とバカバカしいですね。ここに入った時点で普通より、優秀だと思うんですけどねー」
不満そうな声を上げるレイ君。
まぁ言いたい事は分かる。
生徒会は結構しっかりしてるし。
生徒会は貴族位が高いものか、実力を示したフィーちゃんみたいな子しか入れないからね。生徒会のプライドにかけて不正なんて……とは思うけど。
「そうなんだけどね。けれどたまに魔力量があるだけで技術的に未熟だったりだとか、貴族でも魔力の少ない人もいるからね」
「あ、それ私の話ですかね?」
ブランの発言に、すかさず食い付いた。
まぁ実例上げた方がレイ君納得するし……その分心の傷は増えますけどね! 体張って自分で抉ってくスタイル‼︎
「いや、クリスちゃんは違くないですか? 闇の魔法使えば」
「あれ使われたら、誰も勝てませんね……」
フォローしてくれたレイ君に、ヴィンスが遠い目で返している――あぁ絶対ウサギ事件を思い出してるな、コレ。
「そうですね! 不可能を可能にする力が、闇の魔力ですからね!」
「う、うん……それだとなんか、すごい人みたいになっちゃうけどね?」
「間違いなく、お姉様はすごいですの!」
「あ、ありがとう?」
普通ではあり得ないことを、目の前で披露したことのあるフィーちゃんとリリちゃんからもフォローが飛んでくる。どっちも氷繋がりだなー、なんてどうでもいい思考で落ち着こうと頑張っている私。
何故って力がバレるのが怖いからだよ!
ここね? 実はレイ君にも、スライム大量発生した時に闇の魔力使って、お掃除した事とかあるから。
私の闇の魔力の力について。
みんな知っているようなんですけど。
実はそうでもない。
なんでかと言うとーーブランは知らないからだよ!
お兄ちゃんに嫌われたくない私は! こんなにボケボケなのに! 今までそれらしい魔法、ブランの前では見せてないの!
未来予知とか幻惑はあるよ!
一般的なのはあるよ!
でもね!
スライムをウサギに変えたりとか、何もない水から氷のコップを取り出したりとか!
はたまた壁を通り抜けて、氷の世界を一瞬で元に戻したりとか、スライムを異空間に飛ばしたりとか!
そんな変な事は!
ブランの前ではしてないんです!
だから知らないんです!
ここまで隠してくると、もう言えないよね! 嫌われたくないしね!
そんな訳で、私はハラハラドキドキタイム中です。
散々嫌いにならないと言われてますけど。
残念ながら、私は信じていないのだ。
人の心が変わるところなんて、前世でたくさん見ている。それはもう簡単に変わるので……ね。
仕様がない。
仕方がない。
これは誰も悪くない。
そう思ってたって……傷付くものは傷付くんですよー!
ブランが大丈夫だと思ったとして。
そう言ってくれたとして。
というか優しいから言ってくれそう。
でも心の奥底で――本能的に感じるものは、もしかしたら恐怖かもしれない。
知らなかった一面を知ることで、同じように見られなくなる。人には、そんなのよくある話だ。そういうのが怖い。
今のみんなは。
たまたまうまく行ってるだけだから。
上手く……騙されてくれてるだけだから。
あーダメダメ暗いわ! 考えるのやめよ! バレなきゃいいんだから! そんなふうに頭から考えを追い出そうとしていたら。
「まぁでも、魔術遊戯会は『術の組み合わせ』も見られるからね。ひとつの魔力だけじゃ、厳しいよね」
肩を竦めて笑って流してくれる。
助け舟は、ブラン本人が出してくれた。
やはり困った時はお兄ちゃんですよ!
そうやってじーんと感動していたら。
「クリスティアはショボ魔力しかないもんな」
弟に水をさされました。おい!
「セツさん? 聞き捨てならないんですが?」
「だってこないだの魔力測定、雷も水も900だったって言って……」
「あーあー! そうやっていじめるんだー⁉︎ 自分がちょっとすごいからって! これでも成長したんですー‼︎」
どうでもよさそうな態度で人の魔力をディスらないでください! 私は頑張っているというのに! しょぼしょぼでも胸張って生きれるように努力してるのにー!
でもわかってるよ!
最上級ばっかのここだと!
最弱すぎてみんなコメントに困るってね!
「……クリスティは、僕と予選会の対策考えよっか?」
「はい……」
憐むような目を向けた後、そっと目をそらすお兄ちゃん……その優しさはいらなかったよ‼︎




