199話 話題はあの話
「楽しみですわー! 今度の会、どなたが優勝なさるのかしら⁉︎」
「投票制ですものね! 考えてしまうわ!」
「これで優勝したら、女子にモテるってマジかな⁉︎」
「いやお前やめとけよ……コテンパンにされて終わるぞ……だって今年は……」
ガヤガヤとにぎわう教室。
いつも以上に、みんなの関心を集める話題。
それはというと。
「うーん! 私たちとしては、なかなか準備が大変そうだけどね! でもたしかに、気になる気持ちは分かるなー‼︎」
もうすぐ行われる、魔術遊戯会。
これについてで、話題は持ちきりだ。
「たしか魔術遊戯会は、その魔術の難しさと美しさを競うものですよね?」
そう尋ねてくるのはフィーちゃんだ。彼女もちょっと、ワクワク顔ですね。
魔術遊戯会は魔術の向上を目的として、学内で年に一度開かれるものだ。
魔術の扱いの精度、難易度、美しさと実用性。全てが審査対象になる。本戦ではそれを観客の前で、1人ずつ発表していくのだ。
難しい技がたくさん見られるので、毎年大賑わい。しかもどれが良かったか投票して、ランキング形式で表される。
学年末に行われる、本当にバトルをする実技演遊会と並んで、人気の催し物だ。
「まず予選会もありますから、そちらの準備からですね」
涼しい顔してそう言うのはアル。余裕がにじみ出ている……王子の貫禄なの?
「でもこれ、希望者参加制なんだよね? 良かったよ全員参加とか言われなくて。私が出たら、みんなの失望の眼差しが痛すぎるよ……」
教室なので背筋は伸ばして、でも口調だけはいつも通り話す。
一応『預言師』として名を知られている今。
それを疑われそうなほど、しょぼい魔法しか使えないなんて、晒すわけにはいかない。
闇の魔法はどうしたって?
あれはダメですよ。
だってなんでもありだもの。
まぁ、一部は気付いてそうですけどね。
「ただ参加宣言をしなくても外部推薦が多ければ、参加せざるを得ないんですけれどね」
悪戯っぽく笑われて告げられる。
なかなかパンチの効いた一言ですけど。
私のライフは出た時点でもうゼロよ?
「え、嘘」
「ただティアは大丈夫ではないでしょうか。参加したら勝ちそうですから、あえて皆さん推薦しないと思いますよ。それにあそこでは、中級以上の魔法を使うように、指定されてますからね。水と雷では参加できないです」
つまり! いまだに初級までしか使えない、私のしょぼい魔力なら安心ですね!
……なんか傷を抉られた気がするのは、気のせいだよ!
「殿下は参加されるんですよね⁉︎ 楽しみですー!」
フィーちゃんがアルに笑顔で話しかける。
そう、いまは三人で話しているのだ。
結構教室でも、そんな機会が多くなっている。
まぁ、いじめ対策もあるし。
何よりフィーちゃんとアルの仲を、進めるためでもあるし……そうなると私は邪魔なんですが。
アルより、フィーちゃんに「お話ししに来ちゃいました!」と言われる。
いいのか悪いのかなかなか複雑な気分だよ。
二人の仲、ちょっとは進んだかな?
仲良くはなってそうだけど。
確実に、アルが私に話しかけるのは減っている気がする……自意識過剰じゃなければ。
たまに、モヤモヤしてしまうコレ。
なんなのかなー。
喜ぶべきことじゃない? ねぇ?
現実でも好感度パラメーターを見たい。
そうすれば、確実に喜べるのに。
「正直生徒会の準備で忙しいので、本当は少し辞退したいんですけれどね……まぁ、会を盛り上げるのも上に立つ者の務めです」
キリッとそう告げられて、さすがだなぁと感心した。
アルは逃げたりしない。
自分の立場が分かっている。
そういうの、私はできないから尊敬する。
だけど、たまに心配になるのだ。
「……本当に大変だったら、辞退してもいいと思うよ?」
少し言うか迷って目を彷徨わせてから、彼の方を向いてしっかり言った。
生徒会の仕事の手伝いはもちろんする。
でもその上王子様って、大変だよね。
たまに城に帰ってなんかしてるし。
ゲームでは見えなかった部分を、私は見て知っている。だから気にかけてしまう。
その言葉に、アルは少し目を開いた後、フッと笑った。
「ありがとうございます。では、後で覚悟しておいてください」
「えっなんで覚悟?」
怖いんですけど⁉︎
何するつもりですか⁉︎
私まだ何もしてないんですが!
そんな不安を込めた視線を送っても、にっこりバリアーに弾かれる。
「フィリアナ嬢は、出場されないのですか?」
アルはフィーちゃんに話を振る。逃げた!
「わ、私ではどこまでいけるか……」
「そんなことはないと思いますけれど……フィリアナ嬢におかれましては、光の魔力意外にも、魔力をお持ちでしたよね?」
苦笑いするフィーちゃんに、アルが尋ねている。
魔術遊戯会は持ち時間3分の中で、どれだけ技を見せられるかが決め手だ。
大体例年の優勝者は、複数の魔法を短時間に組み合わせて、盛り上げる方法で買っているらしい。
つまり、一つしか魔力を持たないような人間なら、上位には食い込めない。
フィーちゃんは光の魔力持ちだ。
光は呪文がない……いや、正確に言えば、ひとつだけあるけれど、その組み合わせができない魔力だ。魅せるのには、向いていない。
でもフィーちゃんの場合、その他にも土と風の魔力を持っている。
それの組み合わせ次第と魔力量、技術次第では、上位に行けるはずだ。だからアルは聞いているんだろう。
「フィーちゃんの魔法、私見てみたいなぁ」
ぽろっと本音が声に出た。
この間のマジカルクッキングのせいで、既に風の魔法のレベルが、かなり高い事は知っている。
風凪は上位魔法だし、範囲指定は精度が高くないとできない……はずです! 風の魔力なしなので、確証を持っては言えないですけど。
でもだからこそ、単純にすごいなーって思うのだ。私は純粋に楽しむお客さん側なので!
「そ、そうですか! では私も、優勝目指して頑張ります‼︎」
「えっう、うん。いきなりすごい気合いだね?」
「やるからには上を目指します‼︎」
私の一言に焚きつけられて、フィーちゃんがメラメラと燃えだした。
え、アルもいるのに、すごいこと言うね?
いや良いけど……なかなか大胆な発言だよ?
喧嘩売ってるようなもんだし……。
そう思ってアルを見ると。
「……敵を増やすの、大概にしてくれませんか?」
「なんで私に言うの?」
困った顔で言われても、私も困るだけである。
結局、アルのその反応の意味は分からずじまいだ。




