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19話 王子来訪

「旦那様奥方様お嬢様、アルバート殿下が御出(おい)でなさいました」


 わたわたしているうちに、我が家のメイドシーナが私にとって最悪の到来を知らせに来た。


 シーナは従兄弟の家(こうしゃくけ)の「嫁ぐまでは知れた顔がいた方がいいだろう」という私への計らいによって、うちから連れてきたメイドの内の1人だ——ちなみに私に侍女はいない。気難しい5才児だったクリスティア(きおくのなかのわたし)が、かわいい言い方をすれば、誰にも懐かなかったせいだ。


 まぁ……悪役令嬢だしね! そうだよ開き直りだよ‼


 なのでいつも着替えはうちのメイドが当番制でやってくれる。今日の私関連はシーナみたいだ。起きたと私が知らせに行ってから、レモンイエローの可愛い洋服に着替えさせ身だしなみを整えるまで全部やってくれた。


 たぶん毎回目を覚ました時にセツだけが部屋にいるのも……セツ以外だと、不遜で不機嫌に振るまうであろうというイメージのせいなんだろうなぁ。はー記憶はあるのにやった覚えのない自分の行動が恨めしい! そうぼんやりそう思いつつ悲しみに浸らないように、足は玄関へと動かし急ぐ。


 クリスティアの困ったちゃんめ。

 でも学プリでセスには寛容というか、懐いてたような。

 まぁ姉弟はそんなものかなぁ?


 はっ! いかんいかん。今はそれよりとにかく、王子襲来に備えなければ!


 玄関に到着するなり、馬車から降りてくるアルバート王子が見えた。その姿は麗しく、今日も正しく王子様って感じだ。馬は白馬じゃないしお忍び用の格好をした、おちびさんだけどね。


 いやでもオーラが……ここだけ空気が違うんだよね。多分世界の作りからして別物なんじゃ、という気にさせられる。今日も今日とて、薔薇の花でも咲きそうな麗しさであらせられます。それどころかなぜかキラキラエフェクト(幻覚)が飛んで見える……。


 結論、ここのスチルください保存します!

 ゲームクリア後なら見返せたりしないんでしょうか。

 ぜひ前向きに検討をお願いし……いや誰に願えばいいんだ?



「遠い中ようこそおいでくださいました、アルバート王子」

「いえ、お邪魔してしまい申し訳ないです」

「とんでもございません!」



 私が妄想の彼方に出陣している間に、セスのお父様が代表して出迎えた。セスのお母様はにこにことしている。その横にセツ、私の順番だ。お出迎え体制はばっちり。


 遠路はるばる……とまではいわないけど、この家は王都周辺の貴族宅より遠い。重用されている公爵である事と、セスのお父様も王宮勤めなのを考えると、ちょっと不思議な距離だなんて思ったけど。これはもしや、血筋的に闇使いが出やすい傾向のせいだったりとか……うん、考えるのやめよう! 気のせいだな!


 あと一瞬忘れてましたが。



 アルバート王子には本当に、ご足労頂いていていることはわかってるけど。

 気持ち的には今すごーーーーく会いたくないです。



 いや心配してくださってありがたいんですけどね!

 でもね怖いでしょ、昨日の今日だよ⁉

 まだ対策練ってないのに、敵将が陣地に攻め込んできたよ⁉︎


 見てください、このお邪魔を知っている6才児を。頭の作りからして違うことが丸わかりですわ。ここに腹黒どSが加わるのだから、時代が時代なら戦に強い名君とかになりそう。私なんか中高生くらいで頭の成長止まってるのに渡りあえるのか……このままじゃ背後から刺されておわるね。困る。


 そんななんとも言えない表情で、立木のようにたたずむ私です。

 せめて作戦会議する時間がほしかったな。

 ま、やっても参加者は私1人ですけど‼︎



「クリスティア嬢、もう起きていて大丈夫ですか?」



 気付いたら目の前に、心配する顔があった。いつのまに? 優しく気遣う声にあわてて姿勢を正す。そしてなんか申し訳なくなった。だって天使なんだもん……。たくらみのない純粋なやさしさで心配してくれてるだけの子どもなんだよね……たくらんでるのも野望を抱いているのも私のほうで。


 それなのにこんないい子を敵将、とか言っちゃいけないですよね。

 勝手に警戒して敵意を抱いたら、それが返ってくるだけだよなぁ。

 ごめんね悪い大人で……罪悪感というダメージを喰らいました。



「ご心配いただきありがとうございます。もう問題ございませんわ」



 心をあらためて、そう笑って返した——ら、なぜかセスのお父様とお母様が2人で目を合わせたあとにこちらに視線を寄せた。


 え、何? 私、何かした?

 セツにはまたかよって顔で睨まれた。んん?

 ごめん、教えてもらってもいい?


 お姉ちゃん残念ながら読心術はないんだよね。弟の表情からわかるのは今の感情と後で怒られそうだなって予測だけなんだよね。ちょっとでいいから、口に出してくれないかな?


「シンビジウム卿、申しわけないですが……クリスティア嬢とすこしお話をさせていただいてもよろしいですか?」

「あぁ、これはお越し頂いたのに、お気遣い出来ず申し訳ございませんでした。ではこちらへどうぞ」


 王子の問いにはっとしたように顔を向けて、セスのお父様は言った。家の中へ通し、亭主自ら庭の見えるティールームへ案内。シンビジウム夫妻は、メイド伝いに必要であればお呼びくださいと、声をかけてからセツを連れて出て行った。


 セツは最後までチラチラこちらを見ていた。大丈夫! 流石にもう倒れたりしないって! という意味をこめてガッツポーズしたのに溜息をつかれた。なんでよ⁉


 アルバート王子の希望により置いていかれた私たちは、2人の子供には大きすぎるテーブルへ座る。ティーセットを用意するメイドさんを、働き者だよなぁ~さすが動きが違う~とか思いながらなんとなく眺めていたら王子が口を開いた。


「昨日はおどろきました。急に倒れてしまいましたので」

「あー……あははは、すみませんでした。すこし気合が入りすぎまして……」


 困り顔に、苦笑して返した。当たり前だけどセツから聞いた話だと、あの後めちゃくちゃ大騒ぎだったらしい。誰かに襲われたのかとか。もしくは病かとか。それはそれはお城で問題になったみたい。私、これでも公爵令嬢だからね……ほんとに令嬢なんだな……。なんかびっくりしちゃうね。


 でも護衛も見張りもついてたし、なんとかアルバート王子が言いくるめたと聞いた。最終的には疲労による目眩と貧血で片付いたようだ。まぁ色々あったし、周り的には納得の理由ってとこかな。


「すみません、私も言いすぎました。あなたはまだ5才なのに。大人のようでしたので全て話してしまいました……」


 申し訳なさそうに謝られたけど。

 6才児に言われたくないんですが!!!???


 まぁたしかにこの時の1才差って大きいけど……ってそこじゃないな。この子は、こんなにちいさいのに……そんなことまで気にしてるのか。怒られたのかな。どうしてそんなに大人びているのか考えたことはなかったけど——それはそういう扱いしか受けてこなかったからなのか。


「いえ! はやい段階でお話が聞けてよかったです!」


 気にしちゃかわいそうなので努めて、いや心から明るく返す。切り替え切り替え!


 あれは大事な情報でしたからね!

 ショックだったけど、ありがたかったよ‼︎

 対策的に! 生存率が変わってくるので‼︎


 あの話は本来、クリスティアに話されてない内容であろうことは容易に想像できる。つまりこれだけでも、若干運命変わる可能性を秘めてるんですよ!


 破滅フラグを折りながら! 生存フラグを立てる!

 それこそが正しい生存戦略ってことだよ‼

 ……ま、今気づいたけど。


 よし、今後はその方針で行こう、うんうん。新しく気づいただけ成長したってことだもんね! 大事大事、今後の私に期待! 私はそう思って、満足げに首を縦にふった。

  

「クリスティア嬢?」


 はっ! いけないいけない!

 私の謎の行動に、王子は心配になったらしい。

 ここで不信感を抱かれては、本末転倒だよ‼


 ピシッと姿勢を正して、良好な関係を築くべくアルバート王子へ向き直った——言い訳を考えながら!

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