196話 とんでもクッキング (挿絵)
「それでは! 即席お料理教室を開催しまーす!」
ぱちぱちぱちぱち!
フィーちゃんの宣言に、私たちは拍手をした。気分だ。こういうのは大事でしょ?
「手も洗ったしバッチリだよー!」
「いつでも準備は出来ておりますの!」
私は笑顔で答えて、リリちゃんは気合いたっぷりに返す。
でもリリちゃん、力みすぎでは?
大丈夫かなーと横目で見ると、ちょっと緊張してる気がする。お料理初めてだからかなぁ、未知の領域だもんね。
「まずはソースからかな?」
「そうですね! 味の決め手ですから!」
私の問いにフィーちゃんが頷く。
今回作るのは!
バジルソースとマヨネーズです!
どっちも万能だぞー‼︎
バジルソースの方はフィーちゃん担当、マヨネーズは私です!
いやね、マヨネーズこっちにもあるんだけど、油臭いというか、分離しやすいんだよね。
多分オリーブオイルとビネガーのせい。
だからこっそり研究を重ねた私は、もう美味しいマヨネーズの正解を知っています!
まぁシーナには「変な人」って、言われますけどね!
そう言いつつあの人は、私が作るマヨネーズを強請る! 立場おかしい!
今日も言っていたくらいだ。
だって朝の会話これだよ?
「今度私にも作ってくださいますよね?」
「知ってる? 私あなたの仕えているお嬢様なんだけれど」
「さすがお嬢様! お嬢様は私共自慢のお嬢様でございます! 期待しておりますね‼︎」
「おだてりゃ良いってもんじゃない!」
はい。いつも通りです。
まぁだから、ちょっと余分に作って置いていく。今日馬車提供リリちゃんだから、連れて行けないしね。
「ではバジルソースを作りますね! リリチカ様には、味見係をお願い致しますね!」
元気よくリリちゃんに向かってそう告げる。
わぉ、フィーちゃん大胆。
リリちゃんの舌なんて、この中で一番肥えてそうだけど……。
「日が暮れる前にお願い致しますの。ずっとは待っていられないですのよ」
「えへへ! 頑張りますね!」
ちょっとぶっきら棒に言ったリリちゃんに、にこにこと返事をしている。
あ、意訳しますね。
リリちゃんは「早く食べてみたい、気になる」と言っております。
まだフィーちゃん相手だと、デレデレではないから、『氷華』まではいかないけど、ちょっとたまにツンツンしている。照れ隠しだ。
まぁそこが可愛いんですけどね!
元祖ツンデレがただの研究狂いになった今、私の癒しはこちらですね!
「ではではー! 本当は包丁で刻むんですが、今回は包丁禁止なので、すり鉢でバジルを擦ります!」
そう言うと、沢山のバジルを擦り始めた。あれ結構力使うよね。ゴリゴリいってるけど。
「だ、大丈夫? 下押さえておこうか? 疲れたら代わるし」
「そんな雑用はさせられません! 大丈夫です! 私鍛えられてますので‼︎ よく薬草とかも混ぜてたので‼︎」
心配でハラハラして尋ねても、笑顔で断られた。
……あぁ、もしかしてあの時私が抜け出せなかった力、こうやって鍛えられたの?
失礼ながら、納得の腕力だと思いました。
ヒロインなのに、これは如何に。
いや、でも可愛いから良いんだよ!
そんな苦悩をしてるうちに、バジルの爽やかな良い香りが、部屋中を満たしていく。お腹空いてしまうよ……。
「こんなもんですかね! では次、オリーブオイルと、ガーリックを少し混ぜますー!」
「では雪華を解除しますの」
そう言ってリリちゃんは、ガーリックが投入されたのを見届けると、雪華を解除する。
あ、雪華はリリちゃんお得意の魔法だよ。
物を凍らせる魔法ですね。
本当はこんなことに使う物じゃないです。
けどガーリックの香りがすごいので、リリちゃんが「とりあえず固めておきますの」と言って、凍らせてくれていた。
ちなみにこれは、特別級と言われる上級魔法より上の、2種の魔力を合わせた魔法なので、何度も言うがこんなホイホイ使う物じゃない。
使いたくても、使える物でもない。
非常識な子である。褒めてます。
フィーちゃんは「リリチカ様! ありがとうございます!」と笑いかけて、そのままゴリゴリ混ぜる。それに満更でもないリリちゃん。
そして合わさったら、オリーブオイルを投入。
「ここに塩を少々入れましてー。分けていただいた粉チーズを入れまして、あとレモンを少し絞って完成でーす!」
「ん? でもレモン、そのままだよね? 切ってもらってくる?」
ガーリックは本当にひとかけなので、そのまま分けてもらったのだが、レモンはそのまま貰ってきた。
でもこの部屋に包丁ないし、刃物も使う許可が出なかったので、使うなら食堂で切って貰わないと……。
「リリチカ様! お待たせしました!」
「私の出番ですの!」
「え? 何が?」
2人で以心伝心してても、私にはわからないですけど?
そう戸惑っていると。
「精霊王シルフィスの名のもとに集いし精霊よーー」
「えっ⁉︎」
なんとリリちゃんが呪文を唱え始めた。
あの、しかもそれ上級魔法なのでは……。
「その力を我に寄与し賜らん……吹き荒れろ烈風斬」
「えぇ⁉︎」
あろう事かお部屋の中が、ぐちゃぐちゃになりそうな魔法をーー! と、身構えたが。
「あ、ごめんなさいお姉様。ちょっとテーブルが傷付きましたわ」
「うーん、やっぱり風凪で下をカバーするべきですかね?」
「次はそうしますの……お姉様?」
今起こった事を話します。
レモン、割れた。
というか切られた。
なんと綺麗にスライスされている。
「お姉様?」
「はっ! あまりの出来事に意識が飛んでいた!」
びっくりしすぎて止まっちゃったよ!
リリちゃんが心配そうな顔してますけど!
それどころじゃない‼︎
「テーブル傷つけちゃダメでしょ⁉︎」
「ごめんなさいですの……」
「すみません! 私が悪いので! 怒るのは私だけで‼︎」
いや待て。私もそこじゃない。
ごめん混乱している。
どうも2人で刃物が使えないなら、魔法で切れば良いじゃない! 思考になったらしい。
アホか! なんて贅沢な使い方を!
「普通に切ってもらってくればいいでしょ⁉︎」
「でもそれですと、自分たちで料理にはならないですの」
そんな可愛いうるうるの瞳向けても!
今回はダメです‼︎
「それより安全第一なんですが⁉︎ 烈風斬って、かまいたちみたいに切り刻むやつじゃないの! コントロール間違ったら人が怪我する‼︎」
そう、本来は魔獣対策用の魔法だ。
殺傷能力の高い魔法をーーレモン切るだけに使うな!
だから私は割と本気で怒っている。
「でもお姉様!」
「……なんですか」
「私、『愛し子』ですの! 風の魔力の扱いは、随一ですのよ!」
「うんうんそうだね、普通は使ったらテーブルごと切るし、なんなら床も切るし……ってだから危ないんでしょ⁉︎」
私の怒りに、リリちゃんは耳を塞ぐ。
そこはドヤるところじゃありません! 全くもう!
そうだよ!
リリちゃんだからこれで済んでるんだよ!
普通はこんな細かいコントロール出来ない!
大きな強い力は、小さくコントロールする方が大変なのだ。力任せだけではない、繊細さが必要だから。とくに上級ともなれば尚更。
「ごめんなさい! でも今度は上手くやります! 私も風凪使うので!」
「こっちも懲りてない!」
フィーちゃんまで庇い出したので、私は途方に暮れております。
君たち、危なさ分かってないでしょ……はぁ。




