189話 ちゃんと授業もやってます
座学の多いFGの授業だけど、たまーに例外もある。それはなにも、魔法に限った事ではなくて……例えば。
「こ、これだけ並んでると壮観だなぁ……」
マナー講座、とかね。
まぁ貴族は、マナーを家でほとんど学んでるから、ほぼお遊びというか、単位目的の授業、みたいな感じだけど。
今日はなんの日かと言うと、乗馬の練習らしいですよ。
私これ知ってます。
『学プリ』で見たよ!
フィーちゃんとアルの、馬上ショットが拝めるアレですよね‼︎
あのスチルは良かったですね〜! 密着ツーショットですわよ奥様。すっごい王子様だなーって思ったショットでしたわよ。
しかしそれを考えるより、馬って正面から見ると、大きいなぁとしか思えないよ!
ちなみに私は乗馬経験ないです!
なんでって!
運動神経が死んでるからだよ!
落馬して死ぬくらいなら、乗馬はいいや! と思って生きてきました。えへ。
しかも、私ちょっと馬苦手なのだ。
いや、馬に罪はないんですよ。でもあの大きさがね? なんか怖いっていうかね? ほら、後ろに立つと蹴られて死ぬとかいうしね?
なので今日はどうしようかなぁ。
ちょっと不安ですよ。
いやちょっとどころか、だいぶ不安。
一人で乗れる自信はないんだけど、この授業基礎マナー1って授業だから、一年生しないない。お兄ちゃんがいない……!
ふ、腹痛とかで休もうかな……。
「馬に乗るとか、非効率的です。絶対に加速の方が早いですし、普段は馬車もあるのに」
悩む私に気付かず、レイ君がぶつくさ言っている。
知っているかな? それは風の魔力を持つものだから、言える事なんですよ……だから私は言えないですよ!
「そうでもないですよ。馬は長距離の移動に便利です。よほど急いでいるのでなければ、馬を使った方が体力も温存できますし、魔力も使わなくて良い。できるようになるべきでしょう」
論理的な解答をするのはヴィンス。
確かに! 体力温存したいよね! ずっと加速で走ってたら、もう本当にすぐバテちゃうよ。
「そんなの薬で一発ですよ!」
「どんな危ない薬作ってんだよ……」
反論にぼそっと突っ込むセツ。
もっとちゃんとじゃじゃ馬研究家の手綱、握っててくれないと、みんなが困るぞ!
「……馬、可愛い」
そう言ってキラキラ見つめているのは、ノア君ですね。
ノア君ってリストの時も思ったけど、動物好きだよね。馬まで適応範囲なのね。私は大きいと、ちょっと怖いなぁ。
「今更乗馬なんてお茶の子さいさいすぎて、あくびが出てしまいますの」
リリちゃんは退屈そうだ。そう言いつつも、今日はポニーテールにしている。狙ったんじゃないの?
我が国の姫は優秀であらせられるので、なんでもそつなくこなしてしまう。羨ましい限りだ。
「お馬さんは優しいので好きです! 大きくてカッコいいですよねー!」
「えっあ、そうね?」
フィーちゃんも好きなのね……と、話を振られながら思う。
フィーちゃんは元の『学プリ』では、そもそも酷い扱いを受けていたから、何もマナーを知らなかったんだよね。当然馬術も。
今は『聖女様』故、箱入り娘なので、接した事がなかったんだと思う。そりゃ危ない事させないよね。
「……ティア、顔色が優れませんが、どうしました?」
「へ⁉︎」
むむーっと馬を眺めていたら、アルが横から覗いていたらしい。ちょっとびっくりして、素っ頓狂な声を出す。
「い、いや。大丈夫……」
「大丈夫なら、そんな顔色にならないと思いますが」
そう言ってアルは、指の背でそっと頬をなぞるように、私の髪を払う……ってこれ!
なんか恥ずかしいんですけど!
今授業中なんですけど!
みんなの視線が刺さるんですけど‼︎
かかかぁ〜っと顔の温度を上げながら、ちょっとだけ睨むけど。
「血色は良くなりましたね?」
そう、揶揄うように微笑まれる!
ばか! 違います!
この血色はそういう血色じゃないです!
羞恥の反応でございますわよ‼︎
「それで? 本当はなんなんですか?」
逃すつもりはないらしい。イエローダイヤの瞳を少し細めて、追求の手は止むことがない。
私は眉を寄せてそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言った。
「別に……ちょっと馬が怖いだけ!」
「あれ、動物は好きでしたよね?」
不思議そうに問われて、目だけちらりと戻す。そして、馬に罪はないのでちょっとだけ気まずくなり、左下に視線を逸らした。
「……大きいものが怖い」
「え?」
「自分より大きいと、ちょっと怖いの!」
勢いだけでそう言って、ブンッと前をに向き直った。もう揶揄われそうだから、横は見ません!
なんだろうなぁ。上を見上げる経験が少なかったからなのかなぁ。
ほら。馬って2メートルくらいあるでしょ?
それでなんか、圧があるっていうか。
いや、優しそうな目はしてるけど。
しかも私、船から飛び込んで死んだせいか、高いところが苦手だ。
ちょっとの高さも怖かったりするのだ。馬上は結構いい眺めだと聞きましたよ……高いから! だから、乗馬を避けてきたのもある。
だって乗馬しなくても死なないですもん!
馬車乗るからいいよ!
有事の際は走るよ‼︎
これ結局、レイ君と同じじゃない? と、はたと気付いた時。
「……なんだ、そんな可愛い理由だったんですか」
「え?」
そして考え事の旅路から帰ってきたせいで、反射的に顔をアルに向けた。
そこには、顔を半分手で隠しているアルがいた。
私が振り向いても、視線は明後日の方向を向いていて、口元が覆われているけど……気のせいかちょっと赤い? 照れてるの? なんで?