18話 ニ度目の目覚めは私に厳しい
「あ、起きた」
次に起きた時目の前にいたのは、こちらを覗きこむ弟だった。
「はっ! 寝てた⁉ ていうか百合は⁉︎ アルバート王子は⁉︎」
「よくわかんないけど、とりあえず落ち着けって」
ガバッと起き上がる。今何時……ていうかここベッドだ⁉ まだ若干スリープ状態の頭を物理的にブンブン動かして現状把握しようとする私に、セツはいつもの調子で話しかけた。
「覚えてる? 昨日ねーちゃんぶっ倒れたらしいんだけど。何したわけ?」
いかにも訝しげな目と質問だ。その様子だと、体調不良で倒れたとは思ってないわけだね君は。アルバート王子がどう伝えたのかは知らないけど。
でも……そうだった。私は忠誠と誓いの証に、彼から授かった百合に魔法をかけた。
ただそれが意気込みすぎて?
はたまた魔力の調整が出来なかったせいで?
一気に魔力が持っていかれて、気絶したんだった。
「そのわりには、意外と早く起きれたな~」
何も考えずに魔法をかけた自信があるので、最悪もっと寝てるかなと思った。魔力を使いすぎると倒れちゃうっていうのはゲーム内でも見たことある。ドラゴンが出てくるそこだっけな。一番好感度高い攻略対象が大ケガしちゃうんだけど、主人公のおかげで倒せるんだよね。でも力を使いすぎたから3日くらい寝込むんだけど。
でもそれが聖女になるのに大事だったり、仲を深めるのに欠かせないというイベントが……。
「おい聞けこのポンコツ姉貴」
「な、何がポンコツ⁉︎」
「とんちんかんな返事してないで、質問!」
あ、ごめん忘れてた。ちょっと油断してたら怒られちゃったよ。しかしまぁ、全然怖くないな……というより、肩で息をして睨んでるセツを見ていると……。
「えへへかわいいなぁ~」
思わずなでたくなって、頭をなでた。
私は可愛いものが好き。
だから仕方ない!
発作症状なんで‼
「⁉︎ は⁉︎ こいつバカか? いかれてんのか⁉︎」
「いやだってさー心配してくれて怒ってるの分かるし、見た目もほら、今はかわいいからねー?」
だからなんかにこにこして、なでてしまう。
あり得ないものを見る目で見られていますね……酷いことを言われながらもとりあえず、気にせずなでた。なでるなとは言わないのね君。口が悪いのは目をつぶってあげましょう、その可愛さに免じて。いやーだって前は最終的に背も抜かされてたし、なでるとか遠い記憶で——そう、かわいい今が甘やかし時だ‼
私ちょっとブラコンなのかな、と頭をよぎったけど。
そんな考えは隅に追いやった。
ブラコン……まではいかないと思うんだけどなぁ。
「……。」
呆れたように黙りながらも、なでられ続けるセツ。その虚無顔が、人間になでくりまわされる逃げることを放棄した猫ちゃんみたいだ。ふふふ。
昔はもっと素直に甘えてきて、かわいかったんだけど。
中身までは幼児退行しないからむりだろうな。
まぁかわいくなくても、弟ですしねー?
反抗期はもうすぎてるから私に甘やかさせてくれるんだなーと思うと、これはこれで成長も感じてお姉ちゃん嬉しいよ。うんうん。
「で、なんだっけ?」
一通りなでて気が済んだので、あらめて尋ねてみるけど。
「はぁ……もういい。なんかしたのはわかってるから……」
やっと私が手を退けて聞いた時にはもう諦めていた。ドンマイ! ……と思ったのもつかの間。
「あ。そうだ今日王子来るらしいよ」
「……はい? なんだって?」
「だから、王子」
「ホワイ!!???」
わかってんのよ!
そこは聞こえてんの!
私が聞きたいのは!
そんなご近所さんが来るかる~いノリで、爆弾投げてきたのかってことだよー‼
「だからー見舞いに来るって」
「いやいや聞いてないよ⁉ てかそれなら私もうちょっと寝てた方がよかったじゃん‼︎」
「いや見舞いなんだから、元気な姿見れた方がいいんじゃね?」
「よくない! 主に、私が!!!!」
心の準備がある上に元気な状態な人が、寝間着でなんか会えないでしょー⁉︎
これが具合悪いとかならいいけどピンピンだし! 思考もキンキンに冴え渡ってしまうくらいになってて、もう眠れない! さいっっあく‼︎
そう思ってたら「キンキンは冷えてる方だろ」って言われた‼︎
なんで思考読んでんのよ‼︎
ていうかざまぁって顔するなもー!
なでるのは、お姉様の正当な権利だったんですよ⁉︎
「あー! もう! とりあえずセツのお母様たちに挨拶からよ‼︎」
「待ってたらそのうち来ると思うけどね」
「そんなことできるわけないでしょ起きちゃったし‼」
連れてってよとセツをつつきつつ、騒がしく部屋を出る——起きた時に思った、何かを忘れてる気がしながら。