176話 自己紹介するよー!
「アルバート・カサブランカと申します。クラスメイトですから、もうご存知かとは思いますが、一応この国王子ですね。これからよろしくお願いします」
アルがフィーちゃんに向かって、にこりと輝くプリンススマイルを披露した。
その途端に、フィーちゃんの頬がぽっと赤くなり、瞳が少し蕩けている。「お、お願いします……」って、もう完全にやられてるね。
うん。通常運転ですね。
みんなそうなるよ。
私でもたまにやられるもの。
全く。無駄に愛想を振り撒かないでほしいですよ、ご主人様。私が困るーーいや……フィーちゃんはいいのか。そっか。
ぽへっとしてたら、アルから「ほらティアも挨拶して下さい」と、肩に手を置かれ覗き込むように言われた。驚きビクッと肩が跳ねる。
「あっえっごめんなさい……ええと、そうね。クラスメイトですから、もうご存知かと思いますけれど、クリスティア・シンビジウムです。身分は公爵ですね。あそこにいる弟の、姉になります」
少し硬い笑顔でそう言い、セツの方を手で指し示すと、セツがチラッと視線をフィーちゃんに向ける。そして、軽く笑った。
あら、珍しい……あ、そっか。なんか会って話してたね、2人とも。知り合いなのね。
フィーちゃんは胸の前で両手をぐーにし、食い入るように私を見たあと、セツを見て嬉しそうにしている。手でも振りそうな勢い。
いやすごい仲良いね。
お姉ちゃんびっくりしちゃたよ。
私だって仲良くなりたい……。
そう切なく2人を見ていると。
「存じ上げております! 預言師様は憧れなので‼︎」
顔をこちらに戻し、にこにこにこー! っと、満開の花が舞いそうな笑顔で言われた。
わわっなんか照れる!
そんなふうに言われると、顔が熱くなっちゃいますね! と思ってたら、勝手に口が動いた。
「そ、そう。それは何よりだわ」
何が何よりなの⁉︎
自分で自分にツッコミを入れながら、何故か悪役らしい、ふんっとした感じでそっぽを向いてしまった。わ、私何をしたいんだ?
「……お姉様の敵に、名乗る名などないのですけれど」
正気に戻ったら、リリちゃんがむーっとした表情で、フィーちゃんを睨んでいた。フィーちゃんは目を大きく開けて、瞬きしている。
「こらリリー。変な事を言っていないで、ちゃんと自己紹介して下さい」
「……お兄様」
困って叱っているアルにも、ちょっと睨んでいる。不満なようだ。
「リリちゃん、生徒会の仲間なんだからその態度はダメだよ?」
私も少し苦笑してそう促すと、眉を寄せ唇を少し尖らせて、「……仕方ないですの」と、小さな声で言う。
「リリチカ・カサブランカですの。ご存知でしょうけれど、アルバートお兄様の妹ですから、姫ですの。あまり迷惑はかけないで下さいませ」
片手で髪をサラッと掻き上げて、目を閉じフンッと不遜な態度を取った後、流し目で睨む。氷華様〜。
怒らなきゃなんだけど、似合ってるのよね……。思わず見惚れちゃうくらいには。
多分フィーちゃんもそうだったんだろう。
全然気にした様子もなく、「はい! 頑張ります!」と明るく告げた。主人公は大抵、鋼メンタルですよね。
「じゃあ次は僕だね。生徒会長で2年生の、ブランドン・ライラックです。身分は公爵。ラナンキュラス嬢以外は、みんな知り合いだけれど、生徒会の仲間だから、気を遣わないで話し掛けてね」
そう言うと、癒しのお兄ちゃん爽やかスマイルで笑う。これに絆されない人はいないよー!
フィーちゃんも安心したのか笑顔で「はい! よろしくお願いします!」と答える。
「ヴィンセント・ローザと申します。身分は公爵。まぁそれなりに頑張りましょう」
腕を組んで流し目をした後からの微笑みは、薔薇の香りでもしそうな色気がある。
なんでそんな意味深になっちゃうかな?
あのね、ブランからだと余計に感じちゃうのよね。爽やかな朝から、妖艶な夜みたいな?
フィーちゃんもそう感じたんだろう。2回瞬きをして「よ、よろしくお願いします」と、惚けた顔でそう言った。
「『聖女様』も生徒会入ってくれるなんて、オレ感激ですー! あ、レイナー・ゲンティアナ、身分はここら辺より下の侯爵ですよ! 肩身の狭い者同士、仲良くしましょう! 僕の方が年下ですしね!」
ゴマを擦りそうな勢いで、笑顔を撒き散らしている……あ、1回会ってるのかな?
しかしなんか、最初からエンジンフル回転だね? ツンデレ消えてない? と思ったら。
「これは研究しか考えてないから気を付けろ」
「えー! セスなんてこと言うんだよ! 研究『も』、考えてるだけですよー?」
呆れ顔でフィーちゃんにそう伝えるセツに、レイ君がその顔を見て抗議した後、フィーちゃんに誤魔化しの笑みを向けた。
面白かったらしく、フィーちゃんは「ふふっ、よろしくお願いします」と、笑っている。
「オレ自己紹介いらないよな?」
「えっ」
「こらセツ。ちゃんと自己紹介しなさい!」
自分だけ逃げようとしている弟を嗜めると、ちぇーという顔を向けられたが、睨み返した。
「……そこの駄目姉の弟、セス・シンビジウム。身分とかはいいよな。同じだし。まぁ主に、姉とコレに困ったら言って」
面倒そうに言いながら、姉の部分で私を、コレの部分でレイ君を指差す。
ちょっと⁉︎
レイ君とって、そこまで酷くないよ⁉︎
「えー! オレそこまで酷くないんですけど」
「どの口がそれを言う⁉︎」
レイ君の反応に、即行ツッコミを入れてしまった。
フィーちゃんは肩を揺らしてクスクス笑い、「ふふっ! はい、頼りにしてます」と言った。あら、なんだ信用関係築いてるのね。
最後はフィーちゃんだ。
みんなの注目が集まっている。彼女は見渡してから、口を開いた。
「フィリアナ・ラナンキュラスです。身分は皆さんの中では1番下の、伯爵です。至らぬ点も多いかと思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します!」
少し困り顔で話し始め、最後には笑顔で頭を下げた。
うーん、良い子だ……。
みんなが惚れるのも当然……あ!
私は一つの可能性に気付いた!
これ、アルバートルートだけど、ルートに入らないだけで、みんなにモテモテになるのでは⁉︎
こ、これ気をつけないと、友情エンドの危機!
友情エンドは、クリスティアは追放されるくせに、恋愛には至らない、いや至る前かな。
そんなところで終わるやつである!
1番意味ないから! それは困る‼︎
私はざっとみんなの顔を見る。
わ、わかんないや!
みんながフィーちゃん見てることしか!
「……ティア? どうしました?」
「アル……私頑張るから! アルも頑張れ!」
「え、あ、はい?」
目だけをこちらに向けられて、聞かれたからエールを送ったのに、意味が分からないって顔されました。
頑張れアルー!
忠犬はご主人様の明るい未来を!
精一杯応援する所存ですから‼︎
私は不審そうに見るアルの横で、グッと拳を握り、決意を新たにしたのであった。