170話 何故こうなった (挿絵)
「あぁー! 疲れたー! ……って部屋結構広いっ⁉︎」
あの後カリキュラム相談をして、私たちは別れた。
いやーフィーちゃんの事、これ以上聞かれたらどうしようかと、焦ったよー!
まぁいい感じに流せたから、良いよね!
それにまさかもう、アルがフィーちゃん好きだったなんてね! びっくりしちゃったよ!
これはなんとしても!
ハッピーエンドに持っていかねば!
忠臣として、腕の見せ所ね!
でも今日はちょっともう休憩したいー!
そう思って部屋に入ったら、結構な感じで広くて驚いちゃったのだ。
「おかえりなさいませ、お嬢様。本日はいかがでしたか?」
そう言って出迎えてくれるのは、シーナだ。
もう怒涛の1日すぎて、朝の失礼なんて、記憶の彼方だよ。いつも通りだったし。
「まぁまぁかしら。色々ありすぎて、頭がパンクしそうよー」
私は顔を歪めてそう言う。
イベントラッシュは優しくないよねー。
もっと優しく、ジャブあたりから入ってよ。
息もつかせぬスパーリングは勘弁です。
「あら、珍しいですね。てっきりお嬢様におかれましては楽しかったと、お答えになるものかと思っておりましたが」
正直な侍女の意見である。
フツーはメイドさんそこまで突っ込まぬよ。
まぁ、私を理解してくれてるとも言うけど。
「いやぁー考えることが多くて……」
悩み顔を作りながら、鞄を預かってもらう。
そして私はよろよろとベッドへ向かいます。
お部屋はアイボリーを基調とした、落ち着きがあって品のある感じだ。所々に、ピンクの花柄があしらわれている。薔薇かな?
どことなく、アンティーク感漂う家具でまとめられ、窓が2つもある。日当たりも良く、しかも最上階なので、防犯的にも堅い。
家具はいま座っているベッド、机、あと立派な本棚とクローゼットがある。間接照明が端の方にあるから、夜は雰囲気でそうね。
寮って考えたら、すごい豪華だなぁと思います。
「お嬢様、制服にシワがついてしまいます。お召し物を替えられてからにして下さい」
「まだ座っただけなのにー」
「まだ、ではないですか」
ブーブー言うけど、シーナさん無視です。
でも疲れたから、簡単なワンピースにしてもらいました。
わーい! 寝るぞー!
寝っ転がるぞー‼︎
もう疲れたんだぞー‼︎
バフンッと倒れた。
「本日はまだお嬢様の苦手とされる勉学は、なかったと存じますが」
「それ聞いちゃうのね。うん。ないよ。勉強はまだ一切してませんよ」
倒れたまま、布団に顔を押し付けたまま答える。
「ではお悩みは、フィーちゃん様でしょうか?」
「地雷を踏み抜いていく!」
しれっと容赦ないよこの侍女!
思わずツッコミのために半身を起こしたよ!
驚きで固まっていたその時。
「おねーさまー! 遊びに来ちゃいましたのー‼︎」
「えっリリちゃん?」
外から声が聞こえました。
慌てて起きて、ドアを開けます。あ、開けるのはシーナだよ。
そこには、さながら高原の美少女なリリちゃんがいました。白ワンピース似合うなー‼︎
「リリちゃん! びっくりしちゃったよ! まだイヤリング着けてたから、伝えてくれても良かったのに」
「それだと、断られるかもしれないではないですの! 押し掛けてこそ、意味があると言うものですの!」
ちょっと驚いてそう聞けば、ドヤ顔で返されました。
まずその考えがどうかと思うよ。
でもまぁ、こんな可愛い女の子のお願い、断る人はそうそういないと思うけどね。
「お姉様は何をされてらしたの?」
こてん、とお得意の必殺小首傾げを決められ、口が勝手に答えます。
「ごめん、寝ようとしてた……」
「あら! そうでしたの!」
申し訳なさ気に答えると、リリちゃんが手を口に当てて驚く。
うん、お嬢様的にどうなの発言ですよね……知ってる。
でもねー?
お姉ちゃん疲れちゃったんだよ。
たまには良いでしょ?
「では、私と一緒に寝ましょうか!」
「うん?」
元気で予想外な返答がございました。
「今日のワンピース、水色で可愛いですの! 水色はどことなく、私のようではありませんか?」
「えっうん、まぁ、そうかも?」
にこにこで言われて、考えながら答える。
よく水色着てるし。
『氷華』のイメージっぽいし。
リリちゃんの瞳もブルーだしね。
「なら! 私色に染まったお姉様を抱き締めて眠れば! これはもうお姉様は私のものということですの!」
「うん、それは分からない」
ガシッと手を握られて、ギラギラした瞳で見つめられるが。やろうとしてることは健全なのに、言葉にしたらアウトっぽくなってる。
なので首を振って否定しておきました。
「お姉様! さぁ寝ましょう! 今すぐお昼寝を‼︎」
「あれー。すっごい目が覚めてきたなー。なんでだろうなー」
しらーっとした目を向けるけれど、熱いリリちゃんには届かない。すごい引っ張られる。このまま寝ると、謎に後が怖い。
ねぇリリちゃん?
君は『氷華』ではなかったかな?
すごい燃えてない?
「恐れ入りますが姫様、お嬢様はお疲れでいらっしゃいますので、どうぞご容赦下さいませ」
シーナがそっと止めてくれるが……えっ⁉︎ 姫にまで口出しちゃったよ⁉︎
「……貴女、名前は?」
途端にリリちゃんの表情と声音が、冷たく変わる。気のせいか、部屋の温度が下がる。
ひぇぇ! やっぱり『氷華』様だった‼︎
「あ、あのまってリリちゃん! うちの侍女がごめんね! あとで言っておくから」
「シーナと申します、姫様」
「なんで答えたのよ!」
慌てて背に庇うように間に立つけど、隙間から顔を出して、っていうか肩に手を置いて動かされた。バカ! 何やってんの‼︎
怒りながらその顔を見るけど、凛と姿勢を正して、リリちゃんを見据えたままだ。
「何故私に申し立てを行ったか、簡潔に述べなさい。納得できなければ分かりますわね?」
「えっとえーと! 待って2人ともー!」
明らかに睨んでいるリリちゃんに、慌てて寄ってみるけど、こちらを見もしない。
「私の主人はお嬢様でいらっしゃいます。姫様よりも、お嬢様の方が優先度が高くなりますので、恐縮ではございますが述べさせて頂きました」
頭も下げないで平然と言ってしまう、うちのメイドさんは頭がおかしいです。
「……ふん、悪くない答えですの」
「えっ今の良いの⁉︎」
態度が和らいだのを感じて、バッとリリちゃんを見る。
「お姉様、私に嫁いでくる際は、このメイド連れてきても良いですの」
「ありがとう! でも嫁がないよね⁉︎ 仮に嫁ぐとしても、王家に、だよね⁉︎」
「うふふ」
「うふふじゃないなー⁉︎」
もちろん聞いちゃくれません。
なんだかよく分からないが、リリちゃんはシーナが気に入ったらしく、その後ちょっと話していた。
仲良くなったのは良いんですけど……。
あの。ここの部屋の主人が、置いてけぼりってどういうことですか?




