閑話 なんか捕まった【Ⅰ】
「セスー! 終わったから生徒会室行きましょー!」
女性陣の視線など、あいつにとっちゃ日常なんだろう。クラスメイトたちが大きな声に反応するのも気にせず、呼んできた。
それにオレは顔を顰めて言う。
「声でけーよレイ。そんなに出さなくても、このクラス人少ないんだから聞こえるだろ?」
「えー? 普通なんだけど」
不満そうにしているが、どうせすぐ忘れる。
いっつも研究のことしか考えてないしな。
あと、目の前のことしか見えてない……オレの周り、そんなやつばっかじゃね?
「ノアー、行くぞー」
「……うん」
その後ろについて来ていた、ぽへーっとしたイケメンにも声をかける。
身長はオレの方が大きいけど、姿勢考えると変わんないかも。ノア、すごい姿勢がいいんだよなー。
あ、レイは論外。こいつチビだし。
「ねぇセスって今、すごく失礼なこと考えませんでした?」
そう言ってレイが問いかけるのは、オレじゃなくてノアだ。
「ノアに聞くなよ!」
「だって、嘘だったらすぐ分かるし」
「便利道具扱いすんな!」
「そんなつもりじゃないんですけどー」と言いながらも、唇をタコのように突き出している。その顔面じゃなきゃ殴られてるぞ。
まったく。こいつこういうところあるからなー。
くー姉のこともそうだけど、ノアの光の魔力にも興味持ってるから、何かと調べようとしている。
ほっといてやれよそんなの。
まぁ話しても平行線だから、こういうのは切り上げるに限る。だから無視して、ドアの方に向かうとそのまま廊下へ出た。
「こんなに可愛いオレを置いていくなんてー」
「お前、それ自分で言うか?」
ぞろぞろと連れ立って教室から出ると、そんなことを言っている。呆れてものも言えないぞ。
つーか、可愛いとか言われたくないって、言ってたじゃん。
「セスは絶対言わないからいい。言うヤツには水を掛ける」
「いきなりえげつな!」
スッと表情を消して言う様にドン引きした。ノアは興味深そうに見ているけど、離れるなら今のうちだぞ。
「あ! 弟様!」
その時、鈴の音のように凛とした声が、廊下に響いた。
誰だ? と思って2人から目を離して、そちらを見ると。
「あ。『フィーちゃん』じゃん」
いつぞやの侵入者がいた。
あの時よりもさらにふわふわそうな髪に、驚いた顔。そしてそのまま指をこちらに差して、固まっている。
「フィーちゃん? え、セスにそんな親しげな仲の女性がいたんです?」
彼女に目を向け、バッとこちらを向くと、信じられないようなものを見た目をする。
顔を見た後に爪先まで見られてから、また顔を見られる。
なんも変わんねーよ。
おちょくってんのか。
仕方がないので、目を瞑りため息を吐きながら、反論する。
「おい失礼だろ。オレだって仲の良い1人や2人……」
「ないなー。百歩譲って1人はクリスちゃんだとして、もう1人は誰です? そんな人がパーティーの際に、オレに泣きついてくるわけないじゃないじゃん」
「……嘘はよくない」
レイから冷たい視線でジトっと見られたあと、ノアに首を振りながら否定される。
思わずなんとも言えず閉口する。
冗談くらい言わせろ。
モグラ叩きを鉄のハンマーで叩くな。
全力すぎるだろ。
「あ、あの! ここで会ったのは何かのお導きだと思うので! ちょっと先日の謝罪と、相談に乗って頂けないでしょうか⁉︎」
手をぐっと握って、見るからに必死です! といった感じで、そう訴えてくる。
なんでも全力でやらないと、ここのやつらは死ぬんだろうか? 力みすぎだ。
「うわー。逢瀬ですかー。隅におけないですねー」
レイは相変わらず、というか手を口に翳す演技までつけて、おちょくってくる。
「めっちゃ棒読みやめろ」
「あ、ご友人ですか? あの……弟様を貸して頂けないですか⁉︎」
オレは物か。
そしてこいつの弟ではない。
必死な『フィーちゃん』へ、レイは特に返事はせず無表情で見つめている。そして言った。
「オレに聞くのはおかしいのでは? 決めるのは本人の問題です」
「そ、そうですね……すみません」
レイの言葉の矢が刺さったのか、『フィーちゃん』は萎縮してしまった。冷たい目に、少し怯えていてかわいそうだ。
おいおいやめろよな。
射抜くのは乙女心だけにしとけよ。
仕方ねーなぁ。餌を投げるか。
「やめろ、レイ。この人『聖女様』だぞ」
「えっ! 『聖女様』⁉︎」
「え、あ、まぁ……」
冷たい視線はコロッと変わり、キラキラの熱視線になる。
食い気味に身を乗り出して言うので、その代わりように『フィーちゃん』も、たじろいでいる。
「うわぁー! 本当ですかー⁉︎ オレ、あなたのファンです‼︎ すごい興味あります!」
「おい嘘つくな」
「いったぁ⁉︎ 何するんだよセス‼︎」
物凄い勢いで、襲いかかりそうなので、頭をチョップして止めた。上目遣いで怒られるけど、さっきの無表情の方が怖かったぞ。
「……興味あるのは、本当」
ノアがレイをチラリと眺めてから、『フィーちゃん』に向かって謝罪のように言った。
「……あなたは、光の魔力持ちですか……?」
目を大きく開いてそう尋ねれば、ノアはこくりと肯いた。
「おんなじ」
まあ光って珍しいもんな。
よくわからんけど、くー姉も悩みがあるみたいだし、光の魔力にも持ってるやつしか分からない、悩みとかがあるのかもなぁ。
「……また今度、お話ししても良いですか?」
「……うん」
「オレもお話ししたいですー!」
ノアを見つめて少し嬉しそうな『フィーちゃん』に、また肯いている。そこに手をブンブン振って、いらんやつが割り込んだけど。
オレはノアの制服の首元を引っ張って、引き離した。
「わっ! 離せよー! 今からお近付きになる予定なのに!」
「今度にしろ。そして人の邪魔をするな。あと怖がられるようなこともするな」
「してないですー!」
どの口が言うんだ。
ふしゃーふしゃーと何か言っているが、無視して話を振る。
「で? 話聞けば良いんだっけ? あれ、でもクリスティアと同じクラスじゃなかった?」
不思議に思って尋ねると、「うっ」と唸って眉を下げられた。やばい放っといたら泣きそう。
「……はぁ。まぁ良いや。話聞くから移動するか。レイとノア、先行っててくれ」
目を瞑り下を向いてため息を吐いた後、掴んでいたレイをノアの方へ、ポイッと投げるように渡す。
「扱いが雑!」
「ノア、それ頼むなー」
「……うん」
「オレは物じゃない!」
毛を逆立てて怒っているが、それオレも同じような事されてるからな?
無視して『フィーちゃん』の前に行く。
「で、どこ行くの?」
そう聞くと、ぱぁっと笑って「こっちです!」と、あろう事か腕を引っ張られて進む。
……オレの周り引っ張り回すヤツしかいねー。
そんな事を思いながら、ふわふわ揺れる頭を後ろから眺めて進んだ。




