165話 詰問会
「それでは第1回、クリスティア・シンビジウム公爵令嬢への詰問会を開催致します」
「まって。なにそれ、しかも第1回なの⁉︎ 複数回あるの⁉︎」
この主催者は言うまでもないですね。
指を組んで顎を載せる様。
とても決まっております。
もちろん私は勢いよく立ち上がり、テーブルに手をついて抗議をしますが聞く耳など持たれるはずもなく――詰問というより尋問が始まろうとしている。
あぁ……楽しい時間とは往々にして、すぐに過ぎてしまうものね。
グッバイおいしいごはん。
ハローお帰りください詰問会!
魔王様が怖いんですけど‼︎
お腹いっぱいのまま、眠りにつけたら幸せだけど、そんな優しい空気じゃありません。でもここのソファ、柔らかくて座り心地いいなぁ。あぁ現実逃避したいなぁ。
ちなみに場所は移動しまして、生徒会室です。あんまり大声で話す話でもないからね。
ここまでブランが連れてきてくれたんだけど部外者を入れて良いのか聞いたら、「だってみんな入るでしょ?」だって。私も決定事項?
まぁ仕方ないので、話に戻ります。
「えっ運命の人は運命の人だよー、で、終わりじゃん⁉︎」
同意の意を込めて、周りのみんなをぐるーっと見るけど、しれーっと目をそらしているかニコッと笑っているかである。まさか、味方いないの?
「……オレにこれから助けられる力が、あるわけないだろ」
最後の希望弟を見たけど、ため息ついて言われました。もうちょっと頑張ろうよー!
「話すことないんですけど……」
えへへーと笑ってみるが。
「では、こちらからの質問形式にしましょう。どうぞ、そちらにお掛けになって楽になさって下さい」
そうこちらに顔を向けながら、手振りで示されたので、諦めて着席します。……逃れられないみたいですね‼︎ なにこれ圧迫面接⁉︎
「お姉様、大丈夫ですわ!」
「リリちゃん……」
半ベソになりかけている私を、リリちゃんが手を掴んで握り締めてくれる。あぁ……やはり持つべきものは、心の妹……。
「お兄様の運命の相手なんて、コテンパンにしてこの国から出してしまえば良いのですわ!」
「ダメだ悪役の考えだ!」
キラキラと気合の入った表情で、言うことが残酷だった。私より悪役!
「オレは別に殿下とその人が、幸せになってもいいんですけどねー」
のんきな声の主はレイ君だ。
あろうことか、なんか楽しそうである。
人の気持ちをわかってないな⁉︎
「そうしたら、オレが貰いますよ?」
「そうしない為の会議ですよ?」
「ちょっと! なんの喧嘩はじめてんの⁉︎ アルが運命の人とくっ付いても、レイ君の実験動物にはなりませんからね⁉︎」
何故かにっこり笑って言い合いになりそうになってるので、あわてて止める。
アルは私が非道な扱い受けないように、心配してくれたんだろうけど……いつもはもうちょっと落ち着いてない? どうしたんだろう?
少し戸惑っていると、ブランが口を出した。
「まぁこの先どうなるかは、ひとまず置いておくとして。クリスティ、運命の人だって言うなら、その人の事を殿下は知る権利があると思わない?」
こちらを見て気遣うように、そして促すように微笑むお兄ちゃん……むぅ。そう言われてしまうと、そんな気がしてきたよ。
「そうですよ。減るものでもないのでしょう?」
このムカつく言い方はヴィンスだ。何故お兄ちゃん効果で話そうと思っていたところに、石を投げちゃったのか。反抗したくなる言い回し!
「私の心がすり減る!」
だから一応悪あがきをしてみるけど。
「……クリス、聞きたい。話してあげて?」
「はい。話します……」
鶴の一声ならぬ、ノア君の一声には逆らえません。退路を絶たれた袋の、いや袋叩きの鼠はおとなしくします。
「ではまず、その相手の名前を教えて下さい」
空気が重いです。ですが答えねばなりません。何故なら私、端に座ってるのでみんなが出ないとまずここから立てないんですよ。
という事に今気づきました。
もう策は張り巡らされていたんだ!
やっぱり袋づめされてたんだ‼︎
「フィリアナ・ラナンキュラス伯爵令嬢です……」
「伯爵令嬢? それで公爵令嬢から乗り換えるなんて、そんなバカな事アルバだってしないだろ?」
ヴィンスが顔をしかめて言う。本音漏れてるよ。彼はアルと1番仲が良いから、馬鹿にされたような気分になったのかもしれない。うーん、どこまで話そう?
「おかしくないよ。恋とは偉大なものなんだよ‼︎」
「そうですか。クリスはそんな恋をした事があるとでも?」
「……ないですけど」
でも今それ関係ないじゃない!
揶揄うような嫌な言い方にそんな反感の意思を込めて、ヴィンスに熱い視線を送ってあげる。そう、レーザービームみたいな焼けそうなやつをね!
……くそう! 魅惑の微笑みされて終わった!
「クリスティの考えを否定するわけじゃないけど、貴族や王族ほど、その身分を重視するのは普通のことだよ。それに今はクリスティが婚約者でしょう? なら、他にも理由があるんじゃないの?」
お、お兄ちゃんまで敵に回った……!
優しそうな口調でそう言うけれど、その目はどこか見透かすように鋭い。
哀れな鼠は目を逸らして、口を窄めてちゅーちゅーしてみますけど、口笛は吹けないし弟が「諦めろ」と言いました。
「……それは、私がいじめたから……」
遠い目をして言ってみたけど。
なんかみんなびっくり顔で固まっちゃった。
いや、まだ未遂なんですけどね。
「クリスちゃんに人をいじめる事とかできるんですか? いじめられる側じゃなく?」
「レイ君すごい失礼だし、それ私をいじめてるって認めたって事で良い?」
驚き方がおかしいので、笑顔で尋ねると「オレはいじめてないですよ?」と、きょとんと言われた。
無意識かっ!
一番タチ悪いやつかっ‼︎
最悪じゃないですかそれ‼︎
「お姉様、その理由はなんですの?」
目を大きく開いて、眉を寄せたリリちゃんから尋ねられる。信じられないといった様子だ。
「うーん、私が高飛車だから?」
「……それはいったい、どなたのお話をしていらっしゃるんですの?」
リリちゃんの方を向いて、小首を傾げて言ってみるけど、困惑顔にさせてしまった。
「ティア。今ふざけている場合ではないのですが」
「ほ、本当だもん!」
呆れ顔をされたけど、拳を握って訴える。
そりゃ、ちょっと色々変っちゃってるけど!
でも、『運命の強制力』はある!
だから、2人がくっ付けば幸せは確実!
……まぁだからこそ私はどうにかしなきゃなんだけど。
「……クリスの話に、嘘はない」
そこでずっと黙って聞いていた、ノア君が助け舟を出してくれた。
さすがノア君ー!
私の嘘発見器なのかな⁉︎
ちょっと怖いけど、今は強い味方だよ!
「本当ですか……? これが?」
アルが驚きで尋ねるが、ノアは静かに頷くだけだ。
「そうだよ! 私、そのせいで国外追放になるんだもん!」
「「「「「えっ」」」」」
拳をブンブン振って訴えたら、今度こそ耐えられなかった、みんなの声がハモった。
セツは知ってるし、ノア君は感情があまり表に出ないから、声には出てないけど目だけ見開いている。
「だから言ったじゃないの、2回目に会った時に! 邪魔しないから国外追放やめてって!」
「……そういえば言ってましたね。けれど、食い違う点が多過ぎでは?」
不安そうにそう言われると、私としてもなかなか答えづらいのだが……。
「『運命の強制力』は、あるんだよ。だから私はアルに幸せになってもらう為に、そして自分が国外追放にならない為に動いてるの!」
高らかに宣言するが、誰も反応しない。
というか、混乱を極めているようである。
セツだけが、「姉ちゃんヘタクソ」と言った。
なんでよ!
どう説明すれば良いのよ!
代わりに説明して欲しいのは、こっちです‼︎
そんな事をしているうちに、時間が経ってしまった。
多分アルたちにとっては謎が謎を呼んだまま、休み時間は終わりを告げ、強制的に現実に戻されるのであった。