15話 魔力属性
「先ほどの話だけれど」
東屋にの中に入り座って落ち着いたところで、アルバート王子は神妙に話しはじめる。
まばゆいほどの白さの東屋から、この迷路の薔薇などが見えるのがとってもロマンチック。おまけに目の前に麗しの王子様とくれば、絵面的に乙女ゲームならスチルがドーンと来そうなほどできすぎたシュチュエーションだ。でも今は子どもだから、回想シーンとかで出てくるやつだな、なんて思う。……そう、現実逃避だよ!
「……君は魔力属性について、どこまで知っているんですか?」
急に言われたことに、頭が追いつかなかった。
ほへ? 魔力属性?
なんでいま、魔力の話が出るの?
私の懇願はいづこへ……?
私の頭にはてなマークが浮かぶ。だけど質問には答えないと、と思って記憶をさぐって思い出す。澄んだ瞳でこちらを見つめる彼は、一体何を考えているのやら。真相は瞳を覗いても見えない。なにか私、試されてるんでしょうか?
このタイミングでこれを聞かれたことを不思議に思いつつも、『王立学園プリンセス』から大まかにわかっていることを話す。
「この世界には7属性ーー闇、光、風、水、火、土、雷が存在します。それぞれ弱点属性があり、光と闇以外は言葉通りそのままの効果……ですよね?」
「そうですね。君には優秀な先生にでもついているのですか?」
「あー……いえ、これも父に……」
微笑んで話す彼から目を離し、視線を彷徨わせる。
いやでもこれはほんとに聞いた気はする!
当時の私は聞き流したと思うけど!
5歳児には難しすぎたのだ。
あの人、何を思ってそんな難しい話をしたのか。不器用なのか。娘と話したくても、話の種がなかったのか。仕事人間すぎる。その真実は、もう誰も知る事はないけれど……やめよう。考えてもムダだ。
「よいお父上だ。……では、その2つの内容は?」
私のそんな悩みは知るはずもなく、アルバート王子はそのまま話を続ける。私も思考を切り離して答える。
「……光は『癒し』、闇は『幻惑』といわれているはずです。こまかく言うのであれば光は治癒と浄化、闇は幻影と予知予言です」
模範的な回答をした、はずだ。
だってゲームで言ってたことだ。
これが正しくて、間違いなんてない。
ないはず、だよね?
でもなんだろうかこの不穏な空気は。嫌な汗が流れる。妙な緊張感で、顔の筋肉が固まりそうだ。
「そうです。でもそれだけじゃない——2つの属性はある意味選ばれた貴重なものだけれど……おかしいとは思いませんでしたか?」
「おかしい、ですか?」
「クリスティア嬢は見たことがあるのでしょう、自分の魔法の光を。それを考えたら……幻影と予知予言だけなら呪うわけでもないし、呼び名は闇じゃなくてもいいはずだとは思わなかった?」
それはゲーム中ちょっとだけ気になっていたことだった。
まだ自分のを見たわけじゃない。でも知ってる。
闇魔法は別に、まがまがしいエフェクトがあるわけじゃない。
魔法を使うとわかりやすく属性の色に光るのだけれど、闇は闇っていうよりは……まぁでもーフィーちゃんの敵だからかな! とか、軽く考えていたんだけど。
「光と闇は対のイメージを持つはずでしょう? それはそうなっていますか?」
そう問いかけてくるおだやかな口調が怖い。
え? プレイヤーも知らない秘密があるの?
つまり、呪いともいえそうな力が……?
「それでも闇と呼ばれるのは——この魔力を持つ者が使えるのはそれだけではないから。それは……」
一呼吸置いて……彼は目を瞑った。
風が吹いて、 庭園の薔薇が揺れる。髪も揺れる。頬に張り付く。
だけどここだけ、時が止まったような緊迫感。
「闇属性の本当の力は——この世界の情報操作です」
再び開かれたその真剣な目には、何が映っているのだろう?
それは本当に私なのか、それとも。
じわりと肌にまとわりつく汗のせいか、風がとても冷たく感じた。