161話 ぼっちがつらい
『それでは、只今より入学式を執り行ないます。席についてお待ち下さいーー』
ぼへーーーー……っと、目の前の何もない舞台を見ている。心ここにあらず。
ここは学園内のホールだ。教室で軽く学園の説明をうけたあと、こっちへ移動するよう指示がでた。入学式を行うからって。
ホールと言っても、ちゃちな体育館と一緒にしてはいけない。とても立派な音響設備が整っており、臙脂色のソファに腰掛ける貴族仕様。
舞台から扇型に広がり、段々と上がっていくような形になっている。天井も高い。間接照明のあたたかな光が印象的だ。ドアも重厚で、二重ドアだった。一言でいうと、音楽ホールみたいなかんじね。
アルは重要な用事があるから先に行きました。
何度も心配されたけど!
部下として落ち込んでるだけですから!
さっきのアルとのやりとりは、忘れた!
忘れたったら、忘れたの‼︎
「大丈夫だーかーらー! 早く行って!」と言い、グイッと背中を押したら。「……では、ちゃんとよそ見しないで見てくださいね?」なーんて、意味深なことを言って出ていった。
色々あって放心状態の私は、よぼよぼのお婆ちゃんのようにフラフラとここに来たよ。何故かというとなんと、アル以外はみんな別クラスだったの‼︎
ちょっと寂しいよ!
友達いないんだもん私‼︎
前世思い出しちゃうよ‼︎
ぼっちになれてたはずなのに、みんなと沢山過ごしてたから、そんなの忘れちゃったよ……。くすん。
あぁ、あと心配事みたいなものもあってね。
フィーちゃんも、同じクラスなんですけど。
ここでふと、思いました。
ゲームと、違くない?
本来なら、アルバート王子と主人公が同じクラスなのは一緒だけど。
悪役令嬢は別のクラスだったはずで、ヴィンセント《ヴィンス》が同じクラスのはず。アルバート王子は、あの出会い頭の衝突から始まり、クラスメイトとして仲を深める事になるのだ。
ただねー、アルバート王子は2人以上攻略して初めて、ベストエンドが開く特別なメインキャラなのよねぇ。
というのも、2人以上攻略して初めてリリチカ姫、まぁ謎の女の子っていう表記なんだけど、それがランダム出現するようになるからだ。
姫と仲良くならないと。
アルバートルートに入っても友情エンド。
ブラコンがすごいのでね……!
まっこの世界の今は私の方がアピール受けてるけども!
あとこれはサイトでも言われてたことなんだけど、特にヴィンセント攻略しておくと、間接的にアルバート王子の性格がわかったりする。仲良し尊いね。
あと『学プリ』はものがたりキャラ以外の好感度もそこそこ上げると、特別会話とかがあった。そこでも性格がわかる。
つまり会話中の選択肢は、『攻略の鍵』。
性格把握は結構重要なとこなんだよね。
というか、これ以上に重要なものはない。
好感度が高ければ選択肢にヒントがでたりするけど、そもそも好感度を上げるには選択肢を正しく選ぶ必要がある。しかも周りの好感度もないと……というパラドックス。
つまり、周りから認められないとアルバート王子のベストエンドは見れないのだ!
アルバート王子ルート面白いけど手がかかる。だからシナリオ的には、ヴィンセントとレイナーかブランドンものがたりからの、アルバート王子の流れが定石って感じだった。
ちなみに。
ブランドンは優しくて易しいキャラ枠。
学年は違うけどものがたりが一番簡単。
だから通称「遠くて近いキャラ」で。
逆にアルバート王子は、条件が厳しい。
同じクラスだけどものがたりは難しい。
だから通称「近くて遠いキャラ」だった。
そういう攻略難易度的な大人の事情もあって、ゲーム内でアルバート王子とヴィンセントは、同じクラスだったのもあるかなーと思う。夢も希望もない話だけど……。
でも今は私の手が入ってます!
アルバート王子ルートの条件も緩んでる!
だってここにはリリちゃんもいるからね!
本来ヴィンスたちと仲良くなった上でアルに話しかけないと出てこないはずの、リリちゃんを引っ張って来る必要がない!
そう今の学園では!
アルとフィーちゃんがくっつくだけなら!
全てをすっ飛ばして良い、という事になる!
これは物語的ハッピーエンドな未来が見えるね! でもこんなに道筋が綺麗だとまるで、誰かの意思が介在してるみたいに出来すぎているようでもある。
……これも、『運命の強制力』なの?
なんだか怖くなってきた。いやいや、アルとフィーちゃんがくっつくのは私の望む展開でもある、のだけれど……。
「でも……私のバッドも、『運命』に引っ張られそうだよね」
こぼれるように、口からその言葉は漏れた。
そんなことを考えていたら、どうも顔色がよくなかったらしい。なんだか周りから「大丈夫ですか、預言師様」って声かけられました。適当に頷いた。
みんな優しいんだけど、『預言師』様なのよねー。距離感が結構切ない……。ちなみに一緒にフィーちゃんの視線も刺さってきている。
あの子バレてないと思ってるよね?
バレバレだよ? チラチラしてるよ?
可愛いから許すけど!
でも絡まれても困る。その結果『悪役令嬢扱い』されそうで。いやでも、アルとの婚約解消的には悪役令嬢ムーブしなきゃいけない? でもやりすぎるとバッド?
うーん! どの程度やれば良いんだー⁉︎
まぁそんなこんなで、頭を悩ませながら移動しまして、結果気づけばホールの中ということですよ。
頭が飽和状態なんですよ。
一回水で流したいよ。
悩みの結晶とかいらないんだけどなぁ。
そう思いながら現実に意識を戻す。ホールでの席順は、クラス単位で貴族位が高いほど前なんだけれど。
最悪です。寝れません。
舞台目の前だわ。
こんな良いソファ寝るしかないと思ったのに!
『それではまずは、本校の生徒会長からお話がーー』
式の話とソファが眠りの世界に誘う。
うーん。眠気に勝てるかしら。
私こういう、長い話苦手なんだけど……。
そう考えていたんだけど。
クラスの、いや、全体の女子の首がぐりんっと動いた。何事? と思ったら。
『こんにちは。本校にご入学なされた新入生の皆さん。生徒会長のブランドン・ライラックです』
柔らかでそれでいてはっきり通る明るい声――そうだった! ブラン、生徒会長だった‼︎
はっと気づいて眠気が飛んだ私とちがって、さすが貴族のお嬢さん方は構えから違う。
首は動かしても、口は動かさない!
ピンクのオーラは出しても!
黄色い歓声は出さないのか!
すごい訓練されてる‼︎ ちょっと感動した!
FGは建前上みんな平等とか言ってるけど、基本貴族の位をちょっと気にしてたりする。寮の時も思ったけど貴族が多いからね。
だから揉めそうなものは全て、位のせいにして上に責任を持たせる。まぁ、爵位が上なほど成長したら責任重くなるから、練習だという話なんだけど。
そんな理由もあって、ブランは2年生だけど会長なのだ。
しかも今年は公爵がばかばかと入ってきたので、スライド式にみんな生徒会に入る。
しかしこの義務があるのは、男子だけ。
あと、断ろうと思えば一応断れる。
普通は体裁的に断らないけど。
だからこそクリスティアは入ってなかったし、セスも入っていなかったんだろう。2人は悪役なのでね!
ちなみに生徒会にはフィーちゃんも入る。
これは「魔力の高いもの、魔力の扱いが上手いもの、学力のあるもの」であれば、生徒会に入る資格を得られるからだ。将来国の担い手になる可能性が高いから。
……という全部合理的な理由で、乙女ゲームの舞台は用意されるわけですね!
『学プリ』ではそのための、学力と魔法のミニゲームもあった。そこは我々プレイヤーの頑張りどころ。このステータスでエンドも変わるのでね。
入らないと攻略が詰む。
だから流れ的にまぁ入るだろう。
この世界、アルバートルートっぽいからね……。
でも本来の流れとは少し変わってるってことはもしかしたら、私も生徒会の話振られる可能性あるのかな? え、考えてなかったや。どうしよ。
とりあえず今はブランの話をちゃんと聞こうと、姿勢を正した。




