150話 気になるあの人について
「なぁなぁ、そこら辺も『聖女様』について、なんか知らない?」
笑いが落ち着いてきた所で、セツがそう話しかけてきた。
「いきなりどうしたの?」
「いやちょっと気になって。まぁ後でクリスティアには詳しく話すけど」
「うん? そう。私はシブニー教解体事件の時に、沢山治療に当たった事しか知らないよ?」
何かあったのだろうか?
まぁ後でというなら、後で聞くけど。
『聖女様』ーー『学プリ』の主人公かつヒロインである、フィーちゃんの敬称のようなものだ。実際に聖女になるには、国に、というか王に認めてもらう必要がある。
前回の働き、なかなかだったみたいだから、普通ならここで聖女になってもいいんだけど……。
「『聖女様』って聖女じゃないんだってな」
「うん。私みたいに、称号授与されてないからね」
この称号の授与、実はアルバートルートのベストエンドのみ、渡されるものだ。
卒業式近くにフィンセントグローリア……FGに、ドラゴンが現れるのだ。ご都合主義すぎるがその時に、アルバート王子が致命的な傷を負うことになる。
そこで治療した結果英雄的扱いになり、聖女の称号が授与される。
身分が違くてもコレがあれば、周りから文句も出ない。
そういう事ですよ。
だから2人は、祝福されながら幸せになるわけです。ちゃんちゃん。
「実績的にはすごかったんだけどね。『聖女様』でもおかしくないくらい」
「まぁそこは大人の事情なのでは? クリスちゃんに『預言師』をあげる時、それが霞んでしまうというか、めでたさが半減しますし」
レイ君が混ざってきた。なんて身も蓋もない……彼らしいと言えば彼らしいし、多分それも『一部では』正解だけど。
「それに、彼女を『聖女様』にするなら、クリスティを助けたノア君も何かしないと、公平にならないからね」
「?」
ブランまで入ってくる。ノア君は、状況がよく分かってないんだろうか……君は無欲の塊だね。私とは正反対だ。
でも確かにね。男だから『聖女様』は無理だけど、同じレベルの光魔力だったんだし。貢献度も同じ位だろう。
だけど私は、実際のところ……。
それらしい理由は後付けであって。
ーー運命の強制力のせい、だと思ってる。
「使えねー姉に変わって、姫様なんか知りません?」
おい弟よ、なんだその言い方は。
確かに、何も知りませんけど!
「何故私が、それに答えなければなりませんの?」
「そこをなんとか」
「そんなものの頼み方では、教えて差し上げませんの」
どうもリリちゃんは、うちの弟にあたりが強い。ツーンと跳ね返す。それにめげないセツは、鋼の心の持ち主かなといつも思う。
「姫様……考えてみて下さい」
「な、なんですの?」
セツが思わせぶりに言うから、リリちゃんが警戒する。何言うつもりなのよ。
「姫様は、姉を正式に姉にしたいんですよね?」
「もちろんですの!」
「ならその時……実の弟のオレに冷たくしてたら……どうなりますか?」
なんなんだその揺さぶりは。
どうもしないよ? 困るだけだよ?
「……お姉様に迷惑がかかる?」
リリちゃんが真剣すぎます。
めっちゃ考え込んで答えています。
そもそも姉には、ならないのだけれど。
「それどころか……弟いびりをしてたら、姉に嫌われますよ?」
「⁉︎」
衝撃を受けるリリちゃん。
いや、そんな酷いことリリちゃんしないと思うんですけど……ツッコミ不在か?
「今すぐ仲良くしましょうセス!」
「そうこなくっちゃ」
切羽詰まったリリちゃんに、ニヤリと笑う弟。そして硬い握手を交わす2人。
なんだこれ……まぁ、喧嘩しなくなるなら、いいのか?
呆然とする姉は、話の当事者なのに蚊帳の外であった。
「私が認めたからには、私と踊らねばなりませんわ!」
「なんだそれ」
「箔付けのためですわ! さぁ、行きましょう!」
そうして、2人はダンスを踊りに……というか、半ばセツが引き摺られるように、連れて行かれた。
実はリリちゃんも、踊りたかったのかもしれないね。そりゃ壁の花には、もったいないしね。リリちゃんは、踊りも綺麗だし。
セツも多分上手いと思うけど。
いつも私と踊ってるから、実際よく分からない。
私が踊れないので……。
ところで、『聖女様』の話は良かったんだろうか?
「すごいねセス君、姫様と踊るなんて」
「えっそれすごい事なの?」
「クリスちゃん分かってませんねー。姫様ですよ?」
「え? どういう事?」
「……姫様は心を許した者としか喋らない。ダンスなんてもっての他」
「あ、あぁ……」
道理でみんな感心してるわけね……そういえばリリちゃんは『氷華』様だもんね。
私には甘いから、つい忘れちゃうけど。
「こうして見てるとセス君と姫様、結構お似合いだね」
「珍しい、ブランがそんな事言うなんて」
「いや……クリスティの妹になるなら、別にセス君と結婚したって、妹にはなるよなぁと思って」
「確かに?」
ブランはほとんどこちらを見ずに、2人の踊りに目を向けている。
そう言われれば、そうだけど……リリちゃんは、セツの好みのタイプじゃないんだよね。だから考えたことも無かったよ。
でもまぁ、ある程度意見の言える子が好きみたいだから、ナシではないのかな?
家柄的にも、許されるとは思うが。
「衣装的には、ヴィンス君よりパートナーっぽいですしねー」
「……兄様は、意地っ張り」
「確かにね……青系だから。ヴィンスはもう、子供のようよね……」
2人のダンスに目を向ける。
……思ったより、息ぴったりで決まっている。
周りの視線も2人に集まっている。その注目度は抜群に高い。値踏みされてる感があるけど、特に顔色も変えずにちゃんとリードしてる。
セツやるじゃないの。後で褒めとこう。
「あれ? そう言えばヴィンス帰ってこなくない?」
「……殿下が捕まってるから、助けに行くって言ってた」
「ウィスパーボイスか……」
淡々と語るノア君に、苦い顔をする私。
今日は風の魔石持ってないので、私は参加できません。久々にキーッ! って感じです。
「えー? 殿下とヴィンス君なんて、ただの女の子ホイホイなのでは?」
「まぁ2人とも、慣れてるんじゃない?」
「そう言うブラン君は、慣れてないですもんねー」
「……忘れようね、レイ君」
おや。レイ君がブランを揶揄うなんて珍しいね?
あーでも、さっきそのせいで休憩してたんだっけ?
だからブラン恥ずかしそうなのかぁ。
「……姉様がごめん」
「謝らないで、ノア君……」
あぁ……お姉様に頼んだんだもんね。
このパーティー、学園生なら参加できるから。入学生は必ず出席だけど、他は任意だ。
ヴィンスのお姉様は、確か下のお姉様が今3年生だから誘ったんだろうな。
まぁ王族来てるのに、参加しないなんてことはほぼないですけど。
「……もうヴィンスのお姉様達とはいいの?」
気にしてない風を装って、私はそっと聞いてみる。
「……今は学業に専念したいし……手のかかる妹から、目を離せないからって断っちゃった」
「えっ!」
言いにくそうに、でも優しく笑ってブランは言う。
私は今日のパートナーの意味で尋ねたのだけど。
まさかそこまでとは……でもそれじゃあ、私のせいじゃないか!
「それ、良かったの⁉︎ いい話だったんじゃないの⁉︎」
「……大丈夫、その程度じゃ姉様はめげない」
「それは……良かった、のかな?」
見つめられてそう言われるが、首を傾げる。
いまいち納得いかないけど、ノア君が言うなら大丈夫?
「さすがクリスちゃん、罪な女ですねー」
「なんでよ⁉︎ ていうか、そうだ! セツはクロなのは分かったけど、レイ君パートナーは⁉︎」
揶揄われるついでに思い出した。
ちなみにクロは、今レイ君の腕輪に化けている。
ついそっちばっかり気にしてたけど、レイ君どうだったんだろう?
「そんなの、実験するに決まってるじゃないですか」
「は?」
予想外の言葉に、思わず目を剥く。
「だから、実験ですよ。人の目があるのを利用しない手はないです」
この子、何言ってるんだろ?




