146話 信用問題
「まぁまぁセス君、何事もなかったんだから良しとしようよ」
そうセツの後ろから諭すのは我らがお兄ちゃん。
今日はシルバーのコートに白い刺繍が眩しい。
でも体格は結構いいから騎士様〜って感じ‼︎
爽やかな短髪は、淡いラベンダー色でもう居てくれるだけで癒し。大きなタレ目は昔からだが、優しそうでもっと怒っていいのよ! って思う。紺色の瞳は、彼の冷静さや落ち着きの象徴のようである。
ブラン……閉じ込められてたなら、注意した方がいいんじゃないかな?
「ブラン兄ちゃんは甘すぎ‼︎ レイは言わないと分かんないからな⁉︎」
私と同意見だがさらに興奮している弟は、今日は紺を基調とした衣装。
飾りは赤みのある金色をしている。
お嬢さんたちに無難に人気でそう。
品の良い万人受けタイプだ。
プラチナブロンドの髪は、クールな印象を与えるが、その濃い黄色の瞳の奥には、怒りの炎が燃えて滾っている。自分だけなら我慢したんだろうけど、ブランを巻き込んだ事が不満なようだ。
「ところで何でクロがいるのよ! 説明して‼︎」
そこに睨みを聞かせて、割って入る私。
まずそこでしょ⁉︎
しかも何でドラゴンになってたの!
わけががわからない‼︎
「レイ君! クロは見たモノにしかなれないわよね⁉︎ 何でドラゴンだったのよ!」
矛先はレイ君に行く。どう考えても今回の犯人は彼だからだ――クロがいるのがその証拠‼︎
クロは寒冷地仕様のスライムに、私が魔力を流しこまされて出来た黒いスライムだ。
闇の魔力の影響により体積を無視して、様々な見た事がある物に変身できることが、レイ君の研究からわかってる。
ただし変身時、どこかしら黒くなってしまうんだけどね。
元々の寒冷地のスライムの姿に化ける時は何故か大丈夫なんだけど、それ以外はわかりやすく黒い。だからそこで、レイ君は判断したんだろう。
何にでもなれるかわりに餌は私の魔力以外受け付けないし、基本は私のいうことしか聞かない。でもレイ君の研究所で普段は研究されてるから、私がレイ君のいうことも聞くように言ってある。
だからクロがさっきドラゴンだったのは、レイ君が命じたからと言うことになるのだ!
私は今回関わってないですからね! 多分、ロクでもない命令をしたんじゃなかろうか⁉︎ 何言ったのよ‼︎
「えぇー……ドラゴンだったのは、オレも知らないですよ? オレが命じたのは『この部屋で2人の安全を確保しろ』ですもん」
「嘘だろ⁉︎ だってオレたち、外に出ようとすると睨まれたぞ!」
「そりゃ外に出られちゃうと、命令違反になるからじゃないですかねー」
「あはは……結構な迫力だったけどね」
反省のかけらも見られないレイ君に、怒りをぶつけるセツ。そして、またまたのんきというか、優しすぎるブラン……。
「……クロ、そうなの?」
困った私は一応、肩に移動したクロにも聞いてみた。するとクロがぽよぽよと跳ねる。うーん、たぶん肯定の意味だと思う。
「ほら! クロも肯定してます!」
レイ君が私をバッと見て、オレは悪くない! と言わんばかりの視線を向けてくる。
本当に肯定だったみたいだ。こういう意思疎通は、私よりレイ君の方が上手いんだよねぇ……多分研究熱心だからだと思う。そういうとこだけにしてほしいね、迷惑行為はごめんだよ。
「それはわかったけど……だからなんでここにクロがいるのよ」
ため息まじりに話す私に、レイ君は告げた。
「そりゃ彼女にする為です!」
「それかー‼︎」
出たよ! そこでそう来るのか!
偽彼女の為に、わざわざクロを連れてきたの⁉︎
なんだそのハイリスクローリターンは⁉︎
どう考えても普通に女の子に頼んだ方が早いわ‼︎
という気持ちが先走り、叫びになって声に出てしまった。そして嘆きのポーズをとる私。どうしてこうなった!
「なんで止めないのよセツ‼︎ レイ君がまともじゃないのなんて、いつものことでわかってたでしょ⁉︎」
「だってレイが自信満々で、『任せて下さい!』って言うから! 最近周りの女子の目が怖いんだよ‼︎ みんなギラギラしてるし‼︎」
思いの丈をぶつけ合う。あーうん……まぁわからなくもないけど。
公爵子息で婚約者がいないとなると、周りの子たちはみんなギラギラしちゃうんだろう。それはもうバーゲンセールに突っ込む乙女のように。掘り出し物だからね。
ヘタレな弟は、それに引いたらしい。
まぁ、君の性格的にはそうなるのかぁ……。
しかも、ぶりっ子苦手だものねセツ。
でも今回のはダメでしょ‼︎
「……で。このスライムを、ティアたちが作ったのは分かりました……どういう経緯か、まだ話を聞いていませんでしたね?」
「あっ」
後ろからポンッと肩に手を置かれる……ギギギギッと、錆びたブリキのように首を回すと、やはりニコニコ大魔王がおられたー‼︎
「ティア? なんでこんな危険生物が生まれたんですかね? どうしてアルティメットスライムが、S級危険種に指定されてるか、ご存知ですよね?」
「うわぁぁぁぁ! ちがっ違うんですうううう‼︎」
「あ、大丈夫ですよー! クリスさんはクロのマスターですから! 言うこと聞きます‼︎」
今まさに大魔王に絞られんとす私に、空回りな擁護が飛ばされた。今怒られてるのそこじゃないんだけど‼︎ レイ君あなたわかってないでしょう⁉︎
「……クロからクリスの魔力を感じる。クリスは本当にマスターだと思う。言うこと聞く」
「あぁそれでノアはさっき、気配がどうだと言ってたんですか」
「さすがお姉様ですの! 魔獣さえも従えるなんて! 私、どこまでもついていきますの‼︎」
ノア君は何故わかるの⁉︎
それは光の魔力のせいなの⁉︎
助け舟ありがとね⁉︎
納得するヴィンスは柔軟性に富んでいる。昔はあんなに頭固かったのに……そしてリリちゃんからは尊敬の眼差しをいただきました。
でも目の前の大魔王がまだいるのよー‼︎ どうしろと言うのよー‼︎ 私は脂汗ダラダラである。ストレスがマッハです‼︎
「……本当に安全なんですか? ティアが危ない目に合わない保証はないじゃないですか」
目の前の顔が、そう言って歪む。
……おや。おやおや!
なんだぁ! 心配してくれたのかー‼︎
「……なんでそこで笑うんですかね?」
「えへへー! 私大事にされてるなーって思って‼︎」
呆れられているが、嬉しいものは仕方ないでしょう! よって私は満面の笑みです!
「はぁ……全く。どうしてそうなるのか」
「大事じゃないの?」
あれ、私の勘違いかな?
心配になって小首を傾げて問う。もしそうだとしたら、フラグが急加速してしまう。マズイぞ! どうしよう‼︎
だけど焦る私にアルがため息をつく。
「……そんな心配そうにしなくても。君は私がどうして怒ったか、理解してるのかしてないのか……」
「……信用度が足りないのでは?」
「黙って下さいヴィス」
「おやおや、兄妹そろってそっくりですね」
うん? 信用度足りないの私じゃないの?
そう不思議に思いながら、二人のやりとりを見ていた。




