143話 発想がおかしい
「あ! 皆さんこんなところに固まってたんですねー!」
気合を入れ直していたら、少年にしては高めの声が聞こえた。この声は……。
「レイ君?」
「クリスちゃーん! 今日も可愛いですね! そんなに可憐なのに、土や風の魔力を持ってないなんて、興味深すぎます! 献血にご興味は……」
「あ、大丈夫です」
いきなり口説くついでかのように、研究を吹っかけてくるのは……いや違う。研究がメインで、そのための手段を選ばない彼は、輝くような笑顔で現れた。相変わらず美少女って言われても、半分は信じそうな可愛らしさですね。
黒に近いような濃い紫の地は、その瞳と同じ色。金の刺繍が施されている様は、青みのあるその紺色の髪とあいあまって、夜へ変わる夕方の空のようだ。その神秘さを上げている。
猫目を縁取るまつ毛は、相変わらず長くカールし、世の乙女の嫉妬を買いそうである。けれど誰しもこの子猫のような愛らしさに、許してしまう事だろう……研究のことを知るまではね!
「全く……隙あらば研究しようとする! 私は実験動物じゃないのよ!」
会うたびに何かに巻き込んでくる気がする、私の元推しは今日も無邪気である。しかし、無邪気であれば許される訳ではない。人様に迷惑かけてはいけません!
「だって、可愛さの秘訣が気になるじゃないですかー?」
「それっぽく言えば許されると思わないのっ‼︎ あと、可愛いっていうのはこういう、リリちゃんみたいなのを言うのよ‼︎」
変なタラシ文句だけを覚えてきた、中身が可愛くない研究家に、真の可愛さの権化の肩を掴んで説明してあげる。
「あ、姫様どうもー! いつもデータ収集手伝ってくれて、ありがとうございます!」
「ば、ばか! それを今ここで言っちゃダメなの!」
「え? 何そのデータ収集って?」
なんでもなさそうに挨拶するレイ君に、焦るリリちゃん。同じ歳の2人が仲良しなのは良いことだけど、そのデータ収集って人様に迷惑かけてないやつ? 大丈夫? リリちゃんはしっかりしてるよね?
「お姉様! なんでもないですの! ……レイナー、後で話がございますの。とりあえず今は置いておきましょう」
「あーまぁバレたら止められますもんね! 分かりました!」
「いや分からないで? 何してんの2人とも?」
明らかに何か隠そうと焦るリリちゃんに、笑顔で答えるレイ君は怪しすぎるでしょ⁉︎ けれど笑って誤魔化される。
「うふふっお姉様、今日も夜空が綺麗ですわ! ご覧になられまして?」
「いきなりの方向転換」
「ちょっとした研究の派生なので、大丈夫ですよー」
「レイ君が言う研究が大丈夫だった事が、1度もないないのだけれど?」
リリちゃんは不自然すぎるし、レイ君はいつも通りすぎる。しかしテコでも動かないらしい。仕方ない、今度探りを入れるか……。
「ところで2人は何か知ってる?」
隣にいる男性陣にも……まぁレイ君も男性なんだけど、なんかもう別の生き物みたいだから別枠で、あとノア君はいい子だから、知ってるはずないので……振り返って尋ねるが。
「何のことですかね? 今度尋ねてみましょうか」
「リリーにもきっと何か事情があるのでしょう。そっとしておいてあげて下さい」
「そ、そう? うーんそっかぁ……考えすぎかなぁ?」
クリスティアは知らない。その後に
「もっと気付かれないように気を付けなさい」
「ごめんなさいお兄様ー」
「全く、姫様はボロが出過ぎです」
「ヴィンセントは黙るの」
「ノアはこうなっちゃダメですよ」
「? うん」
という、密談が小声でされていた事を。
「そう言えばレイ君、ブランとセツ見なかった? まだ会ってないのよね……レイ君、セツと一緒に来たんでしょ?」
「ええ、一緒に来ましたよ」
「なんかあの子、パートナーも『大丈夫』の一点張りで、教えてくれないし……」
気になって尋ねる。今日はアルと一緒に来たから、セツとは来てないのだ。こういうパーティーには、嫌でも男女で出席するのが普通なんだけど、あの子女の子の友達いたのかなぁ?
「いないなら、作ればいいと思いませんか?」
「……へ?」
あっけらかんと言うその発言に、一抹の不安を覚えた。
「あの、作るって彼女をって事よね? 誰か友達に声とか掛けたって……」
「……クリス、レイの言っているの、それじゃない」
お兄ちゃん達に置いてけぼりにされたらしい、ノア君が話に入ってきた。あの3人何話してるんだろ?
「さすがノア君! 分かってますね! そうです! いないなら、物理的に作ればいいと思いませんか?」
「待って待って待って」
何か問題でも? って顔をしている彼に、ストップをかける。違和感の正体はそれかー⁉︎ え? 何? そっちの作るなの⁉︎ 今度は何をしたんだ⁉︎
「おかしくない⁉︎ なんでそうなったの⁉︎ 誰も突っ込まないの⁉︎」
「いやぁ、声かけていくより楽じゃないですか」
「……面白い発想」
「いやノア君騙されないで⁉︎ おかしいって思って⁉︎」
研究しか見えてないレイ君の話に、ノア君が目をキラキラさせる。
いかん! ノア君は純粋だから、レイ君の楽しそうな心に釣られている‼︎ 光持ちは人の心が見える分、同調しやすいみたいなの! 確かにいつでも楽しそうだけど、コレについて行っちゃダメだからね⁉︎
「で、どこにいんのよセツは⁉︎」
もう直接確かめるしかない! と思ってレイ君に問い詰めると……。
「仕方ないですねー。ついてきて下さい」
と言って、トコトコ歩き始めた……自由人か⁉︎ しょうがないので後ろをついて行く事にしました。