表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/535

139話 可愛い犬のリードは離さない (挿絵)

「もう、また何かしたのクリスティ?」


 アルに引き摺られて、部屋に入ってきた私を見て、ブランの呆れ果てた声を出す。隣ではセツがため息を吐いている。だから私何もしてないのに!


「言い掛かりだー! ヴィンスとリリちゃんが大人になるために、言葉遣いを変えようとしてたから、手伝ってただけなのにー‼︎」

「おや、そうだったんですか。てっきりまた変な事をしたのかと」

「信用がないっ‼︎」


 私は愕然とした。だって信用がないって事は、バッドまっしぐらなんですよ‼︎ 私は信用獲得の為に忠臣になるべく、日々頑張っていると言うのに‼︎ はぁ、もう自分だけなら諦めちゃうとこだよ。


「どうやったら、アルに信用してもらえるのかなぁ……?」

「……普通本人に聞かないのでは?」

「あまりにも分からなさすぎて……なら本人に聞いちゃった方が早いかと!」


 ちなみにまだ腕を掴まれている。だから聞いたのもあるし、迷って途方に暮れるより、素直に人に聞いた方が良いと、私は思ってるから聞いた! アルは耳を疑うかのような表情だけど!


 藁にもすがる思いなんですよ! 私は転生が分かった時に、なり振り構わないと決めてるのよ‼︎ 弟が可愛いお嫁さん貰って、ほしかった妹を手に入れる野望もあるの‼︎


 そう! 私は誰よりも欲深い……闇の使い手なのだから‼︎ そういう事なので、良いアドバイス下さい! ご主人様‼︎ 良い忠犬になるためのアドバイスを‼︎ さぁ!


 私は期待を込めて、キラキラの瞳を向ける!


「……なんでそんな目で見るんですか……はぁ……別に婚約者の自覚を持ってくれたら、それで……」

「つまり、もっと完璧になれという事ですね! 婚約者に相応しい、淑女であれと! なんか前も言われた気がする‼︎」

「それもそうなんですけど、そこじゃな……」

「あ、でも婚約破棄するときの口実があった方が……」

「その度々出る『結婚しない』、だのなんだのはなんなんだ?」


 やっと回復したらしいヴィンスが、疑問を放り込んできた。口調は諦めたんですかね? 今日はもうお休み?


「……それは」

「あ、そうだよね! もうヴィンスにも言っといた方が、というかみんなに知っておいて貰った方が、協力が仰げるよね!」

「ティア……」


 不安げな色を浮かべるその表情に、ご安心下さい! 私忠臣ですので! の意を込めて、満面の笑みを返す!


「私、アルの運命の相手じゃないの! だから結婚しないよ‼︎」


 バーーーーン! と効果音のつきそうな勢いで、そう高らかに宣言した!


「えっおにいちゃん、おねえちゃんとけっこんしないの⁉︎」


 よほど驚いたのか、リリちゃんはアルに詰め寄っている。その勢いか、アルの手が離れた。


「へぇ……それは良いことを聞きましたね!」


 良い笑顔で喜ぶレイ君。あ。このマッドサイエンティストに言ったのは、間違いだったかもしれない。


「……そうなんだ?」


 そもそも婚約の事知ってたんだろうか? くらいの温度感のノア君。


「……やっぱり、殿下に差し上げるには早いよね」


 どこか安堵顔のブラン。私がアルに迷惑掛けてるから、ブラン的には結婚なんて胃が痛い話だろうしねぇ……。


「うわぁ……公開処刑とかえげつない……」


 あり得ないものを見る目でこちらを見るのは、私の弟ですね! なんでセツはそんな顔してるんだ?


「……アルバ、これ本当なのか? クリスの言ってる事……」


 さすが疑り深い王子の右腕殿は、すぐにアルの方を向いて尋ねた。……ほんと私って、信用ないですよねぇ……。


「……それがティアの予言なら、事実はそうなんじゃないですか?」


 俯いて目を瞑るアルは投げやりに、そんな答え方をした。あれ? どしたの? 元気なくない?


「おにいちゃん……」


 リリちゃんが心配している。えっ本当にどうしたの? 私なんかした……?


「……クリス、お前はそれで良いのか……?」


 ヴィンスが少し悲しそうに、そう問いかけてくる。……なんで? どうしてそんな顔なの?


「いいよ? だってそれがアルの幸せなんだよ? 私はそれに、忠臣として協力するって決めてるの。だから、裏切らないよ」


 そう、裏切らない。そしてアルもフィーちゃんも幸せにした上で、私やセツもフツーに暮らす! それが目標だから。


 私は強欲なので、みんなハッピーが好きです!


「……その幸せは、誰の幸せなんですかね」


 ふと、そんな呟きが聞こえた気がした。


「へ?」

「……まぁいいです。ダメでもともとなら、それに懲りずに手繰り寄せるだけですから。私は君ごと変えるつもりなので、覚悟して下さいね、ティア?」


 次の瞬間には、さっきの暗い顔が嘘のようなにこやかな……笑みの怖すぎる悪魔がいた‼︎ 天使のように光を放つその笑みには、どす黒い何かが渦巻いている気がするんですが、気のせいですか⁉︎


「えっえっ⁉︎ 私何か悪い事しました⁉︎」

「ええ、ええ。良いんですよ。気にしないで下さい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()いけないですからね。それでこそ、()()()()()()()()というものですよね?」

「ん? んん⁉︎ そ、そうなのかな⁉︎」


 気温が低くなった気がしますが⁉︎ これも気にするなということですか⁉︎ しかしそのニコニコ圧に気圧されて、何も言えない‼︎


 な、なんか分かんないけど、怒らせたのは分かる! 大混乱しながらも、それだけは分かるよ‼︎


「リリー、大丈夫ですよ。お姉ちゃんは、お姉ちゃんですから。お姉ちゃんに、ちゃんとなりますから」

「……! うん!」

「うん⁉︎」


 にこにこ優しげに言うそのセリフに、リリちゃんの可愛い頷きと、私の困惑の疑問符。奏でられる音は不協和音だ。どういうことだ⁉︎ 噛み合わなくない⁉︎ 気のせいですか⁉︎


「……はぁ。なんだ、心配して損した」

「貴方に心配されなくても大丈夫ですよ、心は砕かれ慣れてますから」

「……ご愁傷様」


 何を心配したのかよくわからないけど、本当に心配したらしいヴィンスに、アルは爽やかにそう返す。なんかよく分からないけど、大変だね!


「ま、失敗しても……()()()は誰かここら辺の奴らが預かるから、安心すれば? 僕とか、家にいるくらいですから慣れてますよ?」


 終わったかと思いきやヴィンスは挑発するように、笑顔を向けてそんなことを言う。ヴィンスが話す犬って、こないだの子犬ちゃんだよね? じゃあアルもワンちゃん飼ってるって事? だってこれ、私の話じゃない、リアル犬の話よね?


「……犬は可愛い」

「良いですねー! 研究も捗りますし、癒されますしね!」

「そうですね、手元にいたら手間もかかりますけど、可愛いですから。構いたくなります」

「? 犬飼いたいの? ブラン兄ちゃん」

「! わんちゃんはかわいいのー!」


 みんなにこやかに犬談議をする中で、違和感のある発言1名。あ。私だけじゃなくて、弟も置いていかれてたね! 良かった! 私安心したよ‼︎


 にしてもみんな、アルが犬飼ってるって知ってたの? ズルい‼︎ 私にも教えて欲しかった‼︎


「大丈夫ですよ。ちゃーんと、リードを離さずにいますので」


挿絵(By みてみん)


 アルもどこか戯けたように返した。珍しいなぁ、アルのそんなところを見るの。それより!


「アルもワンちゃん飼ってたの⁉︎ 知らなかったよ‼︎」


 私の興味は俄然そっちだ! ヴィンスのところのワンちゃんみたいな感じかなぁ! 気になる‼︎


「……そうですね、飼って欲しいとやってきたので」

「へぇー! 誰かから譲って貰ったとか⁉︎ 今度見せてよー! 可愛い⁉︎」


 期待に胸を膨らませて、アルに思わず飛び掛かる勢いでそう問い掛ける。どんなワンちゃんかなー⁉︎ 小さい子? 大きい子? 大人しい子? 元気な子?


 でもワンちゃんなら、みんな可愛いよね‼︎ あのふわふわがたまらないよね‼︎


「そうですね……でも、クリスは会えませんよ」


 少し目線を外した後、こちらを向いてそう答える。な、なんですと……⁉︎ そんな殺生な⁉︎


「け、ケチ! 私も会いたいのにー‼︎」

「ダメですね……だって」


 そこでふっと息を吐いて。


「隠しておきたいほど……独り占めしたいほど、可愛らしいですから」


 アルは溶けそうなほど、蕩けそうなほど、見るものを思わず釘付けにするようにーーそれが本当に愛おしいと言いたげに、柔らかく笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*企画ありがとうございました!*
i583200

*短編悪役令嬢*
流星の如く輝く没落を!〜悪役令嬢はざまぁフラグ貯金でクソゲーを改変したい〜

*こっちは学園物です*
BLACKCAT SYNDROMEー黒猫症候群ー

参加しています。よろしくお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=289234961&s
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] ああ……ついにアルがクリスを犬扱いし始めた……。 挿絵のディフォルメが可愛いですね。 2Dキャラってなんでこんなに可愛らしいんだろう。 ねんどろいどみたいで良き( ˘ω˘ )
[良い点] 何度もごめんなさい! 私がメッチャメチャ好きな展開がきて一人興奮隠せないんですけど(*≧m≦*) ニヤニヤとドキドキ止まらない。 アル以外の男子も負けてないと思いきや結局アルだもん!最高~…
2021/09/21 18:01 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ