133話 踏んだり蹴ったり
「先生! 早めにこれ終わらせましょう!」
私は挙手をして、勢いのままに言う。悲しい! 悲しいよ! なんでこんなに悲しくなりながら、授業しなきゃならないのかな⁉︎
「そ、そうですね。では……シンビジウム公爵令嬢、基礎呪文は覚えていらっしゃいますか?」
「先日教えていただいたものですよね! 分かります!」
「それではそれの後に、今回は『眩ませ雷光』です。宜しいですか?」
おっけーおっけー! では笑われる前にやっちゃいましょう!
「神の御名のもとに集いし精霊よ、その力を我に寄与し賜らん……眩ませ、雷光!」
ピカッ‼︎
唱えた瞬間、目の前が白くなる……おお! これ目眩しの術なのね! 閃光弾みたいな感じかぁ‼︎
「はい、良いでしょう。これを狙った位置で打てるようになれば、さらに使い勝手が良くなりますよ」
そして悪者サングラスは、先生の元へ回収されていった。グッバイ、もう二度と会いたくないよ。
辺りを見ても特に変化はないから、本当に光るだけのやつなのね。いや、アルとリリちゃんが手で目を覆ってたけど……。なんでタイミング分かったんだ? まぁ呪文唱え出したら分かるか? あれ、でも先生声かけるって……。
「……もうお2人とも普通に話して頂いて、構いませんよ。3人で会話は問題ありませんでしたので、コツさえ掴めばさらに大人数でも問題ないでしょう」
「へ?」
思わず間抜けな声が出た……なんだって? 3人?
「すごいのー! 頭の中に声がするのー‼︎」
「これで今度から、リリーも会話に入れますね」
「リリーおしゃべりするのー! ……あれ? おねえちゃんとはなせないの……」
「くっ! どうせ私は風が使えないわ‼︎」
「どういうことなのー?」
リリちゃんの純真な瞳が、視線が、私の心をズタズタにしていく……! あの、泣いていいですか?
「リリちゃん……私は風の魔力がないから……一生お話には入れないのよ……っ!」
ぐっと奥歯を噛みしめながら、血を吐く想いでそう答える……闇より風が欲しかったんですけどーー‼︎
「……ティア、今日あの靴履いてきてますよね?」
「え? 靴?」
「あの赤い可愛らしい、風の魔石のついた靴です」
あぁ、あの爆走靴ね。一応今日も履いてきたけど……。
「あの靴を履いている間は、ティアも話せるはずですよ。ただあれは加速用なので、毎回呪文を唱えておかないといけませんけど」
「えっ! 私もできるの⁉︎」
思わずバッと顔を上げて、アルの方を見る! まさかのまさか⁉︎
「中級の魔法を使えるほどの魔石ですから、初期魔法くらいは問題ないでしょう。自分から何もしないときは、魔法陣の魔法が発動するようになっているので、リリーが話しかけても聞こえなかったんです」
へー! 何それー! まぁよく分かんないけど、魔石が電池だとしたら、魔法陣は回路ってことかな? 電池の繋ぐ先を切り替えないと、その力を使えないってこと、かな? 多分!
「……おねえちゃんお口あきっぱなしなのー」
「はっ!」
慌てて手を当てて口を閉じる。
いや、だって目から鱗だったんだもん! 使えない使えないって悲しんでたから‼︎
「そうでしたか。風の魔石をお持ちであれば、たしかにウィスパーボイスは使えますね。ウィスパーボイスの呪文は『届けよウィスパーボイス』です」
先生が微笑んで、教えてくれる。よ、よし! やるぞー‼︎
「神の御名のもとに集いし精霊よ、その力を我に寄与し賜らん……届けよ、ウィスパーボイス!」
その瞬間、キンッと耳鳴りがするような音がした。
『おねえちゃんきこえるー?』
「あっ! 聞こえる‼︎」
『ティア、口で話すのではなくて術を使ってください』
「えっえ? どうするのこれ!」
『誰かに話しかけるつもりで、強く念じれば大丈夫です』
う、うーん? わからないけど念じるのね……。
えーと、じゃあ『アルとリリちゃん! 聞こえるー?』
『おねえちゃん! きこえるよー!』
『ちゃんとできてますよ』
「やったぁ!」
私は思わずガッツポーズを決める‼︎
だって! 便利魔術使えるようになったんだよ‼︎ これで親指咥えて見なくてもいいんだよっ‼︎ わーい! わーい‼︎
「ティア……声に出てますって」
「はっ⁉︎」
私は慌てて口を押さえる……似たような事さっきやった気がする。
「おねえちゃんすぐしゃべっちゃうのー」
「まぁ……可愛らしくて良いと思いますよ」
「かわいいのー!」
アルはくすりと笑い、リリちゃんはにこにこ笑う。かぁぁっと顔が熱くなってくる。
しょ……しょうがないでしょ‼︎ 今までしょっぱい思いをしてきたんだもん‼︎ 嬉しかったんだもん‼︎
「まぁでもそのうち、それ用の魔石もあった方が良いかもしれませんね。今のままですと呪文を唱えてからでないと、話しかける事も話を受け取る事も出来ませんから」
む、確かに! 話しかけられた時に分からないのが一番困るね‼︎ 電話で言えば常時電源オフって事だもんね‼︎
でも魔石って高いのよねぇ……。まぁ、強請るとか……いや、そんな事はできない! 迷惑はかけられないから、採りにいく……?
「ティア……あの、あんまり変な事考えないでくださいね。それくらいなら、こちらで用意しますから」
「へ⁉︎」
「全部きこえてるのー」
「なんですと⁉︎」
「切断する前に、強く思いすぎです」
な、なな⁉︎ つまり私の感情はただ漏れだったというの⁉︎
「だだ漏れですね」
「おねえちゃんおもしろいのー!」
ケラケラと美しい兄妹が、笑っていらっしゃいます……穴があったら入りたい‼︎ やっぱり私では上手く使えません‼︎
頭を抱えて突っ伏そうとして……終わり方を知らない事に気が付いた。
「先生……切断方法教えて下さい……」
消え入るような声でそう尋ねると、先生は優しく「切断を強く思えば良い」と教えてくれた……あ、水球もそんな感じでしたね……。
その後『電雷』ーーヴィンスが黒スライムに使ってたやつも、教えてもらったんだけど……静電気みたいな強さしか出来ませんでした! これが魔力の差ですね! 本日の営業は終了致します‼︎