132話 やさぐれ悪役令嬢
結局1週間後の今日、聞いた話によると、リリちゃんもアルとレイ君の特訓に混ざって、魔力の扱い方を学ぶらしい。今日も午後その特訓をやるとか。見学する予定ですが、レイ君いるのかー。
さらに魔力の基礎から学ぶ必要があるので、そういうところのみ、私たちの授業に混ざることになった。本日実技の授業の復習の日だったので、リリちゃんも混ざる。
ここでひとつ、お知らせである。
私より、リリちゃんの方が魔法上手いんですよ……。しかもですよ、魔力の量もリリちゃん多いんですよ。
だからね、聞きたい? 私の悲しみの話。
そっかー、じゃあ話しちゃうんだけど、最初にやった初期魔法『水球』あるじゃない? あれリリちゃんはねー……。
「え……なんですかこの魔法」
「? しょきまほうなのー。水球なの!」
きょとんとしながら、質問に答えてくれる。違うよリリちゃん。それはね、お姉ちゃんも知ってるんだよ……?
リリちゃんの手の上には、サッカーボールとかバスケットボール級の、水の玉が出来ていた。
「……その、ティアも成功してはいますから!」
必死に弁護してくれるアル。復習ということで、同じ魔法を使っている私の手の上には……ビー玉のような水の玉。
ねぇこれ、同じ魔法じゃないでしょ?
知ってるんだよ? 隠して違う魔法使ったんでしょ? 使ったって言って、お願いだから! お願いだからぁぁぁぁっ‼︎
「リリチカ姫様はご立派でいらっしゃいますが……その、制御も魔法には必要ですので」
先生はこないだのおばちゃん先生だ。先生もびっくりのサイズだったんですね。私にはノーコメントですよ、はい。
「せいぎょー?」
「はい、魔力消費を抑えるためでもあり、威力を抑えるためでもあり、操作を覚えるためでもあります」
さすが先生。端的に述べる説明、分かりやすいですね。なるほどねー、たしかに中級魔法とかだと、「繊細な魔力操作が必要」って、レイ君も言ってたもんね。これは練習なのね。
……その練習も必要ない私には、関係ない話なんですけどねー‼︎
「よくわからないのー……」
リリちゃんは困り顔で、大きな水球とにらめっこしている。リリちゃんの顔くらいあるよね、その玉……いやもう、すごすぎて言葉が出ないね。
「危ないから、小さくしてくださいってことですよ」
アルがだいぶ噛み砕いた言い方をする。お兄ちゃんだねぇ。まぁ要は小さく出来れば、全て条件クリアではあるからね。
「じゃあ、おねえちゃんくらい可愛くするの!」
そう悪意のなく曇りのない笑顔で、こちらに笑いかける姫……くっ! お姉ちゃんは可愛くしたくて、してるんじゃないのよ! 言わないけど! 言わないけど‼︎
「うぐぐぐぐ……」
リリちゃんは水の玉に向き合うと、謎の唸りを上げながら、にらめっこを再開した。……水の玉はどんどん小さくなるが……。
「うぅ……ダメなの。ここまでしかダメなの〜」
それは野球ボールくらいの大きさで止まる。
「いえ、姫様! これが正しい大きさで……あ、えーと」
ぐふっ‼︎
先生が張り切って、リリちゃんのフォローをしようとして、私に誤爆した。ちらりとこちらを申し訳なさそうに見ている。
つまり、私は正しい大きさすら出せてないのね? そうなのね? 悲しみの事実が増えたんですけど?
「でもリリー、おねえちゃんみたいに可愛くしたいのー」
切なそうにそう言うリリちゃん……なんて言ったらいいんですかね。
ていうかアルが、その横で笑ってるのが気になるんですけど? ねぇなんで笑ってるの? 酷くない? 手で顔隠してるけどさぁ、肩震えてるけど?
「ま、まぁ……練習していきましょう、リリー。最初からは無理ですから」
笑いの呪いから解けたアルが、リリちゃんを慰める……私の方が慰めてほしいよ? 見てよこの虚無顔。
……そう言えばアルの出していた火の玉、あれピンポン玉くらいだったんだけど、抑えてたってことなの……? だから私は、特に違和感持ってなかったのに?
気付きたくなかった事実に気付いた私は、何かに心を抉られました。
「でも消費量が少ないほど、好ましいものもあるんですよ? そうですよね、先生」
それはフォローなのかフォローじゃないのか、アルは先生の方を向いて話を振る。
「え、ええ……『雷光』などは、近ければ効果は変わりませんので、むしろその方が良いかもしれませんね」
「……『雷光』、ですか……?」
ゾンビが地を這うような声で、そう尋ねる。
「え、ええ。これも雷の初期魔法ですから、やってみましょうか」
「あ、でもそれだと2人が……」
「お2人は先程から、ウィスパーボイスの練習をされてますから大丈夫です」
「えっ?」
気付けばアルとリリちゃんは、無言で向き合ってなにか頷いたり、首を傾げたりしている。
なんですかそれ? そういえば途中から話し声聞こえないな、と思ったけどさぁ! 話さずに会話してたの? 私の使えぬ便利魔力で⁉︎
……まぁ持ってない私じゃ、その練習すらできないってことですわね‼︎ 悲しみ‼︎
「……分かりました、教えてください」
もう半ばやけになって頼んだ。ぶっきらぼうな声になっていた。
「はい。防犯でも役に立ちますから、覚えておかれた方が良いです」
先生はそう、優しく微笑んで言ってくれた。
「『雷光』と『電雷』までは、シンビジウム公爵令嬢におかれましても、覚えておかれますとお役に立つかと思いますので。ではまず、こちらの眼鏡を掛けてください」
渡されたのは……サングラス?
「これは?」
「光が強いですので、目を痛めないためです。そちらのお2人は、使うタイミングで目を塞いでいただきますので」
先生はそう言って、サングラスを掛けた。うん、ミスマッチだね! 先生の優しい感じに似合わないなー……って事は。
スチャリ。
「おねえちゃん、悪い人みたいなのー」
「こ、こらリリー!」
いつの間にかこちらを向いていたリリちゃんは、素直な感想を述べた。
うん、無邪気な反応をありがとう! アルが嗜めているけど、私もそうだろうなと思った! ある意味似合ってるよね、悪役令嬢にサングラス……完全に悪いヤツですよ畜生!