131話 大人になるって大変だよね!
「アル! リリちゃん連れて来たよ!」
どうもいろんな人に捕まってたらしい、囚われの王子様の元へ駆け寄る。今なら全然そんな展開ありだよなー。
「ティア……あっリリー! 無事で良かった……!」
相当心配してたのだろう、そのままアルはギュッとリリちゃんを抱きしめた。リリちゃんは「おにいちゃん、ごめんなさいなの」と、小さく呟いてしがみ付いている。
「リリちゃんすごい魔法を使いたくて、魔力を暴走させちゃったみたいなの……あ、これはもう隠蔽しちゃったんだけどね!」
「……そんな明るく言うことですか?」
リリちゃんを抱きしめながら、アルはこっちを睨んでくる。仕方ないじゃないのー。これが最善だと思ったんだもん!
いや。あれを知らないんだから当たり前かな。という事でまぶたを一度閉じて深呼吸してから、告げる。
「凍ってたの」
「え?」
「部屋中が、凍ってたんだよ。氷で。あれは火と水の魔法なんじゃないかな?」
私もレイ君の発言がなければ、状況を飲み込めなかっただろうけどね。そこはあの研究狂に感謝しないと。
驚いた様子のアルは、リリちゃんに視線を戻して、考え込んでいる。リリちゃんは少し体を離して、「ごめんなさいなの……」と、アルを見つめてそう言った。うーん、本当にこの兄妹、絵になる。
場違いにほっこり&見惚れかけた私は、慌てて頭を振ってそれを追いやり、付け足す。
「才能があるんだよ、リリちゃん。このままじゃ危ないから使い方覚えないと。でもそれで、アルの立場が弱くなるわけじゃないよ? アルはアルで、リリちゃんとは違うやり方を磨けば良いだけでしょ?」
先回りして、アルが気にしそうな事を潰してしまう。嫉妬よりも、良いお兄ちゃんでいて欲しい。まぁ、私のエゴなんですけどねー。
上って複雑だよね。わかるよその気持ち。
私は自分より頭が良い弟の顔を思い浮かべて、そう思った。それでも下は可愛いし、大事にしたいのも嘘じゃない。でもたまに忘れそうになるのも嘘じゃない。
「まっリリちゃんも、もうちょっと大人になれると良いかもね。お兄ちゃんこのままじゃ、大変だから」
苦笑しながら、首を捻ってこちらを見るその頭を撫でる。可愛いんだけど、ワガママ放題も疲れちゃうからね。
「……リリー、今朝はすみませんでした。リリーがそんなに本気にしていたとは、思っていなくて」
「リリー、お勉強したかったの」
「知っています……でも、まだ早いかと思ったんです。成果を上げれば、もっと求められるようになるから。リリーはまだ自由でも良いんじゃないかって」
なるほど、喧嘩してて遅くなったのね。
見上げるリリちゃんを、アルが優しく撫でる。すれ違ってたのかなぁ。アルはリリちゃんを思ってだったんだろう。2人は王族だから、それ故の苦労もあるんだろうな。
「おにいちゃんとおねえちゃんと、おんなじ事がしたいの。それは、ダメなことなの?」
真っ直ぐな瞳で、そう問う姿は純粋そのものだ。こういう時どうしても先回りしてしまうけど、本人がやりたい事はやらせてあげるほうが、幸せなこともあるよね。
「いいえ……私は考えすぎていたのかもしれません。最初からダメだと、話を聞かなかったのは良くなかったですね」
「アルはいい子だなぁー」
「え?」
うっかり口から漏れた感想に、反応された。あぁ……兄妹の水入らずに水を差してしまうとは。
「う、ごめん……いやね、いい子すぎて心配だなぁって思っただけだよ……アルは言いたい事、ちゃんと言えてるのかなぁって」
いい子だから、屈折しないでほしいなーってね、思うわけですよ。屈折しちゃった私としてはですね。
真っ直ぐでいる事は、傷付きやすい事だと思うの。気付かないフリして無視してるうちに、ぽっきり2つに折れたりしないか、その綺麗な花が散ってしまわないか不安になるのだ。
王族の重圧は、頭が重いから特にね。
「まぁ、いいか。大変になったら言ってねアル。ここにおります忠臣が何とかしますので!」
いつか、あなたの隣に寄り添ってくれる人が来るまでは。私がその穴は埋めましょう……お姉ちゃんなので、お子様の扱いは得意ですからね! 私の方がお姉ちゃん歴も数もこなしているのだ‼
えっへん! どーんときなさい! という感じで胸に手を当て、格好付けてそう言った。︎
「ふふっ何ですかそれ」
アルは口元に手を当てて、柔らかく笑う。
「何って、部下の決意表明ですけど? 大変でも我慢しちゃいそうな王子様への、助言ですけど?」
「……私としては、婚約者からのそういう言葉が欲しいんですけれど」
「えっ! そんなの恐れ多くて、出来るわけないじゃん‼︎」
「……普通逆では?」
えぇー⁉︎ 婚約者(仮)の身分で、そんな差し出がましいこと出来ないよねー⁉︎ 上司への信頼感からの言葉よ今のはー!
「リリーむずかしい話、わかんないのー」
話に置いていかれて、不満げなリリちゃん。お口がタコさんになっている。
「ごめんねリリちゃん。さて、リリちゃんにお兄ちゃんは謝ってくれたから、この話はもう終わりです! リリちゃんも、今度からは無茶しちゃダメです! お姉ちゃんと約束! 分かった?」
手を叩いて、空気を変える。切替え大事!
「分かったの! リリーもっとオトナになるの! ……そうしたら、おねえちゃんともっといられる?」
はい、でましたー! 姫様必殺! 小首傾げ‼︎ どんな人間もノックアウトです! つまり私も例に漏れません‼︎ デレデレでございます‼︎
「可愛いから一緒にいる!」
「やったぁー!」
両手を万歳にしてキラキラ笑顔で、喜ぶリリちゃんは妖精さんのようです! やはり可愛いは正義である! 異論は認めない‼︎
「……私は成長したいのか、したくないのか、分からなくなってきました……」
「え?」
「成長したら、可愛い物好きのティアでは本当に……」
ぶつぶつ言いながら、アルは考え込んでしまった。悩みの多いお年頃ねぇ。
やがて「……いえ! その前に何とかすれば!」とか言うアルを眺めながら、私はリリちゃんをなでなでした。その後美味しいご飯を3人で食べました! うん! みんな仲良し平和が一番だね‼︎
そしてすっかり授業は忘れて終わったことに、お茶をしながら気付きました。ごめん先生。