129話 事件発生
るっるるーんるっるるーん! 今日も元気におっべんきょうーーーー! 作詞作曲、私! 今日はどんな事をやるのかなぁ? 新しい魔法とか覚えないかなー?
受験勉強から見たら、魔法の勉強なんて天国だ。お昼に豪華なご飯も食べられるし! だから私は、今日もご機嫌で鼻歌交じりにお城にやって来た。すれ違った人にも、片っ端から挨拶したよ!
「おはようございまーす!」
教室のドアを開けるときのノリで、挨拶をしながら部屋に入る。おや? まだ誰もいない。珍しいなぁ。アルも来てないなんて。
とりあえず席に座る。しばらくして、先生が来るけどアルが来ない。なんかあったのかなぁ? アルって真面目だから、遅れたりしないと思うんだけど。
するとバンッとドアが開いて、お待ちかねの人が駆け込んできた。
「はぁ……はぁ……すみません。遅れましたか?」
「アル! 大丈夫? 何かあったの? 時間はギリギリセーフだけど」
「ええ殿下。まだ1、2分程ございますので、問題ございません」
そう答えたのは、今日の先生。今日はちょび髭が素敵な、紳士ーって感じの人だ。座学の匂いがする。それはちょっとよろしくないんだけどな……。
「いえ、それでは直前すぎますね。申し訳ございません。次回以降はこのような事がないようにします」
肩で息をしながら、アルは先生に謝った。まっじめー。時間に間に合えばとりあえずオッケー! みたいな私とはえらい違いだ。
でも、本当に何があったんだろう?
「それでは授業を始めます」
その言葉を皮切りに、授業が始まった。気にはなるけど、授業中は私語はご法度だ。あとで聞こう。真面目に勉強しなきゃ。
と思ったけど、授業は歴史の話だった。ヤバいです。私歴史の授業は、誘眠作用のある魔法かかってるんじゃないかってくらい、耐えられないのよ……眠気に!
「ーーですから、この1万年の歴史ある我が国でも、闇の魔力を持つ者は少なく、特に『預言師』ともなると、歴史上でも片手で数えるほどになります。この栄誉ある称号を手にされたのであれば……シンビジウム公爵令嬢?」
…………はっ!
「起きてます!」
「その答えは聞いてはなかった、ということでしょうか?」
「お、おほほほほほほ」
わざとらしい笑いが、教室にこだまする。すみません先生。私のこれはもう治らないんですよーあはは……。どう誤魔化そうか、考えを巡らせ始めたその時。
パリーン‼︎
「⁉︎」
「な、なんの音でしょうか」
「! ちょっと様子を見て来ます‼︎」
「えっティア⁉︎」
有耶無耶にするいい口実ゲーット! と言わんばかりに、私はドアを開けて外に出る。すると授業からの開放感を感じるよりも先に、ここから見える窓のガラスが割れていることに気付く。
外にガラス片が落ちているから、中で何かあった?
「あの部屋、リリーがいる……」
「えっアル! 来たの⁉︎」
「ごめんなさい、私先を急ぎます!」
いつの間に後ろにいたアルは、窓を見て明らかに焦った。そう言うなり急に走り出す……って早! ヤバい追いかけよう!
見失わないうちに、私も勢いよく走り出す。コレの出番が来たようね!
「あ、アル! 私も行くー‼︎」
「⁉︎ ティア、なんで追いかけてこられるんですか⁉︎ 君は風の魔法が使えないはずじゃ……」
「お誕生日に、貰った!」
「何を⁉︎」
「靴ー! 走れる靴が欲しいってお願いしたの‼︎」
そう、私が今日履いているのは誕生日に貰った、あの赤い靴だ。私が「履きやすくて走れる靴が欲しい」と言ったのをどう捉えたのか、渡されたプレゼントが実は魔道具だった。
この赤い靴には風の色を表す緑色の魔石が、リボンの真ん中で装飾のように嵌っている。靴の中には、加速の術式を魔法陣にしたものが彫られていた。だから、私もコレ履いてる時は走れるのだ!
「それは……確かに普通では貰えない贈り物ですね」
驚きで気が抜けたのか、アルから少し焦りと余分な力が抜けた気がする。
「えへへー! 今日履いて来て良かった! さぁ急ごう‼︎」
わざと落ち着かせるつもりで、少しオーバーに笑ってアルを促す。私あそこまでの行き方、分かんないので!
少しだけ口元で笑ったアルは、肯くとそのまま勢いを上げて走り出した……早いよ! ちょ、頑張んないと置いてかれる‼︎
ヘロヘロになりかけながらも、なんとか食らいつき部屋の前まで辿り着いた。とくに荒れた様子はないけれど……。
「な⁉︎ 開かない⁉︎ リリー! そこにいるんですか⁉︎ リリー‼︎」
アルがドアノブをガチャガチャしながら、声をかけて中に呼びかけるが返事はない。
「アル、私もやってもいい?」
「ティア……いいですけど、開かないですよ?」
まぁほら、よく手前に引くと思ったら押すのだったとかあるじゃん……そんな可能性もね、なくはないじゃん?
という訳で押してみたけど、開きませんでした……と言う前に!
「何これ冷たっ⁉︎」
まず触れなかった。ドアノブは金属なのだが、それが氷のように冷たい……これって。
「冷たい、ですか?」
不思議そうに、アルは尋ねる。
アルの気は今動転している。感情が揺れて、魔力が漏れてもおかしくないほどに。その時『氷華』の単語が頭をよぎる。まさか。
「ちょっと待って! 見るから‼︎」
私は水晶のペンダントを握りしめて、目を閉じる。目的はひとつーーリリちゃんの過去視と未来視、つまり予知だ。そして確信する。
「アル! 悪いけど、この部屋に誰か来ないように少し時間稼いで!」
「でも、リリーが!」
「リリちゃんは大丈夫! 無事だよ! この後の都合の悪い所を書き換えるから、お願い!」
私の必死の言葉に、ハッとしてアルが肯く。そして一度扉をチラリとみてから、物音で駆けつけたのであろう、足音のする方に駆けて行った。
「……リリちゃん? 入るよ?」
一声かけて、私は扉に手を当てる。
これはドアだ。ドアは入口で、そして出口だ。だから私でも想像するのは容易い。
入れるって。
そうして私は、扉をすり抜けて中へ入った。