122話 研究狂いの館
ガタガタと馬車に揺られながら、窓の外を見る。何故だろうか。木々が生い茂りすぎて鬱蒼とした暗い雰囲気だ。そして思わず、奥に見えてきた屋敷をもう一度、確認してしまう。
「ねぇ……本当にあそこに行くの? あそこであってるの?」
「あれだけ大きな屋敷が、ただの貴族の屋敷な訳ないじゃん」
「いや、そうだけど……そうなんだけどさぁ」
セツに確認しながらも、自分の目を疑っている。いやぁだってね?
「あんなお化け屋敷みたいな所、住む⁉︎」
「蔦は研究に役立つらしいよ」
「レイ君ち筋金入りーー‼︎」
「オレもう慣れた」
「……やだ、私の弟、適応能力高すぎ……?」
……はい。そういう事で、レイ君にお呼ばれしました。セツが呼ばれてたんだけど、そこに「お姉さんも是非」って書いてあったそうで。
……まぁ、誘われたら行くよ。敵地だけど……レイ君と普通の友達にはなりたいからね。
しかし降りても、その屋敷の怪しさは変わらなかった……ていうか、下から見上げるほうが、迫力がヤバいね? 蔦とか無駄にいるカラスとか……ここだけ異世界?
「いらっしゃいませ〜! 2人ともお待ちしていましたっ!」
出迎えてくれたレイ君は、にこにことお花が飛びそうなほどご機嫌である。
「これが餌効果か……」
「ねぇちょっと⁉︎ 餌って私のこと⁉︎」
「さぁさぁ、早く中に入って下さい! あ、そこに転がっている白いのは、気にしないで下さいね」
そう言われて、視線を移すと……玄関先の絨毯の上、白い服の男の人が転がっていた。
「人が倒れてる⁉︎」
「それ、レイのお父さんだぞ」
「えっ⁉︎」
「クリスティアさんに会いたいっていうので、ちょっと実験に付き合ってもらったんです」
「どんな⁉︎」
「まぁ、最終的に頭突きしましたけど」
「物理だった⁉︎」
えっそれ大丈夫なの⁉︎ 鳩尾に入ってK.O.ってことなの⁉︎
心配になって近寄ろうとすると、レイ君に腕を掴まれた。
「いいんです? アレが起きたら、絶対に実験の餌食ですけど」
「……見なかったことにしましょう!」
悪役令嬢なので、犯行現場を黙殺しました。
自分の身の方が、大事です。すみません。
という訳でそのまま放置して、廊下を歩いて行きます。……本当になんか出そうなくらい、雰囲気あるというか……。
「それにしてもお前んちん暗いなー」
「いつものことじゃん」
「そうだけど。森も冬とは思えないくらい、茂ってたしな」
「それは薬の効果だからね」
「薬……?」
不穏なワードに、思わず口を挟む。く、薬ってなんですかね……?
「従来植物の育成促進には、土の魔法『操花』を、応用するしかなかったんですけど」
「え、待ってごめんね。私全然魔法分かんない」
「オレも〜」
「えぇ……2人とも損してますよ?」
残念なものを見る目で、歳下にそう言われました。その歳でそんなに詳しい事の方が、普通じゃない事を自覚してほしい。
「『操花』は、植物を操る基本の術です。土の魔力によって植物細胞を活性化させる事で、望んだように伸ばしたり、動かしたり出来る術ですね。複数同時はあまりできないですけど」
へぇ〜! なんかすごいね! たしかブランは魔力属性土だったと思うんだけど、使えるのかなぁ? 今度聞いてみようかな!
「まぁこれを応用して使うと、季節外れの作物の栽培や、植物の育成を促進させることが出来るんですね」
「あーブラン兄ちゃんやってたわ」
「えっ! ちょっとなんで弟の方が先に見てるの⁉︎ 私の方が元々知り合い歴長いのに⁉︎」
「オレがなんか魔法見たいって言ったから」
「おねだりだと……⁉︎」
これだから弟は! っていうか下は良いよね⁉︎ 何も考えずにおねだり出来るんだからさ⁉︎ くっ……! これが可愛げの差か……!
「へぇ! ブランさん魔力量多いんですね! あの歳で使えるの、すごいと思います!」
何やらレイ君の瞳がキラリと輝いて、テンションが上がった。……すごいのかも、私にはよく分からない……。
「それどの程度すごいの……?」
「風の『加速』使えるくらいですね」
「え? それ別にすごくなくない?」
みんな使っているイメージしかない。しかも割と、無詠唱で。お父様もだし、ヴィンスは……略式だったな。アルとリリちゃんも使ってたけど、あの2人は呪文使った後を見てるだけだから、どうなのか分からない。
「『加速』は中級魔法ですよ? 使い手が多いのは単純に便利だから、優先的に覚える為ですね。まぁ風は比較的、魔力量としても多くなりがちなので、覚えやすいかもしれませんけど」
「ぐっ!」
「あ、風持ってない人が苦しみだした」
う、うう……! 悲しくなんか、悲しくなんかないもん……!
不思議なものを見るような、そんな目をレイ君向けられた後に「あぁ! 風を持ってないから、知らないんですね!」と、心底納得したように言われました。グサッときたよ!
「でも『加速』にも上手い下手があるんです。あれは意外と繊細な魔力操作が必要なんです。望む方向に風を動かさないといけないので。その代わり、使い方が上手くなれば速度も上がるし、理論上体を浮かせる事も可能です」
そっかぁ……みんな上手かったのかぁ……アルも飛んでたなぁ……。
みんな私とは、次元の違うところにいる事を知って、切なくなった。
「まぁそのように、『操花』にも結構慎重さが求められるんです。魔力操作を誤ると巨木になった上に、自分は魔力が空、みたいなことも起こりかねます」
淡々とレイ君はそう語るけど、私は思う。
魔力が空はヤバい! 自分が経験してるから分かる! それは危険な魔術ではないか!
「めっちゃ危ないじゃん!」
「そう言われればそうですが……そもそも魔力量が一定以上なければ、使う事さえできないですからね。そうやって使える人の幅が限られてしまうので、薬で再現できないかなっていう……その結果がコレですけど」
そう言って、窓から外の鬱蒼とした木々……うん、もう森だよ。森を指差す。季節感ないと思ったら、無理やり育ったからだったのか。
「ついでに耐火性を上げようとか、腐食に強くしようとか、年がら年中採れるようにしようとか、父としてたらこうなっちゃって……」
「詰め込みすぎかなぁ」
「お陰様で、切り倒そうとしても刃こぼれするだけで、切り倒せないし、切っても重いだけの木材になってしまいました……」
「それはもう木なのか?」
「そうなんだよ。耐火も腐食も、密度を高める事で鍛えられるから、そこを目指したらまるで石のように固く……」
「本末転倒だなぁ……」
「考えたら分かるだろ……」
何事も、程々が一番だ。でも研究狂いだと、出来る限界まで確かめちゃうのかもね。
……ところで結構歩いているんですけど、これどこに向かってますか?
「早くスライム触りてー」
「好きだよねほんと」
「えっ待ってなんの話?」
何のことでもなさそうに、会話してますけどなんでスライム?
「あれ? セス話してなかったんです?」
「いやだって、ここに来たら予想つくじゃん」
「何がよ……」
頭を抱えながら、弟にそう尋ねると。返ってきたのは……普通なら予想外の答えだった。
「研究室だよ。この家なら当然だろ?」




