表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/533

118話 最高のサプライズを君に (挿絵)

「くー姉! 起きて! 起きてってば‼︎」

「む、ん……? せつー?」

「寝ぼけてないで早く起きて。 夕飯出来てるから」


 ゆさゆさと揺らされて、眠りから目覚める。気づけばもう、外は真っ暗だ。室内の明かりをつけたらしく、光が目を刺すように眩しい。あとセツがうるさい。


「料理冷めるから! 早く‼︎」

「セツいつの間に帰ってきたの?」

「結構前だよ! まぁいいから早く!」


 むぅ……いなかったのそっちなくせに、いやに急かすなぁ。


 むくりと起き上がると、「早く来てよね!」と言って、当の本人は走って出て行った。なんなんだ? ……まぁ、昔なら誕生日に塾とか普通にあって、そもそも家帰って1人でケーキ食べて寝る、とかだったからそれより良いけど。


 仕方がないので顔を洗って髪を整え、部屋を出て急いで階段を降りて行く。なんか屋敷が静かな気がする。気のせい?


 不審に思いながらもドアを開けると……。


 パンパンパンパンッッッ‼︎


「⁉︎」

『クリスティアお嬢様、お誕生日おめでとうございます‼︎』


 大きな破裂音と共に、降ってくる紙吹雪とリボン、そして沢山の祝いの言葉……それに続く拍手。


「……えっ?」


 広いはずの部屋にはテーブルに座っている家族、豪華な料理、そして人が沢山……というか、使用人ほとんどいるのでは? みんながクラッカーを持っていたので、破裂音の原因はそれなのだろう。


「今日はクーちゃんがここに来て、初めての誕生日だろう? ここに来た時は色々あった。だから今この屋敷全体で、ちゃんと歓迎したいなっていう話になったんだ」


 今日も爽やかなお父様が、優しい笑みでそう話す。


「うふふ、びっくりした? どうせやるのなら秘密にしましょうって、みんなで話してたのよ!」


 イタズラが成功して喜ぶ子供のように、けれどお淑やかに笑うお母様。


「まぁ、ほっといても気付かなそうだけどね、くー姉だし」


 そしていつもながら不遜な態度の、私の弟。


「……ありがとう……! びっくりして心臓が止まりそうだわ!」


 クラッカーの音にもビックリしたけど。でもそれよりも、心が温かくなる驚きを貰った。


「でもまだ終わりじゃないのよ?」

「え?」

「まずは、クーちゃんが欲しがっていたものだね。こちらでどうかな?」


 「はい、どうぞ」と渡された箱には、綺麗にリボンが掛かっている。


「開けていいですか?」

「どうぞ」


 「ありがとうございます」といって、リボンを解いて開ければ、そこには赤いツヤツヤとした、綺麗な靴が入っていた。足首に可愛らしいリボンのついたデザインだ。


「わぁ……! 可愛い‼︎」

「クーちゃんが『履きやすくて走れる靴が欲しい』なんて言った時は、ちょっと困ったけれどね」

「採寸が間に合って良かったわねぇー!」


 そうこの靴はオートクチュールだ。私は結構走るーーまぁ令嬢的にはアウトな人間だが、そうなると靴は死活問題。何故って、ここ貴族はほぼ革靴なのだ。足が痛くなる。という訳で、靴をお願いした。


 「履いてみて!」と言われて履く。うん!ピッタリ! 調子に乗ってくるくる回ってみたりする。その度に「可愛いねー!」「良かったわねー!」と、おだてられる。


「さぁ次に行きましょう!」

「え、まだあるんですか?」

「まだまだあるよー次はコレだね」


 差し出されたプレゼントは、丁寧だが簡素な包み紙につつまれている。開けてみると……?


「これは……パッチワーク?」

「可愛いでしょう? これは私と針仕事が得意な子達で作ったのよ!」


 ピンクとクリーム色を基調とした花柄が、幾つも組み合わされた繊細なパッチワークの膝掛けだった。お母様は自慢げである。


「……もう、なんて言ったらいいか……とっても可愛いです! 大切に使いますね‼︎」


 お母様の後ろでニコニコしているメイド達にも、「ありがとう!」と言った。寒い時期には必需品になりそうだ。


「じゃあ次はセスかな」

「えっセツが?」


 さっきから何も喋らない弟が、何か持っていた。これって。


「はい、これ『みんな』からだよ」


 それは紫から白へグラデーションを描く、大きな花束だった。入っている花は、百合、ピンク紫の縁取りのシンビジウム、薄いピンクの小ぶりの薔薇、ライラックに紫がかったリンドウ……。あぁ、これは。


「……家名の花……」


 何てことだろうか。そうか、セツは今日、みんなと会っていたのか。百合は王家のカサブランカ、薔薇といえばローザ、ライラックは公爵家ので、リンドウは別名ゲンティアナだから侯爵の……シンビジウムは言うまでもない。


 あ、やばい。涙が。


 うるうるとしてくる目を、ぱちぱちと閉じて堪える。


「……あ゛りがとう」

「涙声じゃん」


 クスクスと笑う弟よりも、私は堪える方が大変である。


「では、次はこちらだよ」

「……私が縫いましたので、こちらにお父様の水晶はいれさせていただきました」


 そう言って、シーナが歩み寄る。渡されたのは艶のある薄紫のシルクの布。左右にリボンが付いており、そこを縛ることで口が閉められるようになっている。ズシリと重い。


「……急に貸してくれと言われたから、どうしたのかと思ったわ」

「すみません、お借りしないと大きさがわからなかったもので。それにそのままでは、怪我をされてしまいますから」


 困ったように笑うその顔を見ながら、胸から熱いものが込み上げる。みんな私をどうしたいのか。


「……ありがとう、シーナ。一生ここに入れるわ」

「破けたら替えて下さい」

「もう決めたからいいわ」


 「それはどうなんでしょうか……」と言いながらも、シーナも照れている。


「ここにいないみんなからも、お手紙を預かってるのよ」

「えっ」


 「うふふ」と笑うお母様から、沢山の手紙が渡される。使用人や家族がほとんどだけど。


「あれ、この字……」

「リリチカ姫が頑張って書かれたそうだから、多めに見て頂戴? 初めて字を書いたみたいだから。今日王妃様から頂いてきた、出来立てホヤホヤなのよ?」


 慣れてない、歪んだ丸い字は、読みにくいが『おめでとう、だいすき』と書かれている。


「……あとでお礼言わなきゃ」


 きっと頑張ったのだろう。リリちゃんのそんな様子が思い浮かぶ。


「では最後に」

「えっまだあるんですか⁉︎」

「ふふっこれが1番なんじゃないかなぁ? ……殿下からだよ」


 渡されたのは、シルバーがかった箱に、ピンクと黄緑の透けるようなリボンのかかった、小さな箱。両手で抱えられるサイズ。


 開けてみるとそこには……。


「……ネックレス?」


挿絵(By みてみん)


 それは綺麗な、水晶のネックレス。深い青の色が上に行くほど淡くなる。そして中に……なんだろう? キラキラと輝く結晶が、舞っている。まるで雪のようだ。


「……カケラはそのままでは危ないからね。そこに入っているのは、君のお父さんの水晶のカケラさ」

「えっ」

「そうすれば、持ち運びもできるだろうと殿下が仰ってね。割れた水晶は、あくまで家において置くしかないから……すまない、何も言わなくて。怒ったかな?」

「そんな……そんな事ないです! ……私、またこの水晶を使えるんですね……!」


 なんて事考えるのか。そんな事、一言も聞いていない。そんな素振りも見てないのに、お父様と競合していたとは。


 あぁ……アルに会いたいな。


 じんわり温かくなる心と、目頭を意識しながら、そう思う。


 会って、とっても言いたい。沢山言いたい。まずは、「ありがとう」から。


 幸せな誕生日はまだ終わらない。


 温かく豪華な食事を取りながら、豪華なケーキを食べながら、沢山の笑顔に囲まれながらーー私は人生で1番の日を過ごした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*企画ありがとうございました!*
i583200

*短編悪役令嬢*
流星の如く輝く没落を!〜悪役令嬢はざまぁフラグ貯金でクソゲーを改変したい〜

*こっちは学園物です*
BLACKCAT SYNDROMEー黒猫症候群ー

参加しています。よろしくお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=289234961&s
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] わーい!サプライズだーヾ(´∀`*)ノ こういうのやっぱり嬉しいですよね! 花の贈り物にはグッときました! みんなの家の名前の花束ってすごくアイディア! さては最初からこのネタ暖めていた…
[一言] 水晶の中にお父さんの水晶の欠片を入れるとか素敵すぎるアイデアですね! 作者様の優しいお心が見えるようです(*´v`) お優しいお言葉ありがとうございます! 作者様の手助けが出来て嬉しいで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ