表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/533

116話 カッコ付けたいお年頃

「あ、あんまり笑ってると、私が連れて帰っちゃうんだから!」


 怒った私は怖いのだぞ!

 人質……いや、犬質だって、とっちゃうのだぞ!


 そう思い、膨れながら文句を言う。まったく。

 いやでもこれ、セツには意味ないな。


 何かいい鼻を明かす方法はないものか、と下を向いて考えていると。


「本当に可愛らしいほどに、愚かで愚鈍だ」

「えっ」


 バッと顔を上げると……目の前にいる、ノアール君の細められた瞳がーー赤い?


「ワンワンワンッ‼︎」


 子犬ちゃんの鳴き声で、ハッと瞬きすると、そこには変わらぬ、ノアール君がいるだけだった。


 瞳の色は……深緑だ。

 気の、せい……?

 光の加減かもしれない。


 背中に冷たい汗が伝う。はぁ、と息を吐き出す、どうやら息を止めていたらしい。なんだったのだろうか。疲れてる?


「ノアール君……?」

「……ノアって呼んで」

「え?」

「その呼び方は、なんか嫌だから。僕も、兄様と同じようにして」


 いつもの平坦な声で、無表情な顔で言う。いつも通りだ。変なところなんて、変わったところなんて、ひとつもなかった……うん、勘違いだな!


 にしても、あだ名がいいって事かな?

 確かに1人だけ浮いちゃうしね。


「うん分かった、じゃあ私は……」

「クリスって呼べばいいぞ」


 ドンッと人の肩に腕を乗せながら、ヴィンスが言う。なんだこいつは。私はまだ何も言ってないぞ。


「先に許可を出しただけだ。どうせあだ名でいいとか言うんだろ?」

「まだ何も言ってないんですけど!」

「……ダメ?」


 少し不安そうに、ノアール君……ううん、ノア君が訊ねる。小首を傾げて。


 くっ! 私が可愛いものに甘いと知っての狼藉か‼︎


「いいってさー」

「何故弟が答える⁉︎」

「ダメなの?」

「ダメじゃないですけど!」

「だってさ」

「……ありがとう」


 そう言って……ノア君は少し微笑んだ……‼︎


 その瞬間私はヴィンスをガシッと捕まえた。


「ヴィンス! シャッターチャンスだわ‼︎ 写真! スチル‼︎」

「いやなんだよそれ⁉︎」

「くっ! じゃあ頭のフィルムに焼き付けときなさい‼︎ 可愛い弟の笑顔、それも今だけよ、プライスレスなのよ‼︎」

「……?」


 必死に重要性を説明したが、もう既にノア君は、いつもの表情に戻っていた。


「あぁー! もう笑ってないわ! 遅かった‼︎」

「えっ僕なんか貴重なものを見逃したのか?」


 この兄、ことの重大性が全く分かっていない!


「ていうか、熱すぎてヤバい。これが姉とかツラいんですけど」

「こうなるのよ! こうなっちゃう前に残しておかなきゃなのよ‼︎」

「ぐっ! 首! 首絞まってるから‼︎」


 失礼なセツを片腕でホールドする。あっちはバシバシ腕を叩く。


 こうなる前は貴重なの!

 素直な時期って一瞬なんだから!


「……離してあげて?」

「あ、ごめん」


 ノア君に言われ、パッとセツを解放する。途端に崩れる弟。そこにしゃがみ込むノア君。


「……大丈夫? 治す?」

「いや……大丈夫。助かったよ。オレもセスで良いよ。ノアって呼べば良い?」

「……! うん」


 こくこくと、首を振って肯くノア君。

 大きく振りすぎて、体が動いている。

 そのまま2人はお喋りをし出した。


 ヴィンスに「こういうのを脳裏に焼き付けるのよ!」と、小声で伝えると、「お、おう」と返事された。これは分かってないわね。


「あ、ヴィンス。ノア君の心が読める話、話すなら人を選んでね。あれ結構、本人も悩むものみたいだから」


 こそこそついでに言っておく。フィーちゃんも悩んでたのだ。ノア君だって悩むかもしれない。


「……人の事もいいけど、自分も気を付けろよな」


 ちらりとこちらを見た後、ヴィンスは目を逸らしながら、ポンポンと私の頭を撫でた。


「! 上手くなった……じゃない! アルになんて言うのよ!」

「いや今更だろ……あと僕が今撫でてるのは犬だから、大丈夫だ」

「何も大丈夫じゃないんですけど! 犬じゃないんですけど⁉︎」

「あー。 喋る犬だから、大丈夫大丈夫」


 なんだその、適当すぎる返しは⁉︎

 ちゃんとこっちの目を見て言ってみなさいよ!


「ワン!」

「ほら、ワンって言った」

「今のは子犬ちゃんなんですけど‼︎」


 私の頭の上から手を引っ張って、子犬ちゃんの方へ持っていく。子犬ちゃんは慣れたのか、上を向いて手をペロペロ舐めた。


「うわぁ! ちょ、びっくりするだろ!」

「人を犬扱いするのがいけない」

「アルバだってしてるだろ……」

「アルは私のご主人様だからいいの!」

「……ノアだってしてたろ」

「ノア君は可愛い癒し系だからいいの!」

「理不尽‼︎」

「いや犬扱いされる方が理不尽だからね⁉︎」


 私は犬ではないのだ! 忠犬にはなる予定だけど‼︎

 そこを間違えないで欲しい‼︎


「……僕は」

「うん?」

「……僕は、可愛くないのか?」


 ……うん⁉︎ ヴィンス今なんて言った⁉︎


 ババッとヴィンスを振り向くと、フイッと顔を背けられた!


 えー! 可愛がって欲しいの⁉︎

 そうなの⁉︎ いやもう可愛いけど‼︎


「……ヴィンスは可愛くなりたかったの?」

「ち、違う! そうじゃなくて……!」


 グリンッとこっちを向いた、その顔は赤い。照れてるー! 可愛いー‼︎


「なんか、仲間外れなのが気に食わなかっただけだ!」


 眉を寄せて、視線を逸らしながら、そう言う。


 そっかー! やきもちなのかー! 可愛いねぇ‼︎


「……笑うなよ!」

「えへへー! いやー可愛いなぁって」

「……可愛いのはそっちだろ」

「へ?」

「なんでもない! ……とにかく、僕は別に、可愛くなりたい訳じゃない。そこは本当だからな!」

「うんそうだねぇ、どっちかというと、ヴィンスはカッコいいタイプだよねぇ」


 まぁ今のは本当に可愛かったけどね。


 こういうのも、成長しちゃうと無くなっちゃうのよ。今だけなの。プライスレスよ。


「可愛い子は守りたくなるけど、カッコいい子だと頼りやすいっていうか、そういう意味では、ヴィンスはお兄ちゃん向き……」

「そうか! 僕はカッコいいんだな!」


 今日のヴィンスは忙しい。今度はいきなり喜び始めた。見るからに嬉しそうな笑顔だ。


「う? うん、カッコいいよ?」

「カッコいいならいい!」

「そ、そう……まぁ、カッコいいお兄ちゃんになるためには、もうちょっと言葉遣いとか、優しく大人っぽくしたらいいかなって思う……」

「分かった、参考にする」

「うん……まぁ、無理しないでね?」


 なんかよく分からないが、機嫌良くなったなら良いかな?


「ワンワン‼︎」

「そうだよなー! お前もそう思うよな、クリストファー!」

「え?」


 クリストファー……って犬の名前?


「我が国の英雄様の名前にあやかるの、最近流行なんだぞ……クリス?」


 気が抜けた私の腕から、子犬ちゃんを抜き取って、抱きしめながらそうヴィンスが笑う。さすがですね、華のある悪い笑みだった。


「だからうちでも許可出たんだ。記念にって。まぁ、ノアにいい影響があれば良いなってのもあったけど。珍しく母上が賛同して下さったからな」

「……最初から犬扱いをされていた……」

「まぁまぁ、オレは色々感謝してるんだぜ? クリストファーのおかげで、姉たちとも話すようになったし、ノアは扱いが上手いから、一目置かれてるし」


 そうですか。仲良くできて、良い事尽くめなら良かったですね……しかし犬扱いは怒るからね⁉︎


「全部クリスのお陰だな! ありがと!」

「む、むう……まぁ、ヴィンスが頑張ったからだよ」

「おう! でもありがとな!」

「……。」


 ヴィンスがあまりにも幸せそうに、そう笑って言うから、毒気が抜かれて結局そのまま、4人と1匹で遊んで終わりました……怒り損ねた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*企画ありがとうございました!*
i583200

*短編悪役令嬢*
流星の如く輝く没落を!〜悪役令嬢はざまぁフラグ貯金でクソゲーを改変したい〜

*こっちは学園物です*
BLACKCAT SYNDROMEー黒猫症候群ー

参加しています。よろしくお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=289234961&s
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] ヴィンスがクリスの扱い方を完全に覚えた感 もう本とにワンコ扱いですな笑 セツを気遣うノアール君可愛い。 治す?が最高に尊かったです! 最後、いやそこは怒っとけと思った(^-^; このまま…
[良い点] クーちゃんのわんこ化が止まらない… わんこver.のクーちゃんが見たいです!! [一言] わんこの名前:クリストファー ノアの呼び方:ク「リスト」ファー ってことですかね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ