10話 謁見 (挿絵)
流れるようにあっという間、気づいたら謁見の間。
赤く重厚なカーペット。
白亜の白さが眩しい大理石。
美しく磨かれた、宝石のようなシャンデリア。
光を反射し、キラキラと煌くそのすべては——目の前の長く高く見える階上へ鎮座する、我が国の最高権力者をさらに。ここに来たなら、だれもが迷わず目を奪われる存在感。
フィンセント王国国王陛下。
アレキサンダー・カサブランカ王が厳かに、圧倒的迫力で鎮座していた。
ちなみにお隣には勿論フローラ王妃がにこやかにいらっしゃり、アルバート王子もいらっしゃる。あぁーすごい神々しいですね! 人間って何か考えさせられる勢いで、場違い感がハンパないです。
ところでなんで5歳児ここにいるんだろう!
誰かおかしいと言ってくださいお願いします。見た目は子ども、頭脳はおとな! なおかげで冷や汗が止まらないよ。今だけ幼児退行とかできないかな、できないな! もう私は、ぎこちなく周りに合わせるだけのロボットに成り下がっていた。ムリです頑張れない。
「面をあげよ」
その言葉で、私を含めシンビジウム家一同が顔を上げる。気づかぬ間にお辞儀をしてたらしい……大丈夫か私。ま、まぁ今は子どもだから、うん……。
「クリスティアよ」
「は、はい!」
え、なぜ私名前呼ばれた⁉︎
こういう時最初に呼ばれるのは普通家長では⁉︎
もはやパニック! 望むバニッシュ! 頭クラッシュ!
壊れてないとやってらんないYO!
「調子はどうだ」
「ご、ご心配いただききありがたくぞんじます! 治療を受けましたので、もう問題ございません!」
私言葉大丈夫⁉︎
敬語あってる⁉︎
失礼ないのこれ‼︎
色々ぐるぐる考えながらも絞り出すように答えると。
「そうか、なら良い」
ふっと笑って、無事で何よりである、とアレキサンダー王は仰った。あ。いい人だ。ちょっと緊張が解けた……ただ普通に心配してくれただけみたいで、小心者の心は救われました。もう一仕事終えた気分だけど、まだ本命終わってない。とてもつらい! がんばろう私! 私1人なら逃げたいけどね‼
その後「アルバートよ、2人に城を案内してあげなさい」と、暗に席を外しても良いと促す意味の許可をくださった。ありがとうございます王様‼︎ ナイスタイミング!
「はい、父上」
そう言って降りてきたアルバート王子は——あらためて見るとほんとに美少年。
というか今だと、美少女といっても通りそうな感じに美しかった。
ゲームなら背景にキラキラ粒子や薔薇エフェクトが確実にある。
あるっていうか……見えた。(幻覚)
あぁでもこのゲームは、王家の花が薔薇じゃなくて百合なんだよね。薔薇も似合いそうだけど、薔薇は別にいるからね。でも百合もとても似合う。気品あふれる清楚ないで立ちというか。百合の花——王家の家紋であり家名でもあるカサブランカは、白く美しく清廉だけど迫力もあって、正に王家って感じだ。名は体を表す的なね。
「クリスティア嬢、お手をどうぞ」
考え事してたらアルバート王子が目の前にいて、手を差し出している。
うわぁ目の前にいると本当に、なんていうか……。
上品な黄金の髪は柔らかに艶めいていて。
睫毛は思わず見惚れてため息が出るほど長い。
瞳を閉じるその様は、小鳥の羽ばたきのようで。
子どもらしい丸みのある頰とうすく開かれた唇は、ほのかなピンクに染まっている。白く滑らかな肌と合わさって、果実のような甘ささえ感じさせる。
例えるならばその様は、まるで天使……ってあぁセツに睨まれてる。
何してんだ早くしろと幻聴が聞こえる。
たぶん心の中でほんとに言われてる。お姉ちゃんはわかる。
私もあんまりみっともない所見せてばかりではいられないので。いろんな動揺をなんとか堪え隠して、にっこりしてみせて手を取った。「セス殿もこちらへ」とアルバート王子が声をかけ、私達は謁見の間を後にした。




