112話 ミルクティーに溶ける
つい先日『預言師』に任命された私。お父様のいう通り、お城で少しずつ勉強することになりました。という訳で、今日はお父様とお城に来た。
仕事があるのにお父様は心配して、「やっぱり少し見学していこうかな……」とかいうので、納得させるのが大変だった。それでも部屋までついて来たけど。
でも一応納得してくれたのは、私の説得の結果ではなくて……。
「今日からよろしくお願いしますね」
ここにいらっしゃる王子様のお陰です。
「ところで、なんでアルはいるの?」
「なんでとは、婚約者に向かって酷くはありませんか?」
「いや……だってアルは、もっと勉強進んでるでしょう?」
そうなのだ。今からやるの、基礎の基礎なのだ。もう覚えてるはずのアルが何故いるのか、私には分からない。
「復習は大切ですよ。特に、基礎の基礎は抜けてしまうと、応用など夢のまた夢です。私は応用を目指しますから、基礎が抜けていたら困ります」
うーん、まぁ分かるよ? 分かるんだけどさぁ……アル、そんな忘れるほど頭悪くないよね? ……私の為、だよね多分。
「……ありがとう」
きっといくら聞いても、答えてはくれないのだろうから。私は勝手にお礼を言った。
「……まぁ、君のためでもありますけど、私のためでもあるんですよ、ティア」
「え? どういうこと?」
「君が早く私に追いついてくれれば、一緒に同じ授業ができるじゃないですか」
そう言って、ニヤリと笑う。小悪魔な笑顔だね。
あーそういう、と納得ではあるけど。でもそれまでは、アルの授業がただ増えるだけだろう。そんなの大変なのに。
「それに君は、実技は何とかなりそうですけど、筆記が」
「あーあー! 聞こえないわー!」
何で筆記がダメそうなの分かるの⁉︎ つまりアルはそれのフォローに来たのね⁉︎ もう! やっぱり私の為じゃないの!
お城は贅沢な事に、授業内容によって先生が変わるらしい。教科担任制的な。名前が覚えられない私には優しくない。
今日は本当に基礎の基礎で、どの神が何を司るとか、魔力属性の種類についてだった。まぁここは知ってたので、今日だけは優秀な生徒だった。
次回は実技、ということで今回は終了。私とアルは、いつもの部屋でお茶とお昼を食べた。お昼からディナーかな? って感じだったよ。
「でも意外だね。闇がメインだと思ってたのに、こっちの魔術は、教えてもらえないのかぁ」
私の適性は闇、水、雷という事なのは、レイ君の時に知っていたが、今日もう一度調べていた。闇には触れずに、水と雷の授業をするようである。
後で『預言師』の歴史は少しするみたいだけど。それと魔力量の測定はするみたいね。
「闇は感覚的なものですからね……それに、ティアよりすごい闇使いはいないですから、誰も教えられないでしょう」
そう言いながら、アルはミルクティーを飲む。うーんロイヤル。ロイヤルミルクティーだし。でも私たちの飲んでるこれって、実はほぼミルクだよね。カフェインダメだから。
それが分かってしまうと、一気にお子様のままごとティータイムのようである。いつもなんだけどさ。
「でも『預言師』らしい事、何もなくなっちゃうじゃないですか。ネックレスも返しちゃったし」
そうなのだ。あの授与式の時につけてた、『神の涙』のネックレスは回収されている。まぁもともと、危ないから持ってもらってる約束だったのと、あれは「見せる用」の物なんだと。なんか大変だね。
「安心して下さい。ティアが『預言師』である事を知らぬ、フィンセントの民はいないですから」
「むむむ……そうですよ! それで思い出した! アル、あれどういうつもりなの?」
「何がですか?」
「あれだよあれ! 国民全員が祝福してくれている、とか言ってたの! 忘れちゃったの⁉︎ 私アルの為に、婚約破棄する予定なのに!」
そうだ。そうなのだ。最初に言ったはずだ。「辞退するから、忠臣になるから、捨てないでくれ」と。まさか忘れたわけではあるまい。
「ではあの場で、婚約破棄するとでも言うつもりだったのですか?」
「そうじゃないもん! アルが運命の子に会えるまでは、私が婚約者の方がいいでしょ⁉︎」
「運命の相手、ですか……いるんですかね?」
「いるよ! だって私は知ってるもん!」
そうして、2人でハッピーエンドなのを知っている。没落もしたくないし、死にたくもないけど、全てを分かってもらった上で悪役をやるなら、ただの忠臣の仕事だからいけるはず!
「……そんな運命はいらないのですけど」
「え?」
「なんでもありません。予言の強制力、君なら消せるのでは?」
それはフィーちゃんの、アルバートルートを失くせ、という事なのか?
でもそれだと私の生存が危ういというか、絶対的後ろ盾が無いと怖いというか、まぁアルが一番安心なんだよね。これは、アルには言えないけど。
それに私は、今予知予言をしようとしても、多分アルとフィーちゃんのくっつく世界しか、思い浮かばない。だからそれ以外予言出来ない。
そして単純に、アルに幸せになって欲しい。フィーちゃん的にもね。
「……私はアルに幸せになって欲しいから、嫌だよ」
「……そうですか」
しーーーーん。
うっっわ空気重っ‼︎ 何でよ⁉︎ 私最初から言ってたのにー‼︎
気まずくて、ミルクティーをちびちび飲む。心なしかしょっぱい気がする。
「……でも、君は忠臣になる事を望んでいたでしょう?」
「うん? うん」
「『預言師』は絶対に王族に仕えますから、望みは叶ったのでは?」
「あ、うん! それはありがとう‼︎ 私、アルのために頑張るからよろしくね‼︎」
重い空気が溶けて、ほわほわ〜っとなる。だから私も、ほわほわ〜っと笑う。
「……全く、ティアの笑顔は溶けてしまいそうなほど、温かいですね」
「うん? どういう事?」
「顔が溶けているという話です」
「酷くない⁉︎ 突然背後から刺された気分だよ⁉︎」
私は怒っているのに、アルはクスクス笑うから、毒気が抜かれてしまった。
怒りのままに飲んだミルクティーは、もうしょっぱくない、甘くて美味しいミルクティーだった。




