110話 副産物がすごすぎ
「ヴィンセントーーー! おねえちゃんをかえすのーーー‼︎」
バンッと扉を開けて、そう叫びながら入ってきたのはリリちゃんだった。
あぁ、私が後でって言ったから探してたのかなぁ。
「はぁ⁉︎ 別にとってねーよ‼︎」
「ひとりじめきんしなのー‼︎」
「いやだからひとりじゃねーし! 周り見ろ周り‼︎」
いつものごとく食ってかかったリリちゃんに、指を差しながら文句を言うヴィンス。
「……なんかしらないひとがいる!」
ヴィンスしか見えてなかったのか……何故か驚いた様子のリリちゃん。まぁ子供って、目の前のものしか見えてないとかあるよね。
「おや、どんな失礼な訪問者かと思えば。お姫様でしたか」
「⁉︎ こいつ、ヴィンセントとおなじなの!」
リリちゃん、こいつとか言っちゃダメだよー。
あまりに失礼なレイ君の態度に、不快感を露わにしている。
まぁ同じではないんだけど、リリちゃんに対してツンツンって意味では同じか……。
という訳で。クッション飛び交うあの惨劇を繰り返す前に、止めに入るか。えーと……。
「はーい、私と遊びたい人ー」
「リリーと遊ぶの!」
「オレも遊びたいですよ!」
手を挙げて呼びかければ、狙い通り釣れた。
「一名遊ぶの意味が怪しいけど……この際良いです。その代わり! 人と仲良くできない子とは遊びません‼︎」
食いついたのを良いことに、条件を出した。
この2人はなんだかんだ、私に補正が付いてる子たちだからね。まぁこう言えば、多分仲良くするでしょう。
「ぐぬぬ……さっきの無礼はゆるしてあげるの! 今度から気をつけるの!」
「無礼は……いえ、ダメですね。約束を守らないと、遊んではいけないみたいなので。我慢しましょう」
睨み合う2人が、不服そうながらもひとまず停戦になる。
良かった……けど。
今さぁ?
遊んではいけないって聞こえたんだけどさぁ?
それやっぱり私で遊ぶ気だよね? ねぇ?
「はぁー……ほんと姫様の扱いうまいなー」
「弟で慣れてるので!」
ヴィンスは、あきれてるのか誉めてるのか。
分からないけど、ドヤ顔で応えておく。
「えっオレあんなに酷くないんですけど」
「まぁ昔は素直だったもんねー」
フォローするも、弟に睨まれました。
ごめんて。ほんとカッコつけだなぁ。
ここでコンコンコン、とノックの音がする。誰だ?
「あーアルか。姫様もう来てるぞ。入れば?」
慣れているのか、我が物顔で招き入れる。
ここの主人、どっちでしたかね?
「失礼します」
そう言ってからドアを開けて、アルが颯爽と中に入ってきた。
やだー、面接みたい。
私が試験官なら、花丸あげちゃうわ。
そのくらい完璧なマナーとキラキラっぷり。
「おや、レイナー殿も来ていたんですね」
「お邪魔しています、殿下」
アルの発言に、しおらしく接するレイ君。
突っかからないだけでこんなに違うのか。
「いえ。君もティアの事を心配してくれていた1人ですから。歓迎しますよ」
「えっそうなの?」
予想外の話に、さらに驚いてしまった。
会った時にはいつもの調子だったから、私気付かなかったよ?
あ、モルモットに死なれたら困る的な意味かな?
すごい想像つくね。
悲しいほどしっくりだよ。
けれどレイ君は、バツが悪そうに、こちらをチラリと見て……。
「そりゃあ好きな人が死んじゃったら、困りますもん」
ピシィィィッ‼︎
瞬間、空気が凍りついた。
な、なんかアルが怒ってる⁉︎
なんで⁉︎
と、とりあえず誤解を解こう‼︎
「レイ君! どうしてこういう時だけ濁しちゃうかなぁ⁉︎ ちゃんと研究対象としてって入れなきゃダメでしょ⁉︎」
「いや、でも好きだから頑張ったので……」
「んん⁉︎ 主語! 主語をはっきりしようね‼︎ 研究が好きだから頑張ったのね! って何を⁉︎」
私の発言もちょっと抜けていて、自分で突っ込んでしまう。このしょぼんに誤魔化されるな!
研究が好きだから、研究の役に立ちそうな私を助けようと頑張ったって事よね⁉︎ で、今度は何をしたんだ⁉︎
ちなみにアルは、ニコニコである。
すごいニコニコっぷりなので、のんきにも「おにいちゃんにこにこなの〜」ってリリちゃんが言うくらい、ニコニコしている。
リリちゃん! この冷気に気付いてないの⁉︎
「とりあえず試作品は作ったんですよ。でもまだ使えるほどじゃなくて……」
「うん、だから何が⁉︎」
「変換器ですよ、魔力の」
……ん?
「変換器ってあの……魔力がなんの魔力にでもなるっていう?」
「そうですよ?」
「えぇ⁉︎ しれっとなにすごい事してるの⁉︎ 天才なの⁉︎ 天才だったわ! 知ってた‼︎」
ねぇそれ普通、永遠の謎とかで終わるやつじゃないかな⁉︎
それをなんでそんな、「どうしたんです?」みたいな顔で言ってるんだ!
「いえ、でも今回のは謎を解明したわけではなくて……単純に変換できるだけなんですけど」
「じゅーぶんだわ! 十分すごすぎるわ‼︎」
すごすぎて、ツッコミ追いつかないわ!
「それに機械とか作った訳ではなくて……空になった魔石に魔力を流し込むと、その魔石の属性に魔力が変わるって話でして」
「うん! でもそれでも普通、大人でも発見できてなかったんじゃないかな⁉︎ どうかなアル⁉︎」
勢いのままにアルを巻き込む。そして空気を清浄化するのよ!
「えっ……そうですね。聞いたことがありませんから、初の例なのでは?」
勢いに押されたアルは、驚いてそのまま冷気を引っ込めた。
よしよし! 良い子だこと‼︎
そのまま流されててください!
「でも不思議だな。そんな簡単なら、誰か試してたんじゃないの?」
「うん、セスの言う通り結構実験例はある。今までは、確認が足りてなかったんじゃないかと考えてる」
のんき2号こと、我が弟がさらに話を掘る。
「というと?」
「魔力の篭った魔石は、光ってるんだ。だから、従来は光ってなければそれは空、とみなされてきたんだけど、今回は込めた後に試したんだよ」
おう。なんか難しい話始まります?
私そう言うのダメだよ?
めっちゃ真剣な顔で語り始めてるけど、理解できる範囲で話して欲しいよ?
「それはどうやったのかな? きっと今までは、魔力測定器を使ってたんでしょ? それでも測れない程の魔力は、普通分からないよね?」
なんだか、ブランまで乗り気だ。
まぁブランがこの中では歳上だし、魔法の勉強も一番してそうだから興味があるのかな。
「クリスティアさんからヒントを貰いました」
「へっ? 私? なんもしてないけど⁉︎」
「いやいや。それですよ、それ」
指で示される先はーー耳の辺り。
ピアス?
「『神の涙』は、力を込めた神が光らせる事ができますよね? それはそこに宿るのがその神の魔力だからです。なら、魔石にも同じ事が言えます」
つまり測定器を使うんじゃなくて……光らせたのか!
一同おお〜! って空気の中、リリちゃんだけは眉を寄せて、首を傾げている。可愛いから許された。
「まぁ一瞬、それも弱い光で光らせたら、それで使い切っちゃう程度でしたので。使い物にはならなかったんですけど」
「ええー! でもすごいよ! 発想の転換だね‼︎ レイ君さすがだなー! 憧れちゃうなぁ‼︎」
本当にすごいと思ったので、思わず手を握ってブンブン縦に振ってしまった。
その結果、レイ君は「えへへ……」と嬉しそうに照れていたんだけど……。
部屋の中に吹雪が起こりました。