9話 死亡フラグを折るために
ついにこの日がやってきてしまった。
私の運命を決める勝負の日。
王子様への謝罪の日……!
ガタガタと馬車に揺られながら外の景色を見ると、あまりいい天気とは言えない。むしろ若干曇ってるかも……雷だけは勘弁してほしい。私のいる領土は内陸で、だから見ようとしなきゃ海は多分見る機会ないんだけど、雷だけは避けられない。折り合いはつけても、やっぱり最期のことは思い出したくはなかった。
うちの領土は王都から少し離れた場所にあるので、それなりに馬車に揺られることになる。
まぁ1時間ちょっとくらいだけど。
今は山道を抜け、やっと王都に入ったところだった。
謁見が決まってから、色々あって忘れていたあの日のこと——私が王子の婚約者になった、運命の分かれ目の日のことを思い返していた。
私は父親の葬儀の際に、セツ側の本家シンビジウムへ引き取られた。そのあと王宮への招集がかかったので、セツと一緒に王宮へ向かったのだ。
当たり前だけど、記憶を思い出すまではフツーの5歳児だった。
だから話はよくわからないし、退屈で。
それは大人たちもわかっていたのか、私とセツとアルバート王子は中庭の散策をすることになった。
そこで何故かセツが鬼ごっこがしたいと言いだし、池に落ちたわけだ。
というかこの世界鬼ごっこあるんだ?
そしてそれを許してくれるって、アリなんだね?
あとでセツに聞いたら、ないかもしれないけど、自分は最初から記憶あったからわからない、だそう。そんなこちらではあるのか、よくわからないものを、人に頼むあたりがとっても弟だと思います。なんでそこで物怖じしないのか。姉にはわかりかねます。
そしてなにより、よく付き合ってくれたねアルバート王子……。
しかしまぁそのお陰で、池から救出イベントが発生しましたね。これはクリスティアが恋に落ちても、仕方ないなぁと正直思うよ。
だってイケメンが必死に助けてくれるんだよ?
あれは惚れる。誰でも惚れる。
まぁかく言う私は、弟がいたのでそれどころではなかったけど。
……あれ? でも、これって私たちがこっち来たからのイベントだよね? まぁ、それに近いことがあったのかな? そこまではわかんないから、考えてもムダですね。
さて、本題の私の王子対策ですが……。
『策を練ったよ』
「よかったね……そしてなんで小声?」
不審顔を向けられましたけど、そりゃだって。
『馬車の中じゃセスのご両親がいるからよ!』
向かい合わせで座っている彼らをちょろっと見る。聞こえている可能性もあるのでセス呼びにしておく。起きたら突然呼び方が変わってるのも変だし。「内緒話なの? 楽しそうね」とセスのお母様が微笑んでいる。聞かないでくれるあたり、優しくて本当に素敵な方だ。
だからそのままセツの耳に手を当てて、小声で続ける。
『まず最初は池ぽちゃの謝罪からね』
「あーうんそうだね」
『そして次にゲームの話をするの』
「え⁉︎ なに言ってるの⁉︎」
バッと勢いよくこっちを向くセツ。
横向いてくれないと続き話せないんだけど。
あとキミは小声にしてくれないのね。いいけどさぁ。
「いいから。まだ続きがあるから」
「え、いやでも」
「いいからいいから」
しっしと手でジェスチャーすると、不満そうながらも渋々横向きになる。
馬鹿なのかこいつと顔に書いてあるけど、大丈夫。私も馬鹿じゃないはず。
馬鹿をするとバッドエンドになるのでね、意地でも頑張るしかないから!
『私は予知ができるから、そういうことにしとくの』
「あーなるほど……そういうことか」
『まぁそれだけだと弱いから、実演もするけど』
「何を?」
よくぞ聞いてくれましたっ!
不安そうな君に、朗報だよ!
私はドヤ顔で告げる。
『それは勿論、予知を』
「は⁉︎」
あくまでも冷静を装って紡いだ言葉に、セツはまたもやガタンと音を立てて勢い良くこちらを向く。キミは元気だなぁ。
「大丈夫! 実験済みだから!」
「何が⁉︎」
「ちゃんとできるかどうかよ! ほら見て! 水晶持ってきたの‼︎」
バックの中から私の手には大きい、丸く磨かれた水晶を取り出す。これは父親の形見だ。すごい魔力操作が上手い人だと、予知に水晶がいらないらしいんだけど、私はまだ予知の感覚を掴んでから。1回しかした占った事がないし。ちなみに占ったのは昨日のことですからね!
ぶっつけ本番こそ私の真骨頂なので。え? 無策?
違う違う、策を思いついたからこそですようんうん。
成功したんだからいいんだよ!
部屋にある化粧台の前で、スチルをふと思いだしたのだ。その化粧台は、あまり荷物を持ってこなかったクリスティアの、数少ない持ち物。母親の物。ゲーム内では窓を閉め切って、占ってる彼女の描写があった。それはそれはおどろおどろしかったけど。
実際に窓を開けて小鳥の囀りの中で占うのは、不思議と穏やかな気持ちになった。
それになんでここで占ってたかも、なんとなくわかった気がした……2人の力を、借りられる気分になったんじゃないかなって。なんだかクリスティアに、同情的になってきている自分がいる。まぁしかたないね。私今クリスティアだからね……。
で、その感覚でやったらいけた、肝心の占いはというと。
どんな感じでわかるのかなーって思ったんだけど、水晶に映るわけじゃなかった。水晶の周りがほわ〜ってあったかくなる感じがして、目を瞑ると映像が見えると言った感じ。とっても感覚的。
ただ、5分くらい見ると何もできない。
1日何もしたくないほど疲れた……。
実用的にはせいぜい1、2分くらいしか使えない。
多分今のままだと1日1回までだ。
幸いなことに、今回は上手くいきそうな映像だった……そのあと知らないところで、王子の気が変わったらわからないけど。
「クリスティアちゃんは……予知ができるのか?」
いきなり、今まで傍観していたセスのお父様が話しかけてきた。
ん? なんかおかしかったのかな。
水晶持ってきたことかな……。
そうだよなぁ普通謁見にこんな大きなバッグ、持って伺ったらダメですよね……。
「はい、なんかこうほわ〜っとすると見えましたよ! ……これ、やはり置いて行くべきなのでしょうか?」
「いや……」
余計な物は持っていくのは、心象悪いかな?
少しセスのお父様は考え込んで、お母様と目を合わせた。お母様が頷かれる。
「……まだ大人には内緒にしておきなさい。アルバート様に披露する分には止めないよ」
「あの方は聡いから」とセスのお父様は言った。
セスのお父様、王宮勤めだから知ってるのかな?
んーよくわかんないけどお許しが出たらしい!
なら後は勝負あるのみ!
絶対負けられない戦いが、ここにはある!
なんたって、こちとら生死かかってますから!!!!!!
なんか納得いかなさそうな弟を横目に、私は王宮へと想いを馳せるのだった。