101話 ごめんなさい行脚 (挿絵)
「むにゃ……よく寝た……」
うーん、なんか長い夢でも見ていた気がする! 気のせいか体が硬いなぁ歳……あ、今5歳だったわ。
「クリスティ‼︎」
「ふぎゃあっ⁉︎」
突然誰かに抱きつかれた。だ、誰よ⁉︎ お願いだから心臓止めないでよ! 起きたてでよく頭働いてないのに‼︎
そんな不満を感じつつ、抱きついている人物を確認すると……。
「えっブラン?」
ブランが私に抱きついて泣いている。
え? え? 何事?
「バカ姉!」
ボカッ!
「いったぁ⁉︎ 何すんのよセツ‼︎」
「みんなに心配掛けるのが悪い‼︎ 今回どれだけ大事になったか、分かってないだろ!」
へ? 大事?
セツに殴られた頭を撫でつつ、そう聞き返す。お姉ちゃん、弟に初めて殴られたんですけど……あの、仲良いと思ってたの私だけ? なんでそんなに機嫌悪いの?
「え、ええ⁉︎」
なんかよくわからないけど、ベッド周りに謎の魔法陣がある……そして部屋の中では、泣いているお母様とそれを慰めているお父様……え、え⁉︎
「私何したの⁉︎」
「やっぱもう一発殴る」
「いぎゃあ! もういいもうわかったごめんごめん‼︎」
「よく考えて土下座して回れ」
「……分かった、よく考える」
そもそも何か分からない状態で、土下座しても意味がないよね。アルにも前に適当に謝るなみたいな事言われたしなぁ……。
うーん、まず私が寝てたのはー、ふつーに寝て……た、訳じゃなかった……あぁ⁉︎
「ごめんブランごめん‼︎ 違うの! 危なくなるギリギリで止めようとしてて! 言いつけ破ろうとした気は‼︎」
「結果破ったからこうなったくせに」
「あぁぁ弟が今日も辛辣! でもその通りですね! 今回私は弁明できません! だからブラン泣きやんでー‼︎」
とにかくブランの頭を撫でて、頭の横から腕を伸ばすようにして背中も撫でる。うーん! どうしよう全然泣きやんでくれない! どうしよう‼︎ 今回は全面的に私が悪いっっ‼︎
「……ひっく……やく、そく……して……」
あぁ! 泣きすぎて横隔膜が痙攣を! しゃっくりが‼︎ ごめんごめんごめん‼︎
「約束するっ! 何の約束したらいいの⁉︎」
「もう……しないって………やく……ひっく」
「するするする‼︎ もうブランに心配掛けるような事は、私の生きている間はしません‼︎」
ごめんごめんごめんね⁉︎ 私は別に泣かせたかった訳じゃないんだよー‼︎ うわーん! ごめんねー‼︎
ぎゅーーーーっとブランを抱きしめる!
「く、クリスティ……痛い」
「あ! ごめん力入れすぎた‼︎」
「ははは……はぁ……良かった元気になって」
そう言うとやっとこっちを向いて、ブランはその顔を涙で濡らしながらも笑ってくれた。
「バカ姉はどれだけすごいことになったか、分かってなさそうだからこれを見ろ」
セツに顔の前へズイッと差し出されたのは、1枚の紙。
「何コレ?」
「読め」
それ以上言ってくれないので、受け取って読む……うん?
「『我が国の崩壊を救った、シンビジウム公爵令嬢のために情報を求める。これは緊急性の極めて高いものである。有力な情報には、賞金100億……』は⁉︎ ひゃくおくぅ⁉︎」
「そこじゃねぇよ!」
「えぇ⁉︎ だってこれすごい金額だよ⁉︎」
「まずこれが国中に出てる意味を考えろよっ‼︎」
「え! 国中⁉︎ そんな規模⁉︎」
「そんな規模でやらかしたんだよ!」
「あ! しかもこれ王勅⁉︎ ヤバいヤバいヤバい⁉︎」
うわぁぁぁぁ‼︎ 私史上1番のやらかしをしてしまったぁぁぁぁあぁ⁉︎
「ここに分かる通り、くー姉は全国民に心配を掛けた訳だ!」
「ひええぇ⁉︎ 規模が大きすぎてよく分からないよぉぉぉ⁉︎」
「分かれ! そして全国民に謝罪しろ‼︎ 全局放送生中継で土下座しろ‼︎」
「こっちテレビないよぉぉぉぉ‼︎」
「とりあえずここにいる父さん母さんから謝れ‼︎」
「すっっっいませんでしたぁぁぁぁぁぁ‼︎」
布団をバッと剥ぎ、ベッド脇で怒っているセツと、呆気にとられるブランの横から、華麗に飛び出して忍者のような三点着地、そのまま流れるようにに土下座のポーズを決めた。
そして鈍い音が響く。痛い。頭ぶつけた。
「く、クーちゃん……」
「何なりとお申し付け下さい、お父様お母様‼︎」
「その……」
「はい‼︎」
「それは……何のポーズかな……?」
そう、この国には土下座の文化が無かったのだ……アルの時のこと忘れてたよ畜生‼︎
****
「アル! ヴィンス! リリちゃん‼︎」
ドカッと勢いよくいつもの扉を開け放ち、私は走り寄る!
「みんなみんなごめんなさいっっっっ‼︎」
いきなりの襲撃に呆然としていた3人を、順番に抱きしめて回る。
そう、土下座をやめなさいって言われまして、するならお世話になった方にバグにしなさいと言われたのだ。
なので全力でハグ行脚をキメている。とりあえず屋敷の人間には使用人にまで、全員行脚したのでこっちに来たのだ!
あ、もちろんセツにもしたよ!
「心配かけるなバカくー姉……」って言われました! うふふ! うちの弟可愛いね‼︎
「……クリス、もう走り回って大丈夫なのか?」
1番最初に氷から溶けたのが、ヴィンスだった。
「うん! お陰様でこの通りっ‼︎ 今は迷惑掛けてごめんなさい行脚中なのっ‼︎」
とりあえず城の中でも、心配して声を掛けてくれた人たちにはハグしながらこっちに来た!
土下座の代わりがハグだというなら、ハグしまくるしかない‼︎ たしかにこれは一々屈まなくていいから、効率的に謝れるよね!
私完璧に今日は反省の化身だから! アル、リリちゃん、ヴィンスとちゃんとハグもして……ん? そういえばヴィンスだ……ヴィンス……あっっっ‼︎
「うわぁごめんねヴィンス‼︎ 抱き付かれて嫌だったよね⁉︎ どどどどうしようどうしたらいい⁉︎」
ドタバタでヴィンスが私の事『化け物』だと思ってたの、忘れてた‼︎ いやぁぁあ‼︎ 化け物に抱きつかれたら嫌だよ‼︎ 怖いよね⁉︎
ソファの背もたれ越しに、抱き付いていた体を慌てて離すが……。
「……何で離れるんだよ」
ヴィンスがソファの上に膝立ちして、抱き付いてきた! ヴィンス! 御行儀悪いよ⁉︎
「ってあれ? もう大丈夫なの?」
「……悪かったって、謝るのはこっちの方だ」
「えっ?」
「『化け物』だなんて言ってごめん……そんな訳ないよな。どうかしてた。だってクリスは……」
うん? 何かな?
「そう……クリスは、すっっっっげぇ間抜けだもんな‼︎」
……
…………
………………。
「ええぇぇぇ⁉︎ こんな良い感じの流れでそれ⁉︎ それなの⁉︎ 酷くないっっ⁉︎」
「いやもう、間抜けすぎて人畜無害だもんな、ほんと僕頭回ってなかったよごめんな」
「ねぇ⁉︎ それ謝ってないよね⁉︎ ねぇっっ⁉︎」
バカにしてるよねっ⁉︎ やっぱ私のこと嫌いなんじゃないの⁉︎
「あの……僕の前でイチャつくの、止めてもえませんか?」
あ! アルが溶けた‼︎
「アル! コレのどこがイチャついてるのかよく見てよ‼︎ これ確実に虐められてるだけだよ⁉︎ 悪口をひとつも聞き逃さないように、捕まえられてるだけだよっ⁉︎」
「じゃあまぁそういう事でいいや」
「そういう事でいいやってなんなのヴィンス⁉︎ 私の扱いぞんざいすぎじゃないっ⁉︎」
「……ヴィス」
「へいへい」
アルにヴィンスが声を掛けられて、やっと私は解放された。
あらら。ほんとに怒ってらっしゃる。どうしたのよ……って私のせいですよね、すみませんご迷惑を……。
「ごめんなさいアル……もう1回、反省のハグする?」
「あれはそういう意味だったんですか?」
「お父様たちに土下座はやめてこっちにしろって言われて」
「あぁ……いや、まぁ、こっちの方がまだ……」
「?」
なんか悩んでしまった。どうしたんだろう?